タンパク質のポケットに安定に結合する小分子を特定することは,様々な生体分子反応の機構解明やドラッグデザインにとって極めて重要である.そこで我々は共溶媒中の分子シミュレーションを用いてリガンドの結合ポケットを探索する方法を開発した.本方法は4 つのステップからなる.最初に,20 %体積濃度の小分子と水から成る共溶媒溶液を準備する.二番目に,タンパク質を共溶媒溶液に浸し,平衡分子動力学計算を実施する.三番目に,シミュレーション結果を解析し,小分子が高濃度に存在した領域を特定する.最後に,主成分解析により小分子の結合モードを予測する.最初のテストとして,我々はProtein Data Bank から利用可能な5 つのタンパク質-リガンド複合体に対して手法を適用した.その結果,我々の方法で安定と予測された小分子の位置と向きは,実験的に安定と知られているリガンドの部分構造と一致していることが分かった.さらに,一つの系ではinduced-fit を必要とする隠れたポケットを精確に特定できた.
DNA に結合する蛋白質には,それぞれ固有の認識配列があり,細胞内に存在する膨大なDNA 塩基配列の中からその認識配列を見つけ出す.どのような過程を経て認識配列に到達するのであろうか.最近,我々は,ラックリプレッサー蛋白質がDNA から解離する過程の分子動力学シミュレーションを行い,その過程の構造変化と自由エネルギー変化を求めた.本稿では,この計算結果をもとに,DNA 塩基配列を探索中の蛋白質の様子について検証する.