前論文 (山岬, 1977a, b) の続きとして、軸対称台風の数値実験を行なった。前回と同様、対流雲の効果はパラメタライズしないで細かい格子を用いて個々の対流雲を表現できるモデルを用いる。ただし今回は、前より大きな計算機が利用できるようになったので、現実的な大きさの水平スケールをもった台風をとり扱うことができた。軸対称の仮定のために、十分に現実的な台風を再現することはできないが、台風の生成・発達や構造およびそのメカニズムについて多くの理解が得られたように思われる。主な結果は次の通りである。
接線風速 (風の回転成分) が約10ms
-1に達する以前の弱い時期においては、対流活動域したがって渦の大きさは時間的に拡大する。これは、対流活動域の最も外側の対流が外向きに伝播する性質をもっているためである。個々の対流雲は通常、約3時間の時間スケールをもった対流として組織化される。これをメソ対流とよぶことにする。ひとつのメソ対流が弱まると、次のメソ対流が少しはなれた所に次から次へとできる。その結果、対流活動やそれに伴う降雨は、外向きあるいは内向きに伝播しかつ長時間持続する。いくつかのメソ対流の集団的効果によって大規模 (台風スケールの) 循環が強まる。一方、大規模循環はメソ対流の持続的発生に寄与している。しかし、対流と大規模運動のこのような協力的相互作用のメカニズムは、この時期 (渦が弱い時期) においては、大山 (1964) やチャーニーとエリアッセン (1964) によって見出された CISK のメカニズムとは異なっている。すなわち、地表摩擦は重要な役割を果さず、そのかわりにダウンドラフト (雲底下の下降流) と雨の蒸発による冷却とが本質的な役割を果す。このような新しいタイプのCISKは山岬 (1975, 1977b, 1979) でも論じたものであるが、より現実的な水平スケールをもったモデルによって、また数値実験の結果のより詳細な解析によって、その存在および性質がより明らかになったように思われる。
接線風速が強まると地表摩擦は重要になる。すなわち、最も外側の活発な対流の位置や接線風速最大の位置は、地表摩擦の効果によって内向きに移動しはじめる。このような状態は、接線風速が10~15ms
-1に達したときに起る。台風の発生は、上で述べたCISKのメカニズムによって渦がこのような状態にまで強まり、地表摩擦が重要な役割を果すようになるかどうかにかかっている。しかしこの時期においても、雨の蒸発による冷却やダウンドラフトは、大規模運動の力学になお重要な効果をもっているようである。
渦の中心付近での接線風速が約20ms
-1をこえると目や目の壁雲が形成される。そして接線風速の急速な強まりや中心気圧の急速な降下が起る。地表摩擦は、目や目の壁雲の形成と維持および台風の急速な発達にとって不可欠なものと考えられる。目や目の壁雲においては、たとえば約10分周期の時間変動など、従来の粗い格子の台風モデルでは表現できなかったような小さなスケールの特徴がいくつか見い出される。
実際の台風のスパイラルレインバンドは、これまでの多くの研究では熱放出によってひき起された内部重力波として説明されてきたが、スパイラルバンドの構造や伝播速度は内部重力波のそれとは異なっていると思われる。むしろ、ここで得られた長時間持続する対流 (目の壁雲を除く) の構造や伝播速度は実際のレインバンドのそれとよく一致しているようである。
この研究で得られた結果はまた、従来の台風モデルからの結果と比較し、従来の研究およびこの研究の問題点について述べる。
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