気象衛星センターは2007年3月からNOAA-18の可視チャネルを用いた陸域エーロゾルのリトリーバルを開始した。開始以来約1年間の陸域エーロゾルの光学的厚さを地上のAERONET観測データで検証した。すべての地点で統計的に有意な相関は見られたが、ばらつきも大きかった。今後のアルゴリズムの改良のために、誤差が大きい例について誤差の原因を考察した。
(1) 厚い黄砂に関しては、気象衛星センターの光学的厚さは過大評価またはLUT(Look-up Table)の範囲を越えて値付けができなかった。LUTの作成に用いた鉱物性エーロゾルの複素屈折率を見直す必要がある。
(2) 厚い灰色の靄に関しては、気象衛星センターの光学的厚さは過小評価であった。LUTの作成においては鉱物性エアロゾルを仮定しているので、カーボンを含むような大気汚染であればこの結果は十分考えられる。将来的には、黄砂のようなダストと靄を識別する手法の開発と、靄のためのLUTの作成が必要になろう。
(3) 光学的厚さが中程度以下(<~2) の例では、光学的厚さが大きすぎる例の多くで雲の影響が示唆された。気象衛星センターでは雲域除去を行っているが、小規模雲群や雲の縁の近くでは雲の影響を除くことは困難である。MODISの高解像度画像を参照して雲の影響が疑われる例を除くと、AERONETデータとの対応は大きく向上し、ほとんどのAERONET地点で0.6以上の相関係数を示した。しかしながら、いくつかの地点では系統的な過小評価が顕著であった。
(4) 上記の系統的過小評価が見られた地点のうち海岸付近にあるAERONET地点では、気象衛星センターの近隣海上のエーロゾルの光学的厚さはAERONETデータと非常に相関が良く過小評価も見られないことから、この過小評価はLUTの作成過程で使われる地表面反射率の誤差に由来すると考えられる。地表面反射率の誤差のありうる原因の一つは、地表面反射率を推定する際の最低アルベードがエアロゾルフリーに対応しているとの仮定の誤りである。実際、AERONET地点での光学的厚さの月間最小値は無視できない正の値を示しており、そのような仮定が妥当でないことを示している。AERONETデータの最小値の情報を取り入れることができれば、陸域エーロゾルの推定値は有意に向上するであろう。
気象衛星センターにおける陸域エーロゾルの推定アルゴリズムの改良に向けて、以上の諸点を考慮する必要がある。
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