Papers in Meteorology and Geophysics
Online ISSN : 1880-6643
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63 巻
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  • 増田 一彦
    2012 年 63 巻 p. 1-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
       傾きが風速と風向に依存する非等方海面モデルによる赤外射出率の計算に海面での多重反射成分を導入した。反射成分を考慮しないで求めた海面からの射出を放射源として一次反射成分を、一次反射成分を放射源として二次反射成分を、以下同様に高次の反射成分を求めた。3.7、11、12 μmの3波長について、風速が3、5、10、15 m/sの場合に風向が赤外射出率に与える影響を調べた。
       現在、傾きが風速だけに依存する等方海面モデルによる海面射出率が放射伝達モデルで広く利用されており、これまでに観測値との比較による検証が行われてきた。本研究では、多重反射成分を導入した非等方海面モデルによる赤外射出率を参照値として、等方海面モデルによる赤外射出率の精度を、風速、観測角などを考慮して調べた。例えば、波長11 μm・海面温度288 K・風速10 m/sの場合、等方海面モデルによる赤外射出率の精度が温度誤差に換算して0.3 K以内であるのは、反射成分を含めない場合・含める場合について、それぞれ観測角が56°・68°までであった。
       観測角が通常50°以下であるような衛星観測の解析処理には、風速が10m/s以下である場合には多重反射成分や風向の影響を考慮する必要性は少ないが、船舶などからのより大きい角度での放射観測に対しては、それらを考慮することにより解析精度の向上が図られることが示された。
  • 増田 一彦, 石元 裕史, 真野 裕三
    2012 年 63 巻 p. 15-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/28
    ジャーナル フリー
    非球形粒子の散乱特性を計算する幾何光学積分法おいて、積分素面を平行四辺形で表現し光線の位相差を考慮して積分を行うことにより、計算精度を大きく損なうことなく計算効率が向上することを示した。サイズパラメータが50以下の粒子の計算が可能なFDTD法とサイズパラメータが200以上の粒子に適用が可能な簡便な幾何光学手法の間が埋まり、氷晶雲や鉱物性エーロゾルの衛星観測データ解析の高度化等への活用が期待できる。
  • 小口 哲史, 藤部 文昭
    2012 年 63 巻 p. 21-30
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/03/02
    ジャーナル フリー
       1901~2009年の国内51地点の日降水量データを使って、降水の長期変動を調べた。降水の尺度としては、世界気象機関(WMO)の気候委員会(CCl)や世界気候研究計画(WCRP)で提唱されているものの中から、降水量(PRCPTOT)、降水日数(R1mm)のほか、単純日降水強度(SDII),最大連続無降水日(CDD)、最大連続降水日(CWD)を取り上げた。これらの尺度の年間統計値について、全国平均値の長期変化率(1次トレンド)を見ると、PRCPTOTは0.055%/年の率で減少、R1mmはより大きく0.126%/年の率で減少しており、これに伴ってSDIIは0.076%/年の増加、CDDは0.159%/年の増加、CWDは0.151%/年の減少が認められる。一方季節ごとに各尺度の変化率を見ると、さまざまな地域特性が見られ、そのパターンに季節同士の類似性は少ない。さらに、月ごとあるいは6半旬平均の変化率も、月単位あるいは1~2ヶ月スケールで変動している。こうした変動は降水の長期変化率における季節的特性の一端を捉えていると考えられ、東~西日本で梅雨期間が遅れる傾向など将来気候予測実験で得られた特徴と共通する部分もある。しかし、今回の結果にはデータ数の制約による不確実性が影響している可能性もあり、降水の長期変化の地域性や季節性をより正確に捉えていくためには、それをもたらす循環場に対する研究を進めることが必要であると考えられる。
  • 緑川 貴, 田上 英一郎
    2012 年 63 巻 p. 31-42
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/18
    ジャーナル フリー
       西部北太平洋の海水中から濃縮・脱塩した銅(II)有機錯体について2通りの測定を行い、銅(II)に対して錯形成能を有する有機配位子の鉛直分布と化学的性質について調べた。キレート試薬エチレンジアミン四酢酸(EDTA)との配位子置換反応を利用して、銅(II)に対して強い錯形成能を有する有機配位子(条件安定度定数 log KCuL > 14)を錯体化学的に分別し、定量した。また、異なる濃度の銅(II)イオンを滴定した後、疎水性樹脂を利用して銅(II)有機錯体を濃縮分離し、その測定結果の解析から、疎水性有機配位子の条件安定度定数がlog KCuL ≤ 10.26であることを試算した。
       強い有機配位子(log KCuL > 14)は、海面から1000 m の全層で検出され、その濃度は0.02~0.19 nMの範囲にあると見積られた。疎水性有機配位子の濃度は、強い有機配位子に比べて、特に表層水中で低めであった。強い有機配位子の鉛直分布は、表層有光層で小さな極大を示したが、その深さはクロロフィルa濃度とは異なった。疎水性クロマトグラフィーにより定量した銅(II)総濃度と各有機配位子の条件安定度定数を用いた解析から、強い有機配位子は、海面から1000 mの全水柱で定量的(> 99.9%)に錯形成した化学形で存在していることがわかった。対照的に、疎水性有機配位子(log KCuL = 10.26)のうち錯形成している割合は、120 m深度での15%から銅(II)濃度が高い1000 mの78%まで増加した。強い有機配位子は、疎水性有機配位子とは異なる配位座や化学的構造を有すると考えられた。すなわち、強い有機配位子は、極性を持ったいくつかの官能基からなる多座配位子であり、相対的に親水性であることが示唆された。
       2つの実験結果の相補的な解析から、銅(II)に対する錯形成能が異なる、少なくとも3種の有機配位子の存在が確認され、またそれらの疎水性にも違いがあることがわかった。各有機配位子は、海洋水柱の各深度で、それらの錯形成能に応じて、異なる割合で銅(II)と錯形成していた。海洋内での銅(II)と有機配位子の存在量や分布、動態を理解する上で、有機配位子の性質や相互作用に関する知識が重要であることが示された。
  • 藤部 文昭
    2012 年 63 巻 p. 43-56
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/14
    ジャーナル フリー
       1916~2010年の月平均気温データを使って、日本の気温の上昇率をバックグラウンド(非都市)の分と都市化による分に分けて評価した。既存の電子媒体データに加え、アメダス導入以前に行われていた区内観測の冊子データをディジタル化して利用した。データを均質化するため、日界や1日の観測回数の違いによるバイアスを補正し、区内・アメダスおよび地上気象観測における非都市地点のデータそれぞれに主成分分析を施して空間的に内挿した。得られた結果によると、バックグラウンド(非都市)の日平均気温の上昇率は全国平均で0.88℃/100年であり、日最低気温(1.21℃/100年)のほうが日最高気温(0.67℃/100年)よりも昇温率が大きい。一方、周囲の人口密度が大きい地点ほど昇温率の大きい傾向があり、人口密度が3000人/km2を超える地点の昇温率はバックグラウンドの値を1℃/100年以上上回る。また、人口密度300~1000人/km2の地点でもバックグラウンドの値に比べて有意に昇温率が大きく、中小都市でも都市化による高温化バイアスが存在することが分かる。
  • 瀬古 弘, 林 修吾, 斉藤 和雄
    2012 年 63 巻 p. 57-67
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/20
    ジャーナル フリー
       熱帯域の対流セルの発生メカニズムを、高解像度3次元非静力学モデルを用いて調べた。気象庁気候データ同化システムの再解析値を初期値・境界値に用い、格子間隔1kmのダウンスケール実験を行って、スマトラ島付近の対流セルを再現すると、対流セルは、下層の波の上昇流域が大きなスケールの収束域や弱い冷気塊の先端を通過するときに発生していた。大きなスケールの収束は、2kmより下層の気温を降下させてほとんど飽和した状態にし、弱い冷気塊の先端付近でもほとんど飽和していて、ともに対流発生に好都合な環境であった。下層の波の上昇流は、さらに気温を降下させて、湿度を増加させ、そこで新しい対流セルを発生させていた。この下層の波は、上昇流と気温の位相差が約90度であり、重力波の構造を持っていた。大規模な収束が対流の発生しやすい期間を決定し、下層の波の強さが対流の発生のタイミングを決定していた。
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