南北半球間の大気交換がおこなわれている熱帯においては、中高緯度に比べると経度方向の変化が少なく、大気中の物質輸送はハドレー循環に依存する部分が大きい。本研究では、大気大循環モデルを2次元軸対称に変え、全球海洋の条件下で数値実験をおこなうことにより、擾乱の影響のない純粋なハドレー型循環が微小空気塊をどのように輸送しているのかをラグランジュ的手法により調べた。
赤道を横切る物質交換は空気塊が熱帯収束帯(ITCZ)上で起こりやすい。その際、大気の水平方向の時間変動成分が大変重要な因子となる。また、ITCZが赤道から変移したことによるハドレー循環の赤道非対称性は両半球のハドレー循環間の大気交換の大きさ、速さに影響を与える。
両半球のハドレー循環間での大気交換時間は約0.1~0.2年と見積もられた。この大気交換時間は、従来の現実大気での南北半球間の大気交換時間研究による約1年という見積もりに比べきわめて短い。理想化された2次元軸対称モデルにおける大気交換時間を即座に現実大気に適用することは出来ないが、この差違の存在自体大変興味ある問題である。そして少なくとも本研究で得られた結果は、軸対称モデルのハドレー循環は半球間の物質輸送において極めて重要な役割を担っていることを示唆している。
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