Papers in Meteorology and Geophysics
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34 巻, 4 号
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原著論文
  • 山岬 正紀
    1983 年 34 巻 4 号 p. 221-260
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
     前論文 (山岬, 1977a, b) の続きとして、軸対称台風の数値実験を行なった。前回と同様、対流雲の効果はパラメタライズしないで細かい格子を用いて個々の対流雲を表現できるモデルを用いる。ただし今回は、前より大きな計算機が利用できるようになったので、現実的な大きさの水平スケールをもった台風をとり扱うことができた。軸対称の仮定のために、十分に現実的な台風を再現することはできないが、台風の生成・発達や構造およびそのメカニズムについて多くの理解が得られたように思われる。主な結果は次の通りである。
     接線風速 (風の回転成分) が約10ms-1に達する以前の弱い時期においては、対流活動域したがって渦の大きさは時間的に拡大する。これは、対流活動域の最も外側の対流が外向きに伝播する性質をもっているためである。個々の対流雲は通常、約3時間の時間スケールをもった対流として組織化される。これをメソ対流とよぶことにする。ひとつのメソ対流が弱まると、次のメソ対流が少しはなれた所に次から次へとできる。その結果、対流活動やそれに伴う降雨は、外向きあるいは内向きに伝播しかつ長時間持続する。いくつかのメソ対流の集団的効果によって大規模 (台風スケールの) 循環が強まる。一方、大規模循環はメソ対流の持続的発生に寄与している。しかし、対流と大規模運動のこのような協力的相互作用のメカニズムは、この時期 (渦が弱い時期) においては、大山 (1964) やチャーニーとエリアッセン (1964) によって見出された CISK のメカニズムとは異なっている。すなわち、地表摩擦は重要な役割を果さず、そのかわりにダウンドラフト (雲底下の下降流) と雨の蒸発による冷却とが本質的な役割を果す。このような新しいタイプのCISKは山岬 (1975, 1977b, 1979) でも論じたものであるが、より現実的な水平スケールをもったモデルによって、また数値実験の結果のより詳細な解析によって、その存在および性質がより明らかになったように思われる。
     接線風速が強まると地表摩擦は重要になる。すなわち、最も外側の活発な対流の位置や接線風速最大の位置は、地表摩擦の効果によって内向きに移動しはじめる。このような状態は、接線風速が10~15ms-1に達したときに起る。台風の発生は、上で述べたCISKのメカニズムによって渦がこのような状態にまで強まり、地表摩擦が重要な役割を果すようになるかどうかにかかっている。しかしこの時期においても、雨の蒸発による冷却やダウンドラフトは、大規模運動の力学になお重要な効果をもっているようである。
     渦の中心付近での接線風速が約20ms-1をこえると目や目の壁雲が形成される。そして接線風速の急速な強まりや中心気圧の急速な降下が起る。地表摩擦は、目や目の壁雲の形成と維持および台風の急速な発達にとって不可欠なものと考えられる。目や目の壁雲においては、たとえば約10分周期の時間変動など、従来の粗い格子の台風モデルでは表現できなかったような小さなスケールの特徴がいくつか見い出される。
     実際の台風のスパイラルレインバンドは、これまでの多くの研究では熱放出によってひき起された内部重力波として説明されてきたが、スパイラルバンドの構造や伝播速度は内部重力波のそれとは異なっていると思われる。むしろ、ここで得られた長時間持続する対流 (目の壁雲を除く) の構造や伝播速度は実際のレインバンドのそれとよく一致しているようである。
     この研究で得られた結果はまた、従来の台風モデルからの結果と比較し、従来の研究およびこの研究の問題点について述べる。
  • 鈴木 弥幸, 村山 信彦, 戸矢 時義
    1983 年 34 巻 4 号 p. 261-265
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
     1981年の夏、3日にわたっての瀬戸内海上での海上気象観測の資料に基いて、海面の熱フラックスを求めた。不安定な場合はDyerとHicksの式、安定な場合は近藤の式を用い、海面の粗度はCharnock型の式で表わしてバルク係数を求めた。顕熱と潜熱のフラックスの観測期間中の最大はそれぞれ 325 ly/日、212 ly/日であった。フラックスは顕熱と潜熱のいずれも午前は大きく、それに比較して午後は遙かに小さかった。船上では同時にPIBALと係留気球の観測もしたが、これらの観測結果からフラックスを求めることは困難であった。値のおよその大きさや変化の特徴が正しいかどうかだけでもほかの測定と比較して確かめたいのであるが、これまで瀬戸内海上の観測でフラックスを求めた例はない。しかし広島市の海岸で測定した結果を参照して妥当だし、フラックスの変化の特徴は物理的に理解することができるので、測定結果に大きな誤りはないと考えられる。観測期間中は台風の影響と思われるにわか雨や風向の急変があったが、概して晴で、日中は高温であったので、ここで得た値は夏のフラックスの大きさの目安となろう。
  • 杉村 行勇, 鈴木 款
    1983 年 34 巻 4 号 p. 267-289
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
     オルトフタルアルデヒド―アミノ酸付加化合物の螢光分析法を用い、北太平洋西部の海水中の、溶存アミノ酸 (遊離および結合型) の研究を行った。全アミノ酸量は44~213μgl-1であり、黒潮前線北側の海水中のアミノ酸含量は、南側にくらべやや低い値を示す。全アミノ酸中で遊離アミノ酸のしめる割合は0.2以下である。一般に、アミノ酸濃度は表面で高く、深さと共に減少し、中深層ではほぼ一定値となる。アミノ酸の分子量分布をみると、有機物に含まれるアミノ酸の60%は1.5×103から5×104の分子量をもつ。約10%のアミノ酸は、分子量15×104の有機物に含まれる。アミノ酸組成の研究結果は、主要成分が中性脂肪族アミノ酸である。溶存全アミノ酸のうち40~80%がXAD-2樹脂に吸着し、その主な分子量は5×103から2×104の間にある。この分画に大部分の金属有機化合物が含まれている。XAD-2樹脂に吸着されたこのアミノ酸分画の組成は、海水中の全溶存アミノ酸の組成とは異なっている。
  • 広瀬 勝己, 杉村 行勇
    1983 年 34 巻 4 号 p. 291-306
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
     海水中の金属元素と、溶存有機物の相互関係を検討した。一次近似として新しい化学平衡モデルを考えた。このモデルでは、海水中と海洋生物体内中の間の金属の活量が等しく、同時に、各溶存液中で、化学平衡が成立していると仮定した。その結果、次の関係が得られた。
    CbM=(CbL/CL)Corg.M
    この関係を用いると、海洋における溶存有機物と金属との関係を合理的に説明できる。すなわち、溶存金属元素のうち、金属有機化合物と有機配位子、無機態金属元素と、無機栄養塩との間にそれぞれ相関があり、最近、栄養塩型分布として報告されているある種の遷移元素と栄養塩との関係も矛盾なく説明できることが明らかとなった。また、このモデルから、植物プランクトンの金属の濃縮係数の最大値 (105) を評価することができた。
  • 澤田 可洋
    1983 年 34 巻 4 号 p. 307-324
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
     静止気象衛星 (GMS) は分解能に制約があるものの、可視、赤外センサーによる画像を30分~4時間毎に1日14回入手できるので比較的大規模な火山噴火をモニタリングする上で有利である。GMSで検出された1981年4月~5月の千島列島Alaid火山、マリアナ諸島Pagan火山の噴火による噴煙を解析し、噴煙画像により噴火活動の推移を把握し、噴火規模を推測することがある程度可能であることを示した。GMSで検出し得る噴煙の範囲は到達高度数km、その広がりが20km前後であるが、周辺の雲の状況により大きく左右される。
     噴煙上面のTBB温度と、火山付近の高層気象観測資料とから噴煙の到達高度を求めると、Alaid火山では最高11.7kmまで上昇しわずかに圏画面を越えた。Pagan火山では最高16.5kmまで上昇したが圏界面を越えていない。噴煙主要部の移動速度は周辺風速より4~6m/s早く、水平拡散係数は109~1010cm2/sと求められた。噴火活動全体の噴煙による熱放出量は両火山とも1022ergのオーダーであり、Alaid火山の場合がやや大きい。
     雲と噴煙との判別は著しく困難で、ハードウエア、ソフトウエアを含めた手法の開発が待たれる。また、広域に拡散した噴煙の画像にもとずく熱放出量等の推測は、現段階ではかなりの誤差が含まれることを考慮する必要がある。
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