日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
選択された号の論文の103件中1~50を表示しています
  • 服部 力
    セッションID: S1
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    多孔菌類の多くは,外部形態に変異が大きい一方で,菌糸組成などの確認に熟練の必要がある形質が同定に必要不可欠であることなどから,正確な分類同定が困難な種が多い.これに加えて,多孔菌類には硬質で永続性の高い子実体を形成する種が多いことから,19世紀には欧米の研究者等によるアジア各地での生物探索の際に,多数の標本が採取された.また20世紀初頭以降には,アジア在住もしくはアジア長期滞在の研究者によって採集されたアジア産標本が,欧米の専門研究者に送られた.19世紀以降,これらアジア産多孔菌標本に基づく多数の学名が提唱されている.しかし,これらの学名の多くは,その基準標本の再検討が行われていないか,あるいはアジア産種についての情報が不完全な状態での検討のみが行われ,結果として実態不明種が多数残されていた. アジア地域から多数の多孔菌類を記載した研究者として安田篤,今関六也,E.J.H. Cornerらがあげられる.しかし,特に安田およびCornerによって記載された種には,原記載が簡単あるいは不明瞭・不正確で種の概念把握が困難な種が多いこと,現代的属解釈に基づかない属に帰属された種が多いこと,標本が未整理であったこと(Corner)などから,その多くが実態不明種として残されていた.安田および今関によって記載された32種を検討したところ,15種は既に記載された種の異名であり,17種を正名として認めた.そのうち,5種については現代的属解釈に基づき,以下の新組合せを提唱した:Antrodiella gypsea, Melanoporia castanea, Perenniporia japonica, Perenniporia minutissima, Trichaptum parvulum.正名として認めた種のほとんどは東アジア温帯域の固有種と考えられたが,Perenniporia japonicaについてはヨーロッパからも記録されているP. fulvisedaの先行名であった. Cornerによって東南アジア・西太平洋地域から記載された多孔菌のうち204種を検討した結果,86種を正名として認め,詳細な再記載を行った.正名として認めた種の一部については現代的属解釈に基づき,59新組合せ(一部,Corner以外によって記載された名を基礎異名とするものを含む)を提唱した.このうちBoletopsis subcitrina,Grifola eos,Rigidoporus flammansの3種については近縁種の含まれる既知属がないため,それぞれを基準種としてCorneroporus,Roseofavolus,Laetifomesの3新属を提唱した.Cornerによって記載され正名として認められた種のほとんどは,アジア・西太平洋地域の固有種と考えられたが,これらの分布様式は概ね,1)東南アジア・西太平洋地域の熱帯地域を中心に分布,2)東南アジアの高地を中心に分布,3)東南アジアの高地および東アジアの温帯域に隔離分布,のいずれかの分布様式を示すと考えられた.東南アジア高地に分布する種の過半数は低地熱帯林との共通種と考えられるが,2)または3)の分布様式を示すものも多数認められた,2)にはGrifola kinabaluensis(ボルネオ島・キナバル山),Rigidoporus malayanus(マレー半島・キャメロンハイランド),R. incarnates(スマトラ島・ブラスタギ)などタイプロカリティ以外からこれまで記録のない希少種が多く含まれていた.3)には,東南アジアでは1カ所だけから記録されているものの,日本国内の温帯地域では比較的普通に採集されているAntrodiella aurantilaeta,A. brunneimontana,Tyromyces incarnatus (=T. roseipileus)などが含まれていた.
  • 佐藤 博俊
    セッションID: S2
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    菌類は、地下部において膨大なバイオマスをもち、しばしば他の生物と密接な共生関係を結んでいる生物群であり、森林生態系の中で中核的な存在となりうる生物群である。その中でも、菌根菌は植物と密接な相利共生関係を結んでいることが知られており、とりわけ重要な機能群である。しかしながら、菌根菌がどういった植物種と共生するのかということ(宿主特異性)については、先行研究では十分に正確な情報が得られていなかった。菌根菌の宿主特異性の解明の妨げとなっている要因の一つは、菌類における隠蔽種の問題が挙げられる。菌類は形態形質に乏しく、人工交配実験を行うのも必ずしも容易ではないため、形態的には識別ができないが生殖的に隔離されている種、すなわち隠蔽種が存在する可能性が高い。従来の研究では、隠蔽種識別のための解析が適切に行われていなかったため、異種混同することによって、宿主特異性が正確に評価できていない可能性があった。宿主特異性の研究でもう一つ重要な課題は、いかに宿主植物を正確な同定するかということであった。先行研究では、菌根菌の宿主植物はその菌の近くにに生育している(優占している)植物種と考える場合が多かったが、この方法では宿主樹種を正確に同定できていない可能性があった。そこで、本研究では、近年発達してきた DNA 解析技術を用いることで、これらの問題を解決し、菌根菌の正確な宿主特性を調べることを目的として研究を進めた。本研究では、菌根菌の中でも、いわゆるキノコ類が多く含まれる外生菌根菌に焦点を絞り解析を行った。研究材料としては外生菌根菌であることが知られているオニイグチ属菌(Strobilomyces, Boletaceae)を用いた。 最初に、オニイグチ属菌に実際にどれほどの隠蔽種が存在しているかを調べた。国内と台湾の森林からオニイグチ属の形態種 4 種の子実体を集め、そこから核 DNA(RPB1, ITS2)・ミトコンドリア DNA(atp6)の塩基配列を解読し、別々に分子系統樹を構築した。その結果、これまでオニイグチ(S. strobilaceus)、オニイグチモドキ(S. confusus)、コオニイグチ(S. seminudus)、トライグチ(S. mirandus)という 4 つの記載種が知られていたオニイグチ属菌で、核 DNA とミトコンドリア DNA の塩基配列で共通する DNA タイプが合計で 14 個識別された。それぞれの形態種ごとでは、オニイグチモドキとコオニイグチの複合種は 4 つのDNA タイプに、オニイグチは 7 つの DNA タイプに、形態形質が顕著に他の 3 種と異なるトライグチは 1 つの DNA タイプに、それぞれ分けられることが分かった。また、2 つの DNA タイプはいずれの形態種とも合致しない特殊な形態をもっていた。これらの DNA タイプは、独立の遺伝様式をもつ 2 つの DNA 情報で支持されたことから、オニイグチ属菌では、互いに生殖的に隔離された隠蔽種が多数存在している可能性が強く示唆された。
  • 中島 淳志, 出川 洋介
    セッションID: A1
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    マツカサキノコ (Strobilurus) 属は主に球果上に子実体を形成する特異な生態的特徴に基づきSinger (1962) により設立された属である.演者らは菌類の多様性生成要因を解明するためにこの基質再起性に注目し,本属の系統分類および生態の研究を進めている.本属には10種が知られているが,本邦からはマツカサキノコ ,マツカサキノコモドキ,マツカサシメジ,スギエダタケの4種が報告されている. Petersen & Hughes (2010) はITS領域の分子系統解析を行い,主に北米産種の種間関係を明らかにしたが,スギエダタケは解析に含まれなかった. 2010年~2011年にかけて演者らは長野県菅平を中心にのべ60か所でマツカサシメジを除く3種の本属菌を採集し,培養菌株を確立した.このうちマツカサキノコモドキ8株,マツカサキノコ5株,スギエダタケ3株のITS-5.8SrDNA領域について分子系統解析を行ったところ,以下の事実が判明した. 1)マツカサキノコとマツカサキノコモドキは,基質(トウヒ属,マツ属の球果)およびシスチジアの形態が明瞭に異なるため従来独立種として扱われてきた.しかし,この二種はそれぞれ単系統群をなさず両種の配列が全く同一の例もあった.このため,これらが同種である可能性も考えられ,今後交配試験により隔離の有無を検討したい.また,基質とシスチジアが一致しない例も見出されたため,基質再起性に関しては詳細な再検討を要する. 2)スギエダタケは当初Marasmius属菌として記載され (Hongo & Matsuda, 1955),その後Pseudohiatula属 (Hongo, 1975) ,さらにマツカサキノコ属 (勝本, 2010) に転属されたが,いずれも根拠は明示されなかった.本種の形態的形質を再検討した結果,他の本属菌との共通点が多く認められ,分子系統解析でも類縁性が示唆された.本種は落枝を発生基質とする点で本属菌としては例外的であり,基質再起性の進化を考察する上で重要な種だと考えられるため,今後さらなる検討が必要である.
  • 工藤 伸一, 長澤 栄史
    セッションID: A2
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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     青森県内のブナ林および草地で採集された3種類のきのこを調査した結果,それぞれヌメリガサ科のヌメリガサ属(Hygrophorus)およびアカヤマタケ属(Hygrocybe)に所属する新種と考えられたのでここに報告する. 1)Hygrophorus albovenustus (sp. nov., nom. prov.)-オシロイヌメリガサ(新称):子実体は10月にブナ林内に群生.やや小型で全体白色.傘および柄は粘液で覆われる.ひだは白色、古くなると褐変する.胞子は倒卵形~長楕円形,6.5-8.8(-9.5)×3.8-5.2(-6.5)μm,無色,平滑,非アミロイド. 担子器は4胞子性,26-35×6-7.5μm.ひだ実質は散開型.傘表皮は粘毛被.ヨーロッパのH. discoxanthus (Fr.) Rea に類似するが,同種は子実体がより大形で,古くなると傘の縁が赤褐色に変色すること,担子胞子が多少大形であることなどの特徴において異なる. 2)Hygrocybe pallidicarnea (sp. nov., nom. prov.)-ウスハダイロガサ(新称):子実体は10月に草地に群生.やや小型で,傘は中高の平たい丸山形,表面は粘性なく内生繊維状,肌色で乾燥すると淡紅色.ひだおよび柄は白色.胞子は広楕円形~楕円形,6-7.5×4-4.8μm,無色,平滑,非アミロイド.担子器は4胞子性,44-54×5.8-7μm.ひだ実質は錯綜型.傘表皮は平行菌糸被.Cuphohyllus亜属に所属する.H. pratensis (Pers.: Fr.) Murrill に類似するが,同種は傘の色がより濃色で淡紅色とならず,胞子がより大形であることで異なる. 3)Hygrocybe atroviridis (sp. nov., nom. prov.)-フカミドリヤマタケ(新称):子実体は8月に草地に少数群生.小型で,傘は平たい丸山形,表面は濃緑色,粘性はなく多少ささくれる.胞子は卵形~楕円形,7-10×(5-)5.5-6.8(-7.4)×(3.5-)4.5-6(-7)μm,無色,平滑,非アミロイド.担子器は4または2胞子性,30-52×6-12μm.ひだ実質は並列型,菌糸は長さ-500μm,幅10-35μm.傘表皮は平行菌糸被.Hygrocybe亜属に所属する.子実体が緑色で粘性がない特徴において,インドに分布するH. smaragdina Leelav., Manim. & Arnolds,ブラジルで発生が知られているH. viridis Capelari & Maziero およびカリブ海域の小アンチル諸島から報告のあるH. chloochlora Pegler & Fiardなどに類似するが,それらとは胞子の形状および大きさなどの点で異なる.
  • 早乙女 梢, 服部 力
    セッションID: A3
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Polyporus属は担子菌類サルノコシカケ目に属し, 世界的に分布する多孔菌類の主要属の一つである. Núñez and Ryvarden (1995) は子実体の外部形態に基づいて、本属を6つの属内グループに分類した. その1つであるFavolousグループには, 子実体は側生, 柄は短く殻皮を欠き, 傘肉は薄く革質の種が含まれている. 現在, 本グループ種として, アジアからはP. alveolaris, P. grammocephalus, P. tenuiculusそしてP. philippinensisの4種が報告されているが, これらの種には形態的に多様なものが含まれ、異なる分類群が含まれている可能性がある. また, これまでに, いずれの種にも一致しない本グループ種も採集されている.
    そこで, 今回演者らは, 中国, マレーシアおよび日本で採集された本グループ種標本及び菌株を用い, 形態観察と分子系統解析による分類学的研究を行った. 本系統解析には, 他の属内グループに所属するが系統的に近縁なことが明らかになっている本属種や形態的類似種も合わせて使用した. rDNA-LSU とITS領域による分子系統解析の結果, 本グル―プ種は2つの大きな系統群に分割した. 第1の系統群にはP. alveolaris, Favolpus sp. No.1 およびFavolous sp. No.2が含まれた. また, Favolous sp. No.2はMelanopusグループのP. mikawaiと同一系統群を形成した. 第2の系統群には, ‘P. grammocephalus’, ‘P. tenuiculus’と従来AdmiranbilisグループにおかれていたP. pseudobetulinusが含まれた. さらに, ‘ P. grammocephalus’と‘ P. tenuiculus’はそれぞれ2つの系統群を含んでいる事が明らかになった. 本グループ種及びP. mikawaiの基準標本も用いた形態観察の結果, Favolous sp. No.1とP. mikawaiは形態的にも一致し, ‘P. grammocephalus’ に含まれた2系統群はP. grammocepalus及びP. acervatus, ‘P. tenuiculus’に含まれた系統群はLaschia spatulatas及びFavolous roseusとするのが適当であった.また, 日本産Favolous sp. No.2はいずれの既知種にも一致せず未記載種であることも明らかになった.
  • 広井 勝
    セッションID: A4
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    (目的)近年きのこの分類は形態的なものからDNA分析にもとづく分類体系に変化してきている.演者はアンズタケ類似きのこ子実体の脂肪酸組成の分析を行い,アンズタケ目きのこには共通してdehydrocrepenynic acid(以下DCAと略す)が存在していることを認めてきた.そこでこれらを再確認するとともに,アンズタケ目きのこと形態の類似しているきのこ,ならびにSistotrema属,Botryobasidium属きのこの菌糸体を用いDCAの存在を検討した.
    (方法)アンズタケ目のきのことしてはアンズタケ属,クロラッパタケ属,カレエダタケ属,カノシタ属,シラウオタケ属きのことSistotrema confluensの子実体ならびに菌糸体としてSistotrema属きのこ2種S.brinkmanni,S.muscicolaおよびBotryobasidium subcoronatumを用い分析を行った.脂肪酸組成の分析は,子実体,菌糸体よりクロロホルム:メタノール(2:1)混液で脂質を抽出後,塩酸メタノールでメチル化しガスクロマトグラフィーで行った.DCAの同定はガスクロマトグラムの保持時間やGC-MSにより行った.
    (結果)アンズタケ属,クロラッパタケ属,カレエダタケ属,カノシタ属のきのこにはいずれもDCAが存在していた.シラウオタケにも28%のDCAが認められた.また,シラウオタケには量的には少ないが,DCAの中間生成物質と考えられるcrepenynic acidの存在も確認された.Sistotrema confluensは分類的にカノシタ属に近くDCAも50%以上含まれていた.S.brinkmanni,S.muscicolaの菌糸体にもDCAが5‐13%含まれていたが,Botryobasidium subcoronatumにはDCAは全く認められなかった.Botryobasidium 属はアンズタケ目の他のきのことは分類的に異なる可能性が考えられる.
  • 大前 宗之, 折原 貴道, 白水 貴, 前川 二太郎
    セッションID: A5
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    地中に子実体を形成する菌類,いわゆる地下生菌の大部分は外生菌根菌であり,これらは外生菌根性の樹木が分布する地域を潜在的な分布域とする.日本には,様々な外生菌根性の樹木が広く優占しているため,これら地下生菌の多様性も高いことが推察される.しかし,日本における地下生菌の分類学的な研究は著しく遅れており,その多様性の全貌把握には至っていない.HydnotryaはPezizales,Discinaceaeに含まれる地下生菌であり,日本ではこれまでH. tulasnei(クルミタケ)の一種しか報告されていない.しかし,菌根由来のDNAを用いた系統解析により,日本にはより多くの系統群が分布している可能性が示されている.そこで,演者らは,日本におけるHydnotrya属菌の多様性を明らかにすることを目的とし,採集した子嚢果及びGenBankのデータを用い,核rDNAのITS領域,及び28S領域の分子系統解析を行った.その結果,日本におけるHydnotrya属菌は大きく3つのクレード(クレードA, B, C)に分かれた.クレードAはアジア,北アメリカ,ヨーロッパの種から構成され,その中で,日本産標本は,韓国の外生菌根から検出されたHydnotrya属菌と単系統群を形成した.クレードBは日本産標本のみから構成され,クレードAの姉妹群となった.クレードCは日本産の標本とヨーロッパ産H. cubisporaから構成された.
  • 折原 貴道, Teresa Lebel, Matthew E. Smith, 大前 宗之, 前川 二太郎
    セッションID: A6
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    胞子を自力で散布することができない菌類の一形態であるシクエストレート菌は,担子菌門および子嚢菌門のさまざまな系統から収斂的に進化してきたことが知られている.その多くは地下生の子実体を形成するため,きのこ類の中でも特に分類学的研究が遅れているグループの一つである.イグチ目イグチ科Boletaceae は特にこれらの菌の多様性が高い高次分類群の一つであり,今後多くの新規系統および新分類群の発見が期待される.Chamonixia 属はイグチ科ヤマイグチ属に近縁なシクエストレート属であり,北米,ユーラシアおよびオーストラレーシアから9種が報告されている.本研究では,日本を含むアジア産,およびオーストラレーシア産の既知種および本属菌と考えられる標本を対象として,これらの核およびミトコンドリアDNAの5領域を用いた系統学的検討および形態学的検討を行った.その結果,アジアおよびオーストラレーシア産標本は,ヤマイグチ属に近縁であるものの,属のタイプ種であるC. caespitosa とは独立して進化したシクエストレート菌であることが示された.更に,これらの系統はアジア産・オーストラレーシア産標本からなる系統と,日本産標本のみからなる系統とに大別され,両者は形態学的にも識別可能であった。これらの結果から、前者にRosbeeva T. Lebel & Orihara,後者にTurmalinea Orihara gen. prov. の新属名を提案する.Rosbeeva にはR. eucyanea Orihara(アオゾメクロツブタケ)およびR. griseovelutina Orihara(新和名:ネズミツチダマタケ)を含む5ないし6つの種レベルの系統,Turmalinea にはウスベニタマタケを含む3つの種レベルの系統が日本に産することが明らかとなった.今後これら2新属の系統地理に関する検討を行う予定である.
  • 白水 貴, 廣瀬 大, 霜村 典宏
    セッションID: A7
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    菌類の系統関係を分類体系に反映する試みはDe Bary (1866)に始まり,近年の分子系統解析の導入によって一つの合意に至りつつある.本研究ではキクラゲ様担子菌類の一群であるアカキクラゲ綱をモデルとし,菌類のより自然な分類体系構築を試みる.特に,本綱では28S rRNA gene-D1D2を用いた解析しかなされていないため,複数遺伝子を用いた信頼性の高い系統解析に基づく議論を目指す.
     アカキクラゲ綱8属41種の培養株を国内外より収集し,4遺伝子領域(28S rRNA gene-D1D2,ITS,18S rRNA gene,rpb2;合計塩基数3200bp)に基づく分子系統解析を行った.得られた系統樹を用い,本綱の分類形質として重視されてきた5つの形態形質,担子器の形態,クランプコネクションの有無,担子器果の形態,担子胞子の隔壁数,厚壁不稔菌糸の有無の祖先形質推定を行った.推定された各形態形質の進化速度を基準とし,Taylor et al. (2006)の“進化速度の速い形質はより詳細な分類的識別において,遅い形質はより粗い分類的識別において高い解像度を持つ”という概念を本綱内の分類体系構築において実践した.
     系統解析の結果,アカキクラゲ綱としては例外的な形質である二又分岐しない担子器を有するDacrymyces unisporus (L.S. Olive) K. Wellsがアカキクラゲ系統の最も基部に位置し,背着生の子実体を持つことで特徴づけられてきたCerinomycetaceae が多系統群になることが再確認された.祖先形質推定の結果,これまで科・属レベルの分類で重視されてきた担子器果の形態は進化速度が速いことから,高次分類群を定義する形質には適していないと考えられた.また,クランプコネクションと担子胞子の隔壁数は進化速度が遅く,科や目といった高次分類で用いることが妥当であると判断した.結論として,新目を設立してD. unisporusを転属させることの妥当性と,形態形質の組み合わせに基づきCerinomycetaceaeを単系統群からなる分類群として定義可能であることが確認された.
  • 安藤 洋子, 長澤 栄史, 早乙女 梢, 中桐 昭, 前川 二太郎
    セッションID: A8
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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     フジウスタケ(Turbinellus fujisanensisGomphus fujisanensisNeurophillum fujisanensisCantharellus fujisanensis)は1941年に今井三子が山梨県産の標本に基づき新種として記載した分類群である.本分類群はラッパ型で肌色の子実体を形成することを特徴とする.今井はこの分類群がウスタケ (T. floccosusG. floccosus) に類似するが,傘肉が厚く柄が赤色を帯びないとしてフジウスタケ (富士臼茸) と命名した.また,オニウスタケ (T. kauffmanii) は1947年にA. H. Smith がアメリカ産の標本に基づきCantharellus kauffmaniiとして記載した分類群で,形態形質はフジウスタケに類似しておりアメリカ西側の山岳地帯に発生する.現在日本には,フジウスタケの記載とは一致するが形質の異なる複数の菌群が存在し,これらは北海道から九州にかけて各地のモミ属・ツガ属などの針葉樹林を中心に広く分布する.これらはまとめてフジウスタケと呼ばれているが,より大きな子実体を作るものをオニウスタケと呼んで区別する場合もある.本研究では,これらフジウスタケと呼ばれる菌群について,詳細な表現形質の解析とともに,核とミトコンドリアのゲノム上に存在するそれぞれ複数の遺伝子領域,LSU,ITS,ATP6,MtSSUを用いて最尤法による分子系統解析を行い,これらの菌群の異同および表現形質との関連を検討した.その結果,日本に産する ‘フジウスタケ’ と呼ばれる菌群は,3つ以上の分類群に分かれることが強く示唆された.さらに,Genbankに登録されているアメリカのT. kauffmanii のITS以外の3領域の塩基配列を比較したところ,完全に一致する分類群は認められなかった.以上のことから,今井が記載したフジウスタケの再定義を行うとともに,他の分類群については新たな名前を与える必要があると結論された.
  • 糟谷 大河, 保坂 健太郎, 宇野 邦彦, 柿嶌 眞
    セッションID: A9
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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     Trichaster属はヒメツチグリ型の子実体を形成する腹菌類の一群で,ただ一種,T. melanocephalus Czern.のみを含む単型属である.本種はロシアから記載され,ヨーロッパ,中央アジアおよび中国に分布し,森林,草地や荒地の地上に発生する.本種の形態的特徴として,成熟した子実体は弓形で巨大化し,水平方向の直径が30 cm以上に達する点,また,子実体の成熟に伴い内皮が消失し,粉状の基本体が外部に露出する点が挙げられる.ヒメツチグリ属Geastrumの内皮は非消失性であるため,本種の消失性の内皮は,Trichaster属を定義し,また関連属と区別する上で重要な形態形質とされてきた.
     Trichaster属はその形態的特徴からヒメツチグリ科に含められているが,これまでに属や種レベルでの分子系統解析は行われておらず,系統学的な位置づけは不明である.そこで演者らは,T. melanocephalusの系統学的位置を明らかにするため,スウェーデンより収集した本種の標本について,分子系統解析と形態観察を行った.DNA抽出には担子胞子を含む基本体の小塊を用い,PCR法により複数遺伝子(核とミトコンドリア)を増幅し,塩基配列を決定した.系統解析は最節約法とベイズ法によった.子実体の顕微鏡的特徴の観察では,光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いた.
     分子系統解析の結果,T. melanocephalusはヒメツチグリ属菌からなるクレードに完全に含まれ,特にヨーロッパ産のエリマキツチグリG. triplex Jungh.と近縁であることが示された.このことから,消失性の内皮は系統を反映した形質ではなく,属を定義する形質としては適切ではないと考えられる.形態観察の結果,本種の担子胞子や弾糸などの顕微鏡的特徴は,ヒメツチグリ属菌のものと区別できなかった.これらのことから,T. melanocephalusをヒメツチグリ属に転属し,Trichaster属はヒメツチグリ属の異名とすることが妥当であると考える.
  • 山本 絵里
    セッションID: A10
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Xylobolus 属 (ベニタケ目ウロコタケ科) は,子実体が背着生から半背着生,木質,子実層表面に顕著な有刺糸状体を持ち,白色孔状腐朽を行うことで特徴づけられる.本属は有刺糸状体を多数形成することに基づきStereum 属から分離された.本属には形態的にStereum 属と類似した種が含まれ,分子系統解析でも類縁関係が支持されている (Larsson and Larsson 2003).Xylobolus spectabilis (モミジウロコタケ) は顕著な有刺糸状体を持つことを理由にStereum 属からXylobolus 属 に移された種である.しかし,それ以外の形態形質がStereum 属と類似しているため,Xylobolus 属として扱うには疑問が残る.そのため本研究ではStereum 属とXylobolus 属の塩基配列を用いた分子系統解析に基づく,X. spectabilis の分類学的位置を明確にすることを目的とした.本研究では日本産Stereum spp. およびXylobolus spp. の菌株から得たnrDNA LSU (D1-D3) およびITS領域の塩基配列を用い,Genbankより取得した塩基配列を加えて,最節約法および近隣結合法により解析した.得られた系統樹では,Stereum spp. およびX. spectabilis からなるクレードと,Xylobolus spp. の2つのクレードが見出された.前者のクレードを構成する種は子実体が半背着生で革質,白色腐朽を示し,後者はXylobolus 属の特徴を有す種で占められたため,この2つのクレードは形態形質や腐朽型でも区別された.一方,顕著な有刺糸状体を持つ種はどちらのクレードにも含まれていた.以上より,有刺糸状体はこの2つの属を区分する形質にはなりえず,本種をStereum 属に所属させるのが妥当であると判断し,学名として旧来使用されていたStereum spectabile Klotzch を提案する
  • 保坂 健太郎, 糟谷 大河, 宇野 邦彦
    セッションID: A11
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    DNAシーケンスデータが分子系統解析に用いられるようになり,菌類全体の大系統も明らかにされつつある現在,既存の菌類のほとんどについて少なくとも目レベルの系統関係は,議論の余地もないほど明確になったと言える.特に菌類の中でも比較的形態的特徴に富み,大型の子実体を形成するキノコ類(担子菌門ハラタケ亜門)については,大多数の属の高次レベルの系統的位置は既に解明済みと言えるかもしれない.今後未知の担子菌類が新しい系統グループに属する可能性はもちろんあるが,既存の属については科以下の詳細な系統的位置を明らかにすることが,当面の課題であろう.  しかしそのようなキノコ類にも,目レベルで分類学的所属が不明であるタクサが存在する.そのひとつがBroomeia属である.本属は主にアフリカのサハラ以南を分布域とする大型担子菌である.子実体はホコリタケ類またはヒメツチグリ類に類似し,紙質の内皮と頂孔を有し埃状の胞子塊を形成するが,多数の集合体を形成することで他の属とは大きく異なる.標本点数は多くなく,そのことから現地での発生も高頻度ではないと考えられるが,非常にカリスマ的な外見であることから,アフリカの数国では切手のデザインにもなっている.分類学的に本属はBroomeiaceae科に置かれ、Diplocystis属と近縁とされている.Diplocystis属については既に分子系統解析の結果から,イグチ目に属することが明らかにされている.ただし科の単系統性については疑問があり,Broomeia属が同じくイグチ目に属するのか,その他の目に属するのかは全く分かっていない.  本発表では,世界中のハーバリウムから入手したBroomeia属の標本からDNAを抽出し,複数遺伝子(ITS, LSU, RPB1, RPB2, EF-1alpha)による分子系統解析を行った結果について報告する.
  • 彌永 このみ, 須原 弘登, 前川 二太郎, 白水 貴, 早乙女 梢, 中桐 昭
    セッションID: A12
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    沖縄県西表島において,緑藻類が繁茂する赤土上から,赤色,円筒形の子実体を採集した.従来,このような子実体を形成し,藻類と共生する担子菌類(担子地衣類)として,Multiclavula (Agaricomycetes, Cantharelalles)およびLepidostroma (Agaricomycetes, Lepidostromataceae)が報告されている.両属は子実体の肉眼的特徴が類似し,ともに菌糸にはクランプ結合を有している.しかし,Multiclavula 属は類つぼ形の担子器を形成するのに対して,Lepidostroma 属は棍棒形から円筒形の担子器を持つことで異なる.本研究において,核のLSU領域を用いて系統解析を行った結果,本種はLepidostroma に所属することが明らかとなった.本属はL. calocerum を基準種とし,熱帯域のコロンビアからL. calocerum L. terricolens ,ルワンダからL. akagerae L. rugaramae の合計4種が報告されている.本種(Lepidostroma sp.)は,子実体の構成菌糸および培養菌糸にクランプ結合を欠き,4本の小柄を有する頂部がやや膨らんだ棍棒形の担子器および円筒形からややソーセージ形の担子胞子を持つことで特徴づけられる.Lepidostroma sp.と既知種を形態学的に比較検討した結果,既知種4種はいずれも既報の菌糸にクランプ結合を有す点において本菌とは明らかに区別できる.したがって,Lepidostroma sp. を新種と認めた.また,本属はクランプ結合をもつことが属の特徴の一つとして挙げられるが、本研究では、クランプ結合の有無は本属を特徴づける形質ではないことを示唆した.本研究はLepidostroma 属におけるアジア初の報告である.
  • 辻山 彰一, 辻山 駒子, 井ノ瀬 利明, 酒井 健雄, 小堀 栄二
    セッションID: A13
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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     近年,自然環境教育や生物多様性の保全について,学習する機会が増えている.自然観察では,生態系の生産者である植物,消費者である動物・昆虫について学習する機会は多い一方で,分解者としての菌類については学習する機会が少ない.これは菌類の実体が微生物であり,肉眼では認識しにくく馴染みが薄いためである.しかし,きのこを教材にすると実物が見えるため興味が持ちやすく,野外での感覚的な理解が,菌類の生態を認識する助けになると期待できる.ただし,きのこは慣れない人には鑑定が難しいために,鑑定用のツールが必要となる.そこで,初学者が主な野生きのこの種やグループを見分けるために必要な知識を学ぶことが出来る検索カードの製作を進めている.  検索カードには,ホールソートカードシステム(hole sort card system)を採用した.  きのこに対する一般的なイメージとして,きのこの形は「柄」と「傘」を持つという認識が多いため,ハラタケ目(Agaricales)のきのこに限定し,小さなきのこ図鑑を参考にして頻繁に掲載されている食用きのこと毒きのこを中心に100数十種類を選抜した.発生する場所や植生,さらには栄養特性(腐生性・菌根性)の違いに注目し,多様性を持つように注意した.また,食用きのこと間違えやすい毒きのこは必ず選抜するようにした.  専門的な図鑑からこれらのきのこの形態的な特徴や生態などの項目を抜き出し,表現を統一し,専門的な用語を平易にするように努めた.次に,カードに掲載できる数に絞り込む作業を行った.これら項目については,試用して改良していく必要がある.  現在この検索カードの製作および試用について協力者,協力団体を求めている.
  • 佐久間 大輔, 今村 彰生
    セッションID: A14
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
     2009年に本郷家より大阪市立自然史博物館へと移管された菌類図譜に続き,2011年3月Hongo Herbarium所蔵菌類標本約7000点及び標本ノートが寄贈された.  現在,この標本は50度4日間の熱風による再乾燥処理の後,現在,現状確認と目録作成のための作業中である.本郷氏により記載されたタイプ標本は国立科学博物館に保管されているが,この関連標本あるいは日本新産報告に引用された標本なども含まれている可能性が高く,日本産フローラを検討する上で極めて利用度の高い標本軍と言える.標本には,採集日,採集場所(ローマ字表記),本郷氏採集番号が書かれ,同定された学名が書かれている.学名は度々訂正されているものもあり,本郷氏の認識の変遷をたどることが出来る資料とも言える.  昨年報告した図譜同様,標本番号によって採集ノートと対照することができる.このため,原色日本菌類図鑑(1959),続原色日本菌類図鑑(1965),標準原色図鑑全集 菌類(きのこ・かび)(1970),保育社カラーブックス「きのこ」(1973),原色日本新菌類図鑑I,II(1987,1989)の各図鑑の掲載種を現標本にたどることが可能になった.しかし,この標本は長年の保管によりタバコシバンムシなどによる虫害が見られ,標本によっては原形をとどめていないものもある.被害は分類群による偏りも見られるが,主には製作時の乾燥状態が影響しているのではないかと考えている.また,色彩はほぼ失われている.標本に関する検鏡記載は標本ノートに記されており,検鏡図もノートまたは図譜に残されているものが多い.  今年度から,図譜,ノート,標本を含めたデジタル画像化,データベース化を進めており,アマチュアをふくめた菌類研究のための資料として公開したい.特に以下の点について留意して作業をすすめる.1)全標本の状態調査.貸し出しに供することが可能かどうかの判断.虫害の分類学的な偏り,虫害標本のDNA利用など保存科学的な検討.2)タイプ標本など論文記載標本の現況調査,分布地域などの記録のまとめ.日本の菌学会の重要資料として整備していきたい。
  • 河原 栄, 佐久間 大輔, 古畑 徹, 赤石 大輔
    セッションID: A15
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    キノコ蝋模型発見のいきさつ:  2004年に金沢大学旧理学部生物学科の標本庫から,キノコの蝋模型30点が発見された.当時そのキノコ模型について来歴を知るものは一人もおらず,廃棄される予定であったが筆者の赤石が保存を望み2010年まで金沢大学五十周年記念館角間の里に保管されていた.2010年9月に開催された石川きのこ会の20周年記念きのこ展で,この標本の一部が公開され,筆者の佐久間が東京大学総合博物館小石川分館のものと同じではないかと指摘したことから,この標本についての調査が始まった. 結果:  鋳型を用いた蝋模型をムラージュといい,東京大学のキノコ標本はムラージュとの説明がある.金沢大学のキノコ標本も細部の構造再現状態などからムラージュであると考えられた.また金沢大学のイロガワリと記されている標本が東京大学のイロガワリタケと記されているものと酷似していた.両標本を同じ方向から観察すると互いに同じ形に見えた.キノコ標本の台座には整理番号が記入されており,東京大学のイロガワリタケ標本の数字を確認したところ,金沢大学のイロガワリと同じ17であった.  金沢大学理学部の前身である四高の歴史において,キノコの蝋模型が作られたと推定される年代頃に,菌類の教育に関連したと考えられる植物学の教官に市村塘(いちむら・つつみ)がいる.市村は1895年に東京帝国大学理学部を卒業し1897年に第四高等学校に赴任した.日本薬用植物図譜,石川県野生有用植物などを著している植物学者であり,ドクササコを初めて記載したことでもよく知られている.市村が教鞭をとっていた時代に使われていたキノコの手書き掛け図も存在する.おそらく市村が四高での講義資料として本標本群を東京大学から導入したのではないかと考えられるが,推測の域を出ず,その真相についてはさらに詳しい調査が必要である.
  • 阿部 淳一, 保坂 健太郎, 大村 嘉人, 糟谷 大河, 松本 宏, 柿嶌 眞
    セッションID: A16
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    2011年3月の福島第一原子力発電所の事故により,多量の放射性物質が環境中に放出され,広い地域に拡散した.3月15日には,当該発電所から167 kmに位置する筑波大学構内でも,最大放射線量2.5 µSv/hが大気中で測定された.野生きのこ類および地衣類の放射性物質濃度を調査するため,構内およびその周辺で発生していたきのこ類8種および地衣類2種を4月26日に採取し,本学アイソトープ総合センターで放射性セシウム(137Cs, 134Cs) およびヨウ素(131I)濃度を測定した.その結果,きのこ類ではスエヒロタケ (木材腐朽菌)>ツチグリ(外生菌根菌),チャカイガラタケ(木材腐朽菌)>Psathyrella sp.1,Psathyrella sp.2 (地上生腐生菌)の順に,それぞれの核種で濃度が高かった.スエヒロタケでは137Cs:5720,134Cs:5506,131I:2301 (Bq/kg wet)であり,これは,2004年に構内で採取した標本と比較しても極めて高い値であった.なお,アミガサタケ,カシタケ(外生菌根菌),ヒトクチタケ(木材腐朽菌)では,放射能物質濃度は比較的低かった.一方,地衣類では,放射性物質の濃度が極めて高く,コンクリート上で採取したクロムカデゴケ属の一種では137Cs:12641,134Cs:12413,131I:8436 (Bq/kg wet),樹幹から採取したコフキメダルチイでは137Cs:3558,134Cs:3219,131I:3438 (Bq/kg wet)であった.これまでの報告で,きのこ類や地衣類は放射性物質を蓄積することが報告されているが,今回の調査でも,そのことが認められた.現在,継続的に調査を行っているが,その結果も加えて報告する.
  • 星野 保, 矢島 由佳, 出川 洋介, 久米 篤
    セッションID: A17
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    小型で棍棒状の子実体を形成する担子菌はガマノホタケ科に属するとされる.本科の代表的な属にガマノホタケ属Typhulaおよびガマノホタケモドキ属Pistillariaがあり,両属は柄から子実層へ至る形態により区別される(Fries, 1821) が,この形質の不明瞭な種が多いため菌核から子実体形成する種をTyphula,しない種をPistillariaとするKarsten (1882) の見解が広く受入れられてきた.しかし,フキガマノホタケモドキP. petasitisでは子実体の菌核からの発生の報告Corner (1970)もある. 演者らは2007年グリーンランドにて,興味深い性質を示すイシカリガマノホタケT. ishikariensisを採集した.この標本はイネ科植物上から直接柄状の構造を形成し,先端に菌核を有していた.さらに演者らは2010年に北海道の旭岳で見られるP. petasitisが,野外では約2ヶ月にわたり子実体を基質から直接形成し,晩秋には地上より80cm程の枯死した高茎草本上部に子実体を形成することを見出した.採集した菌は全て培養下で菌核形成能を有していた.同様の性質はP. petasitisとは異なる種で神奈川県小田原市のマダケ稈鞘や北海道足寄町のハリギリ葉柄から,直接子実体を形成することが確認された.3地点それぞれの菌株の菌糸成長温度と採集地の採集時期の平均気温を比較から,いずれの種も採集時期に菌糸成長が可能であると考えられた.これまでTyphulaは晩秋に子実体を形成し,菌糸は子実体形成不適な積雪下に成長するとされてきたが,今回得られた結果から菌核より生じた子実体が胞子分散を行うのみならず,生育環境に応じて胞子発芽により生じた菌糸が複数回の子実体形成を行う可能性を見出した.
  • 吹春 俊光, 清水 公徳, 李 若瑜, Raut Jay K, 山越 沙織, 堀江 義一, 金城 典子
    セッションID: A18
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    中国北京市郊外土壌より,アンモニア菌として知られるザラミノヒトヨタケ Coprinopsis phlyctidospora と系統的に近縁な Coprinopsis 属菌(担子菌門,ハラタケ目)が,アンモニア菌として分離された.本種はベルギーより報告された Coprinopsis rugosobispora と子実体被膜の形態,担子胞子の形態,担子胞子が2胞子性である点等において類似するが,正基準標本と比較した結果,担子胞子サイズがより小形である点,担子胞子表面模様がより粗である点等で,形態的に明瞭に区別でき,新種とかんがえられた.本種は中国で最初に採集されたアンモニア菌でもある.
  • 深澤 遊
    セッションID: A19
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    木材腐朽菌による材分解には,大きく分けて褐色腐朽・白色腐朽・軟腐朽の3つの腐朽型が知られている.近年,材の腐朽型が,枯死材に生息する昆虫や植物・細菌の多様性に影響することが分かってきているが,枯死材に生息する変形菌の多様性にどのような影響を及ぼすかは分かっていない.地下部の生態系における菌・細菌食者である変形菌の多様性に腐朽菌が及ぼす影響を明らかにすることは,地下部の生態系の生物多様性の維持機構を理解する上で重要である.本研究では,アカマツの倒木を材料に,腐朽型が変形菌の種組成や多様性に与える影響を調べた. 調査地は東京都東大和市のアカマツ-コナラ二次林である.2010年5月および9月の2回,調査地に設置した100m2の調査区10カ所内にあるさまざまな分解段階のアカマツ倒木202本(直径10-47cm)において,倒木上に発生している変形菌の種を変種レベルで記録した.また,腐朽の進んだ「分解段階4」の倒木について,含水率・pH・および辺材・心材の腐朽型を記録した. 結果,34種(変種含む)の変形菌が記録された.そのうち7種は全倒木数のうち発生した倒木数の割合が10%以上であり、優占種と考えられた。優占種7種は、倒木の分解過程の前半(分解段階1-3)に発生頻度のピークがある4種と,分解過程の後半(分解段階4)にピークのある3種に分けられた.分解段階4の倒木において,優占種の発生パターンは倒木のpHから有意な影響を受けていることが冗長分析により示唆された(P=0.007).また,材の腐朽型からも弱い影響を受けており,Ceratiomyxa fruticulosaはpHの高い白色腐朽材に発生する傾向があった.一方,Cribraria intricataはpHの低い褐色腐朽材に発生する傾向があった.1本の倒木内にも複数の腐朽型が混在する場合がある.各倒木で記録された腐朽型の数と変形菌の種数との間には,有意な正の相関があった.以上の結果から,木材腐朽菌が枯死材の分解を通して倒木上に発生する変形菌の多様性や種組成に影響することが示された.
  • 大園 享司, 升屋 勇人
    セッションID: A20
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    カバノキ科樹木4属11種の生葉における菌類エンドファイトの多様性と種組成を,気候帯,樹種,季節の違いに注目して調べた.2008年に,岐阜県御岳山の亜高山帯林,京都府芦生の冷温帯林,沖縄県やんばるの亜熱帯林で採取した計190枚の葉から,計186菌株を表面殺菌法により分離した.それらの菌株は,rDNA LSUのD1/D2領域における塩基配列の相同性に基づいて46の操作的な分類群であるOTUに類別された.もっとも菌株数が多かったOTUは,クロサイワイタケ科に属するBiscogniauxia sp.1とNemania sp.であった.ほかにもGnomonia sp.1,Glomerella acutataApiosporiopsis sp.,Asteroma sp.,Davidiella tassianaといった分類群が高頻度で分離された.異なる気候帯に分布する同属樹種間で菌類エンドファイト群集を比較したところ,気候帯間でのOTU組成の類似度は一般に低かった.同じ気候帯で採取した同属の樹種間ではOTU組成の類似度が比較的高い傾向が認められたが,冷温帯のクマシデ属4種はOTU組成の類似度から2群に分けられた.亜高山帯林では8月と10月における菌類エンドファイトのOTU組成の類似度は高かったが,冷温帯では季節変動が大きく,採取月間でのOTU組成の類似度は一般に低かった.
  • 池田 あんず, 広瀬 大, 松岡 俊将, 大園 享司
    セッションID: A21
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    見かけ上健全な植物組織内部に無病徴で生息している菌類は内生菌(エンドファイト)と呼ばれる.クロサイワイタケ科(Xylariaceae)菌類は植物の主要な内生菌として知られ,特に低緯度域において多様かつ優占的である.しかし,同科内生菌は培養下で胞子を作らないため同定が難しく,種レベルでの多様性や分布に関する基礎的な情報が不足している.また,少例ながら日本や欧米などの温帯林や冷温帯林,熱帯林での研究はいくつかあるが,亜熱帯林における同科内生菌についての研究はない.亜熱帯林は温帯と熱帯の中間的な性質をもつ気候帯であり,それぞれの気候帯との内生菌相の変遷を観察することができる生物地理学的に重要な調査地である.そこで本研究では国内亜熱帯林を調査地に選定し,クロサイワイタケ科内生菌の種多様性を明らかにした.さらにNCBIから得た多様な気候帯・地域の同科内生菌の配列を得て,気候帯間で多様性の比較を行った.2010年4月,沖縄県本島北部の常緑亜熱帯広葉樹林で得た常緑・落葉広葉樹,常緑針葉樹,草本,木生シダを含む64植物種の生葉から表面殺菌法と分離培養法により内生菌を分離した.rDNAのITS領域の塩基配列情報を得て,その配列の比較により全ての解析を行った.これまでに10樹種の解析を行い,59菌株が7属25OTUに分類された.NCBIから得た配列との比較から温帯よりも多様性が高く,熱帯と同程度の高い多様性が示された.また,属レベルでは熱帯で報告が多い属が多く検出された.台湾や韓国など,近隣地域の菌株との相同性が高いことが示されたが,距離的に離れた地域ほど,相同性が低下することが示された.本研究により,亜熱帯林における同科内生菌の種多様性は温帯よりも熱帯に近く,地理的な変異をもって分布していることが明らかになった.
  • 折谷 美和子, 中森 泰三, 金子 信博
    セッションID: A22
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    落葉や落枝などのリター分解に関する研究は,森林生態系内の物質循環を知る上で重要である.質の異なる落葉リターを混合することで,分解者生物(ダニやトビムシ)が多様になり,分解が促進されることがわかっている.しかし,落葉と落枝を混合することによる分解の変化についてはあまり研究されていない.本研究では,落葉落枝の混合による分解速度と微生物量の変化を明らかにするために,横浜国立大学キャンパス内のクスノキ林にて野外実験を行った.2mm目の寒冷紗で直径15cmのリターバッグを作成し,一定量(クスノキの落葉4g,もしくは落枝4g,2gずつの落葉と落枝混合の3処理)のリターを封入した.調査地に設置したリターバッグを,62,186,306日後に回収し,リアルタイムPCRを用いてサンプル中の微生物(真菌類,バクテリア)量を測定した.また,リターの重量減少速度も測定した.その結果,落葉と落枝を混合することにより,落葉の分解が有意に促進されることがわかった.また,単体時よりもリターの含水率が上昇し,真菌類量が増加する傾向がみられた.これらの結果から,含水率と微生物量の増加により,落葉落枝混合リターの分解が促進されたのではないかと考えた.
  • 田中 栄爾, 塩野 奈月, 村田 沙織, 田中 千尋
    セッションID: A23
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    竹材を効率的に分解する真菌を探索するため,竹材の腐朽過程における自然界での真菌の遷移を分子生態学的に解析した.竹ペレットをメッシュバッグに詰めたトラップを石川県金沢市のモウソウチク林2地点林内地上に設置し,一ヶ月おきにサンプルの一部を回収した.回収したペレットから,全DNAを抽出するとともに,常法に従って糸状菌の分離を試みた.ペレットから抽出したDNAは,真菌の18S rDNAを標的としたプライマーを用いてPCR増幅をおこない,変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法によって解析した.DGGE解析によるDNAバンドパターンの質的・量的変化から,腐朽竹材中の真菌の種数や量が遷移しているということが示された.この中で優占すると考えられたバンドの塩基配列を解読してデータベース検索をした.その結果,子のう菌フンタマカビ網のConiochaeta属菌,Carpoligna属菌,Kionochaeta属菌,Pyrenomyxa属菌などが優占種としてあげられた.また,担子菌としては,シビレタケ属(Psilocybe)の2種が見いだされた.なお,既往の研究によりConiochaeta属菌はリグノセルロース分解能を有すること,Psilocybe属菌は白色腐朽性であることが示されている.今回のDGGE解析の結果からは,子のう菌の数種が竹材の腐朽過程で優占し,竹材の分解に主要な役割を果たしていることが示唆された.すなわち,野外での竹材分解菌としては子のう菌類の腐朽菌に注目する必要がある.一方,分離培養法では,Carpoligna属菌など一部の優占種は得られなかった.今後,DGGE解析によって明らかとなった腐朽竹材における優占種と分離菌株との対応をすすめ,それらの菌の竹材分解能の比較実験をおこなう.
  • 八島 武志, 江崎 功二郎, 能勢 育夫
    セッションID: A24
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
     近年,放置されたモウソウチク林の拡大により,既存の針葉樹林,広葉樹林が駆逐され,枯損するといった被害が各地で見られている.放置竹林を間伐または皆伐することにより林内環境が変化するが,きのこ相にどのような影響が及ぶのか研究したので報告する.
     調査地は,石川県金沢市角間町,同市坪野町,同市高尾町の3箇所とし,各調査地に放置区(対照区),間伐区,皆伐区の3つの調査区を設定した.各調査区の大きさは30m×30mとし,放置区では伐採は一切行わずそのままの環境で放置した.間伐区では2,500本/haとなるように密度調整し,皆伐区ではすべてのモウソウチクを伐採した.間伐区及び皆伐区ではさらに平成22年の春以降発生したたけのこもすべて伐採した.きのこ相の調査は平成21年と平成22年,4月下旬から11月下旬までの期間,概ね2週間に1度の間隔で調査区内に発生したすべてのきのこを採取し,同定,乾燥標本の作成を行った.平成21年はモウソウチク伐採前のきのこ相を、平成22年は伐採後のきのこ相を調査し比較した.
     調査地全体で平成21年は310個体29科65属124種,平成22年は289個体30科57属128種が確認された。健全な広葉樹が残存している林分ではイグチ科、フウセンタケ科などの菌根菌や木材腐朽菌が多数確認された。モウソウチクの侵入度合いが進むほど確認されたきのこの種数は減少し、モウソウチクが優占した林分では落葉分解菌がわずかに見られる程度であった.
     伐採後の調査で特に注目すべき点として,各調査地の皆伐区に共通してスエヒロタケがモウソウチク切株に大量に発生していること,高尾町の間伐区でクリタケが大量に発生していることが挙げられる.これはモウソウチクの伐採により竹林の日照,温湿度に変化があったためと考えられるが,不明な点も多く,引き続き調査していく必要がある.
  • 山下 聡, 吉村 剛, 本田 与一, 服部 武文, 土居 修一, 服部 力
    セッションID: A25
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    大型菌類の群集構造は,森林の状態をよく示すとされ,指標生物として注目されている.アカシア植林は,東南アジア地域内で広く行われている土地利用の一つであるものの,多孔菌類群集に対するインパクトは十分に評価されていない.そこで本研究では,東南アジア熱帯地域の3 カ国において,アカシア植林地と原生林との間で多孔菌類の群集構造を比較し,アカシア植林の影響を評価することを目的とした.調査は2008 年と2009 年にマレーシア国サバ州で,2009 年にベトナム国ビンフック省およびドンナイ省で,2010 年にタイ国ナコンラチャシマ県で行った.3年生から25年生のアカシア植林地内に各1ヶ所,自然林内に各2 ヶ所のプロットを設定した.プロット内に60m×4m のライントランセクトを3本設置し,発生していた子実体を採集し,種まで同定した.マレーシアでは38 種,ベトナムでは23種,タイでは24種の多孔菌類が採集された.Microporus xanthopus は全ての調査地の自然林で優占的に認められた.アカシア植林地ではFlavodon flava やHexagonia cf. tenuis が優占する例が認められた.菌類の種数を調査地ごとに林分間で比較したところ,タイにおいては,3 年生林では1種,5 年生林では2 種,25 年生林と自然林では10~11 種が認められ,有意に異なった.これに対して,マレーシアとベトナムでは調査林分間で有意差が認められなかった.アカシア植林による環境の改変,特に乾燥化と枯死木量の変化が種多様性に影響を及ぼしているものと思われる.一方,種構成についてNMDSにより比較したところ,アカシア植林地と自然林の間で種構成が異なった.また,両森林タイプ間における種構成の差は,タイとベトナムでは小さく,マレーシアでは大きかった.タイやベトナムに分布する菌には,高い乾燥耐性を持つような選択圧がかかっている一方で,マレーシアでは,そのような選択圧が強くかかってこなかったと考えられ,このことが熱帯季節林と熱帯多雨林でアカシア植林に対する種構成の反応に差を生む要因となっているものと思われる.
  • 村上 康明, 砂田 洋一, 浅井 郁夫, 寺嶋 芳江
    セッションID: A26
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    従来日本にはケシボウズタケ属菌は4種が産するとされてきた(今関・本郷,1989).しかし調査が進むにつれ,多くの種が広範囲に分布していることがわかってきた(浅井,2004,2008,2009). 演者らは近年九州においてケシボウズタケ属菌の調査を始めたが,九州本土だけで5種が分布し,さらには沖縄県西表島にも産することを見いだしたので,それらの分類的特徴と今までにわかっている分布状況について報告する. 1,ナガエノホコリタケTulostoma fimbriatum var. campestre (Morgan) G. Moreno この種は日本新菌類図鑑_II_に「胞子は微イボを有する」と述べられ,スケッチが掲載されている.低倍率では微イボのように見えるが,光学顕微鏡の対物100xで観察すると微イボではなく,隆起した連絡脈を有する.大分県内に広く分布し,佐賀県,宮崎県にも見られる. 2,ウネミケシボウズタケTulostoma striatum G. Cunn.  胞子の表面にうね状の隆起があり,見分けやすい.大分県,宮崎県に分布する. 3,アバタケシボウズタケTulostoma adhaerens Lloyd  和名が示すように,頭部の表面に外皮の残滓があばた状に残るが,古くなるとほとんど平滑になり,他種との区別が困難になる.対物100xで検鏡すると,胞子表面にとがったイボ状突起が観察される.大分,宮崎,鹿児島,沖縄の各県に分布する. 引用文献:1)今関六也・本郷次雄(1989)原色日本菌類図鑑II,保育社,2)浅井郁夫(2004)日菌報 45:11-13,3)I. Asai(2008)Mycosceince 49:399,4)浅井郁夫(2009)菌蕈2009.5
  • 根田 仁
    セッションID: A27
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Hohenbuehelia lividula (Berk. & M.A. Curtis) Neda & Yoshim. Doiは、1854年11月1日にCharles Wrightによって小笠原で採集され,1860年にM.J. BerkeleyとM.A. CurtisによってAgaricus lividulus Berk. & M.A. Curtisの名前で新種記載された(Berkeley and Curtis 1860, Pfister 1978).伊藤誠哉・今井三子は,1936年に小笠原父島で採集し(Pleurotus lividulus (Berk. & M.A. Curtis) Sacc.として),オガサワラヒメカタハの和名を与えた(Ito and Imai 1939).また東京都千代田区(皇居)にも分布することが報告され,所属をHohenbuehelia(ヒメムキタケ属)に移し,Hohenbuehelia lividulaの組合せが発表された(Neda and Doi 2000).小笠原では佐藤豊三、根田仁らによっても採集されている(根田・服部 1991,根田・佐藤 2008).さらに本菌は、千葉県鴨川市(10.Oct. 2004, TFM-M-L314),沖縄本島(11.May.2005, TFM-M- L462; 25.Jul. 2006, TFM-M-P63; 30.Nov. 2006, TFM-M-P434),沖縄西表島(1.Oct2007, TFM-M-P884; 20.Oct.2010, TFM-M-Q792),マレーシア(Nov.17.2005, TFM-M-M648),シンガポール(21.Feb.2011, TFM-M-Q840)でも採集された.Hohenbuehelia lividulaの分布は,東南アジアから西南日本に及ぶ.
    引用文献
    Berkeley, M.J. and M.A.Curtis (1860) Proc. Amer. Acad. Arts & Sci. 4:111-130.
    Pfister, D.H. (1978) Cryptogams of the United States North Pacific Exploring Expedition, 1853-1856, unpublished manuscripts of fungi by Miles Joseph Berkely and Moses Ashley Curtis. Harbard University.
    Ito, S and S. Imai (1939) Fungi of the Bonin Islands. III. Trans. Sapporo Nat. Hist. Soc. 16:9-20.
    根田仁・服部力(1991)第2次小笠原諸島自然環境現況調査報告書.36-55.東京都立大学,東京
  • 広瀬 大, 白水 貴
    セッションID: A28
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    近年,南西諸島における系統地理学的研究は様々な生物種で盛んに行われており,種分化プロセスと地史的イベントとの関連性について興味深い知見が多く得られている.菌類に関しては研究例が殆どないのが現状であったため,演者らは手始めとして,オヒルギ (Bruguiera gymnorhiza) の腐朽木に定着するツブキクラゲ (Tremellochaete japonica) を材料に遺伝的変異とその地理的分布パターンに関する研究を行うことにした. 2010年11月に,奄美大島 (住用),沖縄島 (慶佐次),宮古島,石垣島 (宮良川, 吹通川),西表島 (仲間川, 浦内川, 大見謝, 古見, 船浦) の計10地域のオヒルギ自生地において本種と思われる子実体を採取した.実験室に持ち帰り,形態観察による種同定を行った後,分離培養した.得られた培養菌株からDNA抽出後,rDNAのITS領域の塩基配列を決定することにより遺伝的変異を評価した. 合計113子実体試料を採取することができ,そのうち104試料の分離菌株を得ることができた.これらの菌株の塩基配列には,22サイトで多型がみられ,塩基配列の違いに基づく19のタイプが確認された.沖縄島以南の島では,島間で共通するタイプがみられた一方,宮古島,石垣島及び西表島と奄美大島との間では共通するタイプは一つもみられなかった.塩基配列の違いに基づくタイプにみられたこの様なパターンは,南西諸島に定着している本種の分布形成プロセスに,胞子による長距離分散以外に地史的な要因も関与している可能性を示唆している.
  • 加茂 美唯, 板橋 武史, 河合 賢一, 東條 元昭, 星野 保, 細江 智夫
    セッションID: A29
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    スピッツベルゲン島で分離された低温菌〈I〉Trichoderma polysporum〈/I〉の成分研究 ○加茂美唯1)・板橋武史1)・河合賢一1)・東條元昭2)・星野保3,4)・細江智夫1)1)星薬大;2) 大阪府大生環;3) 産総研;4) 北大生命) Chemical screening of psychrotrophic fungi Trichoderma polysporum from Spitsbergen islands in Norway by M.Kamo1), T. Itabashi1), K. Kawai1), M. Tojo2), T. Hoshino3,4), T. Hosoe1) ( 1)Hoshi Univ.; 2)Osaka Pref. Univ.; 3)AIST; 4)Hokkaido Univ.) 極限環境下に生息する微生物の中には環境適応戦略として,特殊な酵素や代謝系を獲得していることが知られている.低温菌もその1つで,低温活性酵素や低温条件下での特有な性質を保持していると考えられている.極寒冷地ノルウェー国スピッツベルゲン島(北緯71-81º,東経10-35º)で分離された真菌〈I〉Trichoderma polysporum 〈/I〉は温帯産同種株と類似した性質を保持する一方で,低温下での病原菌に対する拮抗性とポリガラクツロナーゼの生産性が高いことが報告されている.本研究では,スピッツベルゲン島の2 地点 (Barentsburg,Longyearbyen)に存在するカギハイゴケ群落から分離された〈I〉T. polysporum 〈/I〉6 菌株(Barentsburg からOPU1567, OPU1568, OPU1569 ,Longyearbyen からOPU1570, OPU1571, OPU1572)の第二次代謝産物について検討した.各菌株を2つの培養条件(米培地,4ºC, 約12ヵ月および20 ℃,約2ヶ月間)で培養した後,メタノール抽出した.メタノール抽出物は水/酢酸エチルで液液分配した後, 酢酸エチル抽出物としてHPLC/PDA 分析に供した.その結果,Barentsburg 採取菌株には認められないLongyearbyen採取菌株のみが産生する化合物 (分子式C12H15NO2) の存在を明らかにし,その化学構造を決定した.
  • 濱田 信夫
    セッションID: A30
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    浴室では,Exophiala, Scolecobasidium, Phoma, Cladophialophora, Phialophoraなどの,室内塵や壁面,結露した窓ガラス,さらには野外の浮遊菌などと異なったユニークなカビが多く見られる.これらのカビは,石鹸成分のみならず,合成洗剤の主成分のひとつである非イオン界面活性を栄養にすることができる特徴がある.とりわけScolecobasidiumなどいくつかのカビは,0.25%の濃度の非イオン界面活性剤のみを添加した寒天培地で生育することができる.前回は,野外の株の中に浴室で生育するカビと栄養特異性が類似したものはあるが,遺伝的に異なっていることを報告した.今回は,日本以外にも,ヨーロッパ,アメリカなどの浴室から採集されたScolecobasidiumなどを材料として,界面活性剤を栄養とするか否かなどの生理的特徴や,世界各地産の同じ属のカビの遺伝的関係を調べた.その結果,日本とヨーロッパの浴室のカビは遺伝子的に近いものが見つかったが,アメリカ産はそれらとはいずれの種とも異なっていた.一方,浴室のカビのルーツを探るため,浴室から採取された種と類似のカビの菌相を求めて,様々な野外の環境について調査を行っている.例えば,文献から分離報告のあった植物や,サポニンなどの界面活性剤を多く含むマメ科植物,さらには,灰分を多く含む葦焼きなどを例年行っている河原の土壌などについて,調査を行っている.いくつかの浴室特有のカビと共通のカビも認められたが、そのルーツを解明するには至っていない。
  • 齊藤 智
    セッションID: A31
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    コンクリートは,材質が無機質であり,アルカリ性であることから,コンクリートそのものに対してカビ(真菌)が生えることはないとされてきた.屋外では,ほこりの付着,降雨による汚れの付着,藻類や細菌の繁殖によって,カビの栄養分が供給されたことで,その後,カビが生えると報告されている.しかし,地下駐車場のように屋内と屋外の中間的な環境や,結露が生じた室内空間のコンクリート表面で,カビの発生についての報告はほとんどない.そこで,屋内で比較的湿った環境のコンクリート表面のカビの調査を行った.その結果,光学顕微鏡での観察では,多少日光が差し込み,表面が緑の斑点で汚れている所では緑藻類と思われる細胞が観察されたが,日光がほとんど差し込まない地下駐車場の柱では,緑藻類と思われる細胞は確認できなかった.培養による調査では,地下駐車場のコンクリート壁面からはクロカビ(Cladosporium)が優占種として検出され,そのほか,アオカビ(Penicillium)やコウジカビ(Aspergillus),ニグロスポラ(Nigrospora),アルスリニウム(Arthrinium)が検出された.地下1階階段下の夏期には結露が発生しやすいコンクリート表面からは,優占種としてコウジカビが検出され,そのほかエンギオドンチウム属(Engyodontium album)と同定された白いカビが多く検出された.以上の結果から,比較的湿った環境の汚れの目立たないコンクリート表面でも,カビが繁殖していることが確認された.
  • 中森 泰三, 金子 信博
    セッションID: A32
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    菌類の子実体には様々な毒素が含まれている.それらの毒素は菌食動物の食性幅や耐性の進化に影響を及ぼすことで,菌類と菌食動物の相互作用の形成に寄与していると考えられる.テングタケ(Amanita)属菌には子実体に毒素を含むものがあり,きのこ食性のハエにおいてはそれらの毒素に対する耐性が進化している.トビムシと菌類の共存の歴史は古く,デボン紀にまで遡ることができる.共進化の過程できのこ食性トビムシにはきのこ毒に対する耐性が進化していると期待される.しかしながら,きのこ食性トビムシのきのこ毒に対する耐性については研究がほとんど行われていない.そこで本研究ではきのこ毒に対するトビムシの耐性を明らかにすることを目的とした.テングタケ属菌の 2 種の毒素(イボテン酸とα-アマニチン)を段階的に異なる濃度で人工餌に添加してきのこ食性トビムシ(Ceratophysella denticulata)に与え,産卵数への影響を調べた.また,トビムシ種間の感受性を比較するために土壌性トビムシ(Folsomia candida)を用いて同様の実験を行った.その結果,天然にみられる濃度のα-アマニチンでは両種ともに産卵数の減少はみられなかった.一方,天然にみられる濃度のイボテン酸では土壌性トビムシの産卵数は著しく減少したものの,きのこ食性トビムシの産卵数に影響はみられなかった.これらの結果から,きのこ食性トビムシC. denticulataはきのこ毒であるイボテン酸に対し耐性を有していると考えられた.
  • 大田 聖佳, 上田 成一
    セッションID: A33
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    〔目的〕Byssochlamys属は単独子嚢胞子になりにくい特徴を有しているので,食品中では8個性子嚢胞子の状態で存在していると推測される.そこで,単独および8個性子嚢胞子の耐熱性を調べた.
    〔方法〕1.単独および8個性子嚢胞子の耐熱性:供試菌株として飲料由来のByssochlamys fulva B0510株を用いた.PDA培地で30℃,30日間培養した子嚢胞子を,0.1Mリン酸緩衝液に懸濁させたものを8個性子嚢胞子懸濁液とし,これをガラスビーズ・超音波処理して単独子嚢胞子懸濁液を得た.耐熱性試験(D値,z値)は,酒石酸・グルコース溶液を加熱媒体として用い,発芽率法で行った.加熱温度79~87℃,加熱時間2~130分と設定した.
    2.単独子嚢胞子懸濁液の調製と耐熱性:1と同様に調製した8個性子嚢胞子懸濁液1mLを,超音波処理機(130W,周波数20kHz)を用いて,氷水中で冷却しながら60~240秒間超音波処理し,処理後,8個性子嚢胞子,単独子嚢胞子および破壊子嚢胞子数をそれぞれカウントした.この試験を3回反復し,単独子嚢胞子が得られる最適な処理時間を検討した.また,得られた単独子嚢胞子懸濁液を用いて,1と同様の方法で耐熱性試験を行った.
    〔結果〕1.単独および8個性子嚢胞子のD値はそれぞれ,79℃:91.7分,121.8分,81℃:49.1分,68.5分,83℃:27.2分,29.6分,85℃:14.7分,20.0分,87℃:5.5分,12.4分となり,すべての加熱温度において8個性子嚢胞子が単独子嚢胞子よりも高かった.z値は,8個性子嚢胞子が7.9℃,単独子嚢胞子が6.7℃であり,D値と同様に8個性子嚢胞子が単独子嚢胞子よりも高かった.
    2.最も多くの単独子嚢胞子を得ることができる処理時間は180秒であった.超音波処理単独法およびガラスビーズ・超音波処理法を用いて得られた単独子嚢胞子の耐熱性を比較したところ,差は認められなかった.
  • 藤原 恵利子, 三川 隆, 矢口 貴志, 長谷川 美幸, 池田 文昭
    セッションID: B1
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Conidiobolus属菌は主に土壌,腐植などに生息する腐生菌であるが,一部の菌はヒト,動物に感染症を起こすことが知られ,特に熱帯圏では本菌による播種性感染症が報告されている.本属菌は接合菌類のトリモチカビ亜門,キクセラ亜門と系統関係にあることが示唆されており,接合菌類の系統進化を論じる上で鍵となる系統的位置にある菌群であると考えられている.本属菌の分類・同定は形態や生理学的性状に基づいた研究により現在32種以上知られているが,本属菌の系統分類は未だ確立されていない.我々は本邦産の本属菌の種相互の系統関係の解明を目的とし,土壌,腐植などから本属菌を分離し系統分類学的な研究を行っている.本属菌は15℃~35℃で生育する中温性菌が研究の対象となっており40℃以上で生育する菌に関する研究は殆どない.今回は高温条件下で発育する本属菌の分離法および系統的位置関係を検討した.
    土壌,腐植など530サンプルを用いて40℃および25℃で5日間培養し,40℃のみで発育した菌株を分離した.参照株としてヒトから分離された高温性菌(IFM58391、IFM55973)を用いた.これらの菌株の18S rDNAの塩基配列を決定し系統解析を行った.高温性菌は4株(F325,F328,F329,F330)検出された.系統解析の結果,分離菌株4株およびIFM株は4つの系統群に大別された.今回分離した高温性菌およびIFM株は相互に類似した形態学的特徴を示すが,18S rDNAでは多様な系統関係にあり,形態,生理特性,遺伝子などの多相的な方面からの分類が必要であると思われた.
  • 出川 洋介
    セッションID: B2
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    ヘリコケファルム科は,5科からなるトリモチカビ目(トリモチカビ亜門)の一員で,付着器,吸器により線虫等の微小動物を捕食する培養困難な動物絶対寄生菌で,接合菌類の中でも特に解明が遅れており,その全容を理解する上での盲点となっている.世界より3属12種が知られ,日本からはRhopalomyces strangulatus(トムライカビ)(Sagara 1973; Tubaki 1973他),Helicocephalum oligosporum (Watanabe & Koizumi 1976)の2属2種のみが知られてきたが,現在までにR. elegans(本州,南西諸島,土壌・動物糞上に普通), H. diplosporum(本州,腐朽木上)の 2既知種が新たに確認された.本科菌類の探索には,宿主動物との関わりを絶たない状態で生息環境を観察する工夫が求められるが,こうした検討により多くの未記載分類群が検出され,本科は従来考えられている以上の多様性を有すものと推定される.ここでは未記載属と考えられる二種について報告する.
     1) Helicocephalidaceae gen. et sp. nov. 1. 鍾乳洞の蝙蝠糞(大分県)より直接平板法により検出.一次隔壁を欠如する菌糸が付着器を形成して線虫を捕捉し体内に吸器(同化菌糸)を生じ,胞子が強く暗色に着色する点でヘリコケファルム科の定義を満たす.しかし,一個の胞子が先尖型の胞子嚢柄上に側生する短枝(Rhopalomyces属のパピラに相同)の先端に形成され,疣状表面紋を有す点で既知属と区別される.Verrucocephalum latericorvinisporum nom. nud.として記載発表予定(投稿中).
     2) Helicocephalidacae gen et sp. nov. 2. 節足動物死骸,土壌(神奈川県)より湿室法により検出.いずれも無性生殖構造と考えられる顕著な二型性を示す胞子嚢柄を形成する.一方は短い柄の先端に分節胞子嚢を形成,成熟に伴い中央の狭窄部で折れ曲がり,褐色で紡錘型の2胞子を生じる.他方は,長い胞子嚢柄先端に細くC字型に屈曲した分節胞子嚢を形成,成熟に伴い分断して無色で長円形の胞子を多数生じ液滴をなす.培地による培養には成功しておらず,生育基質は不明で動物の捕食も観察できていないが,無性生殖構造の形態的特徴は本科の定義を満たすものと判断される.
  • 佐藤 大樹
    セッションID: B3
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    2011年4月から5月にかけて筑波山中腹の3箇所の沢でフタバコカゲロウ(Baetiella japonica)を採集した.このカゲロウは大きめの石や岩盤の表面にしがみついており,左手で水をよけ,現れた幼虫を鋭利なピンセットでつまみとり氷冷して研究室に持ち帰った.採集された複数の個体において,肛門から伸び出た菌糸が観察された.5月23日に採集された個体では,21頭中4頭が肛門から菌糸を伸ばしていた.菌体の基部は半球形に寄主の後腸クチクラに食い込んでおり,周囲は褐色を呈していた.菌体は主軸があり,肛門から伸び出した後に隔壁部分から一箇所あたり2-3本に分枝し,これを繰り返した.菌糸先端付近は,6-14μm間隔で隔壁に区切られた胞子形成細胞を形成し,続いて斜めにトリコスポア(trichospore:離脱生の胞子嚢)を形成した.トリコスポアは細長い円筒形でカラーはなく,長さ50-62.4μm幅4.0-4.6μmであった.同様の菌体基部,分枝様式を持った菌体において,菌糸の先端部分が癒合し,中間に紡錘形の接合子の形成が認められた(高さ8.0-9.4μm幅38.0-42.0μm).水生昆虫の肛門から菌体が伸び出すトリコミケテス類は,レゲリオミケス科(Legeriomycetaceae) のOrphella, Pteromaktron, Zygopolarisの3属である.Orphella属とは,トリコスポアの形態が異なり,Pteromaktronとは分枝のタイプが異なる.Zygoporarisとは,トリコスポア形成様式が似ているが,接合子の形態が異なる.従って,本属を新属と判断した.トリコミケテス類は観察に適した良い状態の標本を採集することが困難である場合が多いが,今回は,胞子形成が始まったばかりの菌体をスライドガラス上に1滴の沢の水とともに5℃で追培養を行い,トリコスポアの形成過程を約10日間連続観察できた.レゲリオミケス科のように分枝する菌体を持つトリコミケテス類は,分離培養までは達成できなくても,追培養による形態形成観察は有用な手段であると考えられた.
  • 山口 峰生, 小池 香苗, 坂本 節子
    セッションID: B4
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    ツボカビは,古くから湖沼など淡水域における植物プランクトンの個体群動態に大きな影響を及ぼす生物要因として注目され,近年では植物プランクトンとの相互関係(共進化)や食物網の中で果たす生態学的役割についても研究が進められている.しかし,海産植物プランクトンに寄生するツボカビに関する知見は極めて乏しいのが現状である.演者らは,麻痺性貝毒(PSP)の原因種である海産渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseが生活史の一時期に形成するシスト(休眠細胞)から発芽した細胞に寄生するツボカビを発見したので,本講演ではその形態学的特徴と発達過程について報告する.
    愛知県三河湾から採取した海底堆積物から泥懸濁液を調製し,シストの発芽に好適な条件(12.5℃,明暗周期12hL:12hD)下で培養した.培養開始後,遊走子と思われる粒子が付着した発芽細胞を分離・培養し,その形態と発達過程を光学および電子顕微鏡(SEM,TEM)を用いて観察した.
    A. tamarense発芽細胞に付着した遊走子は数日のうちに成長し,内部に小型顆粒が多数認められるようになった.さらに成長が進むと,菌体内部に遊走子が充満し,遊走子嚢となった.遊走子嚢は径約20µmの球状で,蓋状の構造はみられなかった.その後,遊走子は遊走子嚢内で運動し始め,最終的には外部に放出された.遊走子は頭部が約2 µmの球形で,後端に長さ約16 µmのムチ型鞭毛1本を有した.TEM観察の結果,遊走子は脂質粒子を1個持ち,ミクロボディ-脂質小球粒複合体(MLC)と1個のミトコンドリアならびにリボソームが細胞中央にまとまって位置するが,核はそれとは一線を画するといった特徴を示した.これらの菌体および遊走子の形態学的特性から,本菌はツボカビ目(Chytridiales)の一種と考えられた.また,菌体の発達過程を経時的に調べた結果,本菌の生活環はほぼ2日間で完結することが明らかとなった.今後,海洋生態系における寄生性ツボカビの役割を解明するため,本菌の分類,生理・生態に関する研究をさらに進める必要があると思われる.
  • Md. Abdul Baten, Hotta Keisuke, Suga Haruhisa, Kageyama Koji
    セッションID: B5
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    The genus Phytopythium is a newly established genus consisting of water and soil inhabiting species (Abad et al (2010). Several species such as P. helicoides are water and soil borne plant pathogens causing root rot disease. The genus Phytopythium is characterized by high optimum and maximum growth temperature approx.30 C and 35-40 C respectively ( Kageyama 2010) and the formation of ovoid, proliferous sporangia and broadly attached antheridia. The isolate GUCC 7020 isolated from water in Iriomote Island in Japan grew at 15-35 C. The optimum temperature was 30 C with a radial growth of 43 mm 24 h-1. The isolates is morphologically characterized by globose sporangia with papilla and no papilla, internally and internally nested proliferating sporangia, terminal and intercalary chlamydospore, compound sympodia, and plerotic or nearly plerotic oospore. On the other hand, the isolate FP1 from a dumped-off seedling of buckwheat in Akita prefecture grew at 10-40 C. The optimum temperature was 30 C with a radial growth of 39 mm 24 h-1. The isolate was morphologically characterized by globose sporangia with apical papilla, internally and internally nested proliferating sporangia, coiling antheridial stalk, wavy, sessile and cleavate shape antheridia. These morphological features were similar to the Phytophthora fagopyri isolate, CBS 293.35 (Pythium helicoides by Plaats- Niterlink, 1982). Phylogenetic analyses of the r-DNA ITS region, LSU gene , coxI and coxII gene revealed that the two isolates were distinct species. The isolate GUCC 7020 was closely related to P. oedochilum and P. mercuriale, whereas the isolate FP1 was identical to CBS 292.35 and closely related to P. chamaehyphon and P. helicoides. By integrating morphological and molecular characterizations the isolate GUCC 7020 will be a new species, and the isolate FP1 will be a redefined species from the genus Phytophthora to the genus Phytopythium.
  • 堀田 佳祐, 景山 幸二, 千田 昌子, 本橋 慶一, 須賀 晴久
    セッションID: B6
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    土壌及び水媒伝染性植物病原菌Pythium irregulareは,種内で分子系統的に4つのグループ(I~IV)に分かれると報告されていた(Matsumoto et al. 2000).最近,この4つのグループのうちグループIIは,形態的及び分子系統的に差があるとしてP. cryptoirregulareという新種とされた(Garzón et al. 2007).しかし,この差は大きくないため同定を行う際に混乱が生じている.そこで,本研究では特に植物病原菌として重要なグループIとIIについて地理的由来・宿主の異なる菌株を用い,形態・分子系統・病原性の点から分類を再検討した.形態を比較したところ,2つのグループの間で有意な差があるとされていた造卵器及び卵胞子の直径,Ooplast Indexで2グループを区別できなかった.また,rDNA-ITS領域,LSU D1/D2領域,COXI遺伝子,COXII遺伝子,β-tubulin遺伝子を用いて分子系統解析を行ったところ,ITS領域の塩基配列には菌株内多型があるものもあり,これまでのITS領域の系統解析についての報告とは異なり,グループIとIIは単系統とならなかった.また,ITS領域以外の領域においても明確に2系統に分けることはできなかった.11のプライマーを用いたRAPD-PCR分析においても,いずれのプライマーにおいても2つのグループを明確に区別することはできなかった.病原性の比較では,菌株間差はあったがグループ間に差はみられなかった.これらのことからP. irregulareP. cryptoirregulareの間に差はなく,1種に戻すべきと考えられた.
  • 佐藤 豊三, 埋橋 志穂美
    セッションID: B7
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    近年,白さび病菌目(Albuginales)では分子系統解析が盛んに行われ,その結果と形態や宿主との関係から,タデ科,ヒユ科およびスベリヒユ科寄生種をWilsoniana属,キク科寄生種をPustula属としたり(Thines and Spring, 2005),韓国産ナズナ寄生種(Albugo koreana Y.J. Choi, Thines & H.D. Shin, 2007)やシロイヌナズナ寄生種の一系統(A. laibachii Thines & Y.J. Choi, 2009)を新種としてアブラナ科寄生種A. candida (Pers.) Rousselから分割するなどの分類学的再編が行われてきた.一方,サツマイモ属(Ipomoea)寄生種ではアサガオ類に寄生する2種の宿主特異性が報告されたが(Sato et al., 2009),詳細な分子系統解析は行われておらず,分子系統と寄生性の関係は明らかにされていない.そこで,国内で採集したIpomoea属植物上の生菌および海外の乾燥標本を用いて,rDNA ITS領域の塩基配列に基づき分子系統解析を行った.得られた系統樹では,形態に基づきA. ipomoeae-panduratae (Schwein.) Swingle,A. ipomoeae-hardwickii SawadaおよびA. ipomoeae-aquaticae Sawadaと同定された標本は,他の白さび病菌とは異なるclusterに所属し,各種は単独のcladeを形成した.また,前2種の標本は宿主ごとにsub-cladeにまとまり,ITS領域による分子系統はほぼ寄生性を反映することが明らかとなった.すなわち,A. ipomoeae-pandurataeに属するf. sp. lacunosae(マメアサガオ寄生系統)とf. sp. trilobae(ホシアサガオ寄生系統)および,A. ipomoeae-hardwickiiに属するf. sp. hederaceae(アメリカアサガオ寄生系統)とf. sp. nile(栽培アサガオ寄生系統)の各分化型間には,わずかであるがITS領域の塩基配列に差異が認められた.ただし,国内未確認のサツマイモ寄生種A. ipomoeae-pandurataeの標本は,サツマイモに寄生しないマメアサガオ寄生系統f. sp. lacunosaeと塩基配列が一致,あるいは高い類似性を示し,同領域が寄生性の差異を反映しない結果となった.今後,国内未確認のグンバイヒルガオ寄生種A. ipomoeae-pes-caprae Cif.も加えIpomoea属寄生種全体の系統関係を明らかにしたい.
  • 矢吹 俊裕, 土屋 有紀, 宮崎 和弘, 金廣 達也, 奥田 徹
    セッションID: B8
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Trichoderma属は,一般に土壌や腐朽した木材に腐生的に生息していると考えられている.しかし近年,植物の内生菌として,未記載のTrichodermaが分離されたという報告が複数あり,これまで調査されてこなかった基質に新種のTrichodermaが多く存在する可能性が示唆された。そこで植生の違いから日本にも多くのTrichoderma未記載種が存在するであろうことが予想された.このような背景に基づき日本において土壌以外の基質をターゲットとしたTrichodermaの探索を行った. 沖縄本島,石垣島,西表島,熊本,岩手などの,主としてきのこ栽培農家を訪ね,Trichoderma様の菌叢の認められる原木,菌床,栽培きのこ子実体などを採集し,希釈平板または湿室法を用いた直接分離により糸状菌を分離した.今回の分離株および過去に栽培農家で出現したTrichoderma関連株,合計42株について形態観察,分子系統解析を行い,一部CBS,KCTCから分譲を受けた標準株とも比較を行った.その結果,7種の既知種,6種の未記載種と思われる種,4種の日本新産種と思われる種を確認した.
  • 喜友名 朝彦, 安 光得, 木川 りか, 佐野 千絵, 三浦 定俊, 杉山 純多
    セッションID: B9
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    多彩色の漆喰壁画で知られるキトラ古墳・高松塚古墳(奈良県明日香村,7c末~8c初頭築造)において,2004年から石室内外に発生する菌類相の調査が定期的に行われてきた.その調査の過程において,石材や漆喰片などの基質から堅固な針状体の菌類が検出,17株分離された.これらは単生で赤褐色の分生子柄の先端に多量のフィアロ型分生子を粘塊中に形成する点で特徴付けられ,形態的特徴からKendrickiella phycomycesと同定した.そこで,分離株と(異名)Phialocephala phycomycesとして同定・保存されているMUCL 4271・38565の2株と比較検討した結果,両者の培養性状および形態的特徴はほぼ一致しているものの,18S,28SおよびITS領域の塩基配列において数~十数塩基の差異が認められた.また,各遺伝子の分子系統解析の結果,これら分離株とMUCL 2株はChaetomellaPilidium両属とクラスターを形成し,他菌群とは離れた系統を示した.従来,K. phycomycesはEurotialesに帰属するとされていたが,今回の解析結果において,Eurotialesとは明らかに異なる分子系統学的位置を示した.漆喰の主成分である炭酸カルシウムを含むGYC寒天平板培地で培養した結果,顕著な茶褐色の可溶性色素の産生,炭酸カルシウムの溶解能および再結晶化が認められた.この現象は古墳の石材や目地漆喰,また漆喰壁画の劣化に影響を及ぼしていたと考えられる.
  • 秋山 綾乃, 広瀬 大, 小川 吉夫, 一戸 正勝
    セッションID: B10
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    ブルーチーズは, 代表的なカビ付け成熟型チーズのひとつで, その生産にはPenicillium roquefortiが用いられている.生産過程でのこの菌の添加は, 特有の臭いとテクスチャーを生むことになる. ブルーチーズとして有名なのは, ロックフォールト(フランス), フルム・ダンベール(フランス), ゴルゴンゾーラ(イタリア), スティルトン(イギリス)などで, 今日では, これらの他にもデンマーク, ドイツ, スイスなどのヨーロッパ諸国において, また, 日本においてもP. roquefortiを用いたカビ付け成熟型チーズが生産されている. これら多様な原産地と製法の相違は, いくつかの遺伝的に変異したP. roquefortiがブルーチーズ生産に用いられていることを予想させる.本研究では, 市場で入手した34種のブルーチーズの各々からP. roqueforti を分離し, beta-tubulinのイントロンを含む部分塩基配列(447塩基対)を基にその遺伝的変異を近隣結合法により解析した. 分離された34株は, 2つのクレードに分割され, 一方のクレードは, 4種のロックフォールから分離された4株を含29株から成り, もう一方のクレードはフルム・ダンベールから分離された1株を含む5株から成っていた.ロックフォールとフルム・ダンベールの2つは, 最も古くから生産されているブルーチーズで, その歴史はローマ時代にまで遡るといわれている.これら古くから生産されている2つのチーズの生産で異なる系統の菌株が使用されていることは興味深い.ただし, これら2つの系統間で異なる塩基配列数は2塩基のみで, 近縁のP. roquefortiがブルーチーズの生産に用いられているものと考えられる.ブルーチーズの風味やテクスチャーの相違は使用する原乳や共存する微生物の相違によってもたらされると思われる.
  • 野中 健一, 海渕 覚, 塩見 和朗, 供田 洋, 高橋 洋子, 大村 智, 増間 碌郎
    セッションID: B11
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    新規生物活性物質の探索源として亜熱帯地域および海洋島由来の糸状菌に着目し,これまで, Trichoderma polysporum FKI-4452,Mortierella alpina FKI-4905 等から新規化合物を報告してきた.特に海洋島は現在に至るまで一度も陸と繋がった事がない大洋上の島であり,そこに生息する生物は大陸と隔離されたまま独自の進化を遂げてきているため,固有の生物相がみられる.このことから糸状菌においても固有種や未記載種を発見出来る確率が高いと考えられる.これまで,日本本土を含め,海洋島である東京都伊豆諸島の八丈島,青ヶ島および小笠原諸島の父島土壌を中心に糸状菌の分離を行ってきた.これらの島々から分離された糸状菌を属レベルで分離頻度を調査したところ,日本本土と比べVerticillium 属の分離数が非常に多い傾向にあった. 近年,GamsらによりVerticillium sect. Prostrata は5つの属へ再分類が行われた.当研究室の分離株を光学顕微鏡による形態観察およびITS領域の塩基配列に基づいて同定を試みた結果,18株をSimplicillium 属と同定した.18株の内,1株をS. obclavatum と同定し,残り17株は既知種とは分生子の形態が異なっていた.未記載種の可能性が高いと考えられる17株の内、2株(Simplicillium sp. FKI-4981 およびFKI-5985)から新規化合物を発見した.現在,その他の株の培養液についても各種評価系でアッセイを行っており,新規生物活性物質が発見される事を期待している.
  • 橋本 陽, 佐藤 玄樹, 松田 考広, 平山 和幸, 田中 和明
    セッションID: B12
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Dinemasporium属は単子葉植物を中心とした様々な枯死植物上に生じる分生子果不完全菌類であり,剛毛を有する子実体と,無色・単細胞で両端に1本の付属糸を持つ分生子によって特徴づけられる.本属に類似した属としてDiarimella属とStauronema属が知られているが,Diarimella属では分生子両端に複数本の付属糸を持つこと,またStauronema属では分生子両端に加え側面にも付属糸を持つことにより別属とされている.子実体や分生子の形態的類似性からすると,これら3属は近縁であることが推測される.しかしテレオモルフ情報がほとんど無いことや,分子系統解析が行われていないことから,3属の分類学的位置は不明であった.また分生子の付属糸形態(付属糸の本数と着生部位)のみを重視した上記3属の分類が妥当なものであるか否かについては,これまでに検討されてこなかった.本研究ではこれら3属の27菌株を用いてリボソームDNAの28S, ITS領域に基づいた分子系統解析を行った.その結果,上記3属はフンタマカビ綱,Chaetosphaeria目,Chaetosphaeria科内で単系統群として強く支持されるクレードを形成することが明らかとなった.しかし,各属の単系統性は否定され,Dinemasporium属は6系統群,Diarimella属は3系統群,Stauronema属は2系統群からなることも判明した.以上の結果は分生子の付属糸形態の微小な差異に基づいて分類されてきた従来の属概念が誤りであり,これらの菌群は単一属として統合されるべきであるか,あるいは反対にこれらの菌群はさらに細かい分類基準により多数の属へと細分化されるべきであることを示唆する.この問題を明らかにするためには,解析に用いる本菌群の種数をさらに増やし,他の遺伝子領域に基づいた分子系統解析も行うことで,本菌群の分類を再考する必要があると考えられる.
  • 中島 千晴
    セッションID: B13
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    Distocercospora属はPons & Suttonにより1988年に設立された糸状不完全菌で,これまでに3種が知られている.これらの内,2種はヤマノイモ属植物上から見いだされ,残りの1種はLivistona属植物より見いだされたD. livistonaeである.また,その形態的特徴からCercospora様菌類とされているものの完全世代はMycosphaerella属であろうとされているが,完全世代が未だ見いだされておらず,分子系統上の位置づけは不明であることから最近の分類上位置づけも不明確である.そこで,Distocercospora属の分類学上の位置づけを明らかにすることを目的に基準種であるヤマノイモ属植物上のD. pachydermaとビロウ属植物上より見いだされたD. livistonaeを材料とし,培地上での分生子の人工形成を試み,光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡にて観察を行うとともに,複数の領域の塩基配列を基に分子系統解析を行った.結果,D. livistonaeは18S rDNA塩基配列はCapnodiales内の菌と相同性が高く,28S rDNA D1/D2領域はCapnodialesのMycosphaerella属内シンアナモルフとして独立したクレードを形成した.しかしながら,D. pachydermaは近縁なものの系統樹上やや離れた場所に位置し,さらに,D. livistonae のEF-1alpha領域の塩基配列ではBLASTサーチにて類似する配列を見いだすことが出来なかった.このことからDistocercospora属を分割する必要があることが示唆されるが,形態的特徴を初めとした他の諸形質を明瞭にする必要もあり,更なる研究が必要と判断した.また,アジアからアフリカにかけて広く分布するD. pachydemaに対し,D. livistonaeは,南西諸島・小笠原諸島で採集されたものだが,複数遺伝子領域の解析から台湾周辺が起源地と推定される宿主植物の海流分散の過程と密接な関係を示し,それぞれの島で宿主を獲得したのではなく宿主と共に分散したことを示唆した.
  • 細矢 剛, Han Jae-Gu, Sung Gi-Ho, 平山 裕美子, 保坂 健太郎, Shin Hyeon-Dong
    セッションID: B14
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
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    ヒアロスキファ(ヒナノチャワンタケ)科は70属900種を超えるビョウタケ目最大の科である。演者らは、本科の系統分類に興味を持ち,日本産菌類相を明らかにすると同時に,その分子系統学的解析を行い,分類体系の再検討を行ってきた.本科は,大きく1)子実体形成菌糸層を持ち,無柄の子嚢盤を形成するArachnopeziza類,2)中型から大型で槍形の側糸か,顆粒を有する毛を持つLachnum類,3)小型で,さまざまな形態の毛をもつHyaloscypha類の3群から構成されるが,さらにこれらを細分化する意見もあるなど,科内分類群については見解の一致を見ていない.演者らは,2)について複数遺伝子を用いた系統解析を行ない,属レベルの分類を整理した.次に,残り二群について予備的検討を行い,いくつかの分子系統学的に強く支持される系統群を明らかにしてきた。本講演では,上記三群に加え,他のビョウタケ目菌類も含めて解析を行ない,本科の分類を考察した.上記1),3)群に属する22属26種を用い,ITS-5.8Sリボゾーム領域(ITS), LSUのD1-D2領域(D1D2),polymerase II second largest subunit(RPB2)ミトコンドリアSSU(mtSSU)の4遺伝子を結合して最尤法(RAxML)で解析した.まず,2)は単系統であることが示され,これらをLachnaceaeとして独立させる見解(Raitviir 2000)を支持した.これに対し,1),3)の二群は複数のクレードに分解し,これらの菌群の分類は支持されなかった.本科の基準属であるHyaloscyphaは,よくまとまったクレードを形成したが,このほかに複数属からなる別なクレードが強く支持された.ヒアロスキファ科の属は毛の性状を主要形質としてまとめられているが,属のまとまりはおおむね支持される一方,類似した形態が収斂進化によって生じていることが明らかになった.
  • 松澤 哲宏, 矢口 貴志, 堀江 義一, 五ノ井 透, Paride Abliz, Galba Takaki
    セッションID: B15
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/23
    会議録・要旨集 フリー
    ブラジル土壌から分離した Aspergillus fumisynnematus とアメリカのガン患者から分離された Aspergillus luntulus のタイプ株を MA, PDA 平板を用いて対峙培養をしたところ,接種約3ヶ月後に対峙面に白色の子のう果を形成し,子のう胞子も成熟した.子のう胞子の形態は既知のヘテロタリック Neosartorya の子のう胞子とは異なり新種である事を認めた.子のう胞子を 70℃,30 分の加熱処理をおこない発芽を確認し,両種は同一種であることが示唆された.形成されたテレオモルフは新種Neosartorya fumisynnemata とし,アナモルフは A. fumisynnematus で,A. luntulus はそのシノニムとした.A. fumisynnematus は分生子束を形成する事を特徴として創設された種であるが,今回対峙培養をおこなった株の集落は綿毛状で,分生子束は形成しなかった.しかし,子のう胞子から発芽し生育した集落はビロード状,綿毛状,縄状,分生子束状の多様性を示した.これらの菌の MAT 遺伝型はブラジル産の A. fumisynnematus が MAT-1-1,A. lentulus が MAT-1-2 を示した.子のう胞子から発芽形成された株は MAT1-1 と MAT1-2 が認められた.親株及び F-1 株についてβ-tubulin, calmodulin, actin 遺伝子を用いて系統関係を分析した結果,子のう胞子形成時に染色体の組換えが起こっている事が認められた.
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