積雲における降水の生成及び発達の問題を,力学過程と雲物理過程の相互作用に注目し,運動方程式,質量保存則,熱力学第一法則及び液相と固相(氷相)に対するパラメタラィズされた種々の雲物理過程からなるオイラー型一次元雲モデルによって数値実験的に調べた.特に雨滴の凍結に関し,より実際に近いよう実験及び観測事実に基づいた時間及び過冷却温度依存のパラメタリゼーションを導入し,暖い積雲と氷相を含む積雲との降水発達の違いを議論した.本稿では雲中の凝結水は,雲粒(雲水),雨滴(雨水),及び凍結雨滴の三成分に分類される.液相に関する雲物理過程としては,水蒸気の凝結による雲粒の生成,雲粒から雨滴への変換,雨滴の雲粒捕捉及び雲粒と雨滴の蒸発,また氷相については活性化された凍結核に基づく雨滴の凍結,凍結雨滴の雲粒捕捉,水蒸気の昇華,凍結雨滴の融解,凍結雨滴の蒸発及び融解中の凍結雨滴の蒸発が考慮されている.
数値計算により得られた主な結果は次の通りである.
1)本稿の雲モデルはByers and Braham(1949)や他の研究者達により観測で得られた氷相を含む積雲の特徴を定性的にかなり良く表現しているように思われる.特に時間・過冷却温度依存の雨滴の凍結過程を導入することにより,小規模積乱雲の発達期,最盛期,衰弱期の各段階の水質に関する相変化がより実際に近く再現された.
2)地表における降水強度の極大は暖い積雲の場合,雲の生涯を通して一度しか現われないが,氷相を含む積雲については雨滴の凍結域が過冷却温度領域の比較的暖い範囲にある場合二度現われる.氷相の発生により積雲の最大上昇流,雲頂高度,最大超過温度など全体として積雲の発達は促進されるが,地表における最大降水強度,総降水量及び降水能率は氷相を含まない暖い積雲のほうが大きい.これらの結果はKoenig and Murray(1976)の氷相を含む二次元積雲の数値実験結果と定性的に一致し,大量の氷相の発生(又は導入)による積雲の発達促進が即地表での降水量の増大につながらない可能性があると言う彼等の指摘はここでもあてはまる.
3)種々の大気の条件下での数値計算によると,ある与えられた鉛直湿度分布の基で積雲による地表の最大降水強度及び総降水量が最も大きくなるのに最適な大気の気温減率及び地表気温が存在する.また水平規模の大きい積雲ほど地表の最大降水強度及び総降水量は大きくなる.
4)雲物理過程は積雲の発達,特に寿命の長短に大きく影響する.一般的に雨水の生成の早い積雲ほど寿命は短く降水能率が良い.しかし最大降水強度そのものはむしろ積雲の発達する場の熱力学的な性質によって支配される. 本稿の雲モデルの限界及び今後改良すべき点についても考察されている.
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