概要 大腸菌などのバクテリアは,濃厚懸濁液中で集団遊泳を行い,まるで乱流のような渦構造を形成することが知られています.こうしたアクティブ微粒子が自己組織化するメカニズムについては不明な点が多く,シミュレーションによる解明が求められています.本稿では,まず始めに,大腸菌の濃厚懸濁液中に現れる渦構造について解説します.次に,ストークス動力学法による数値シミュレーションを用い,球形アクティブ粒子の自己組織化について調べた研究を解説します.最後に,境界要素法による数値シミュレーションを用い,楕円体アクティブ粒子の自己組織化について調べた研究を解説します.これらの研究を通し,アクティブ微粒子の自己組織化が近距離の流体力学相互作用によって生じることを示します.
アクティブマターとは,個々の物体に注入されたエネルギーを用いて,非平衡状態を保ちながら力学的な運動や変形を示すシステムである.自発的に運動する粒子の間の相互作用によって,平衡状態では見られない集団運動を形成する.このようなシステムを普遍的に理解するためにはシンプルな理論モデルを考察する必要がある.そこで,最近のアクティブマターで研究されている数理モデルを紹介し,それらのシミュレーションについて議論する.特に流体運動の重要性やそれがもたらすリロにゃ数値計算上の困難や問題点などについて注目する.
樟脳粒や樟脳粒にプラスチック板をつけた樟脳船を水面に浮かべると水面に樟脳分子が広がり表面張力を下げるため,表面張力の勾配が生成し,自発的に運動することが知られている.このような樟脳粒や樟脳船の運動に関して,水面での樟脳分子の濃の時間変化を表す偏微分方程式と樟脳船や樟脳粒の位置や特徴的角度についての時間発展を表す常微分方程式を用いたモデルを紹介する.樟脳船のように系に内在する非対称性がある場合はその非対称性を反映した運動をし,その場合には弱い非平衡条件であっても運動が見られる.それに対し,樟脳粒のように系が対称である場合には,自発的対称性の破れによって運動がおこるので,非平衡性をパラメータとして見たときに非運動状態から運動状態への分岐が見られる.またこのフレームワークによって,粒子の形状の対称性の影響,境界による影響,粒子間の相互作用などを調べることもできる.
概要 細胞骨格において分子モーターが誘起するダイナミクスと収縮応力に関する数値シミュレーション研究について簡単にレビューする.著者らは特にアクチンとミオシン分子モーターからなる細胞骨格に着目して,そのフィラメント間の架橋数が少なかったり細胞骨格の要素が入替(turnover)するような流動的な場合を調べ,収縮応力が生じる条件とその際の動的構造を調べている.本記事ではこの内容を中心に,関連する話題を紹介する.
概要 実験技術の進歩に伴い,アクティブマター(エネルギーを消費しながら自発運動する人工物の系や,微生物・細胞などの生物由来の系)に対しても,近年物理学的な視点から定量的実験が行われるようになってきた.外力や環境の変化によって非平衡状態がもたらされる通常の系とは異なり,構成要素の自発的運動によってアクティブマターは初めから強い非平衡状態にある.これらの系では特異な集団運動がしばしば出現するが,その物理的な機構や役割に対する理解はほとんど進んでおらず,計算科学的アプローチに期待が集まっている.最近のシミュレーションによる先駆的な試みにより,生体組織内部で見られる細胞の複雑な集団運動が簡単な機構で起こり得ることが示されつつあり,今後の発展に注目したい.本稿では,アクティブマターのモデリングに関する我々自身の研究例として,マイクロスイマー(粘性流体中を泳動する微生物や人工物)の集団運動,及び基板上で遊走・増幅する細胞の集団運動について概要を紹介する.
概要 分子動力学シミュレーションは,実験的な観測が困難な微細なスケールにおける閉じ込め液体に見られる特異な流動現象の把握を可能とする.しかしながら,計算負荷や計算条件による種々の制約から,本来再現すべき実際の系より小さな計算系サイズや周期境界系を利用することも多い.本稿では,自己拡散係数に対する計算系のサイズ効果,特に系の形状による影響についての研究成果を報告する.
概要 全原子分子動力学(MD)シミュレーションにより大規模なタンパク質複合体のシミュレーションが可能になってきた一方で,粗視化モデルを用いたタンパク質の大規模,長時間のシミュレーションも発展してきて いる.本稿では,タンパク質間の相互作用の粗視化モデルについて紹介する.タンパク質の粗視化モデルの一つであるGōモデルを用いてタンパク質内の相互作用を表し,タンパク質間の相互作用をアミノ酸間の有効相互作用を用いてモデル化する.特に,水溶液中の疎水性アミノ酸間に働く相互作用を,全原子MD により求めた結果についてまとめる.この結果から疎水性アミノ酸間の相互作用の粗視化モデルを構築し,タンパク質複合体に適用した結果について報告する.
マックスウエルにより物理学の法則に初めて確率が持ち込まれ,気体分子の速度分布が導かれた.その後,原子の存在を前提とした統計力学がボルツマンにより確立された.ボルツマンが統計力学に関する論文を出版した19 世紀の終わり頃は,まだ,原子は発見されておらず,マッハらとの論戦をしつつ,統計力学を確立していった.その原理は,極めて単純で,事象の等確率の原理と最大エントロピーの原理から,ある状態の確率分布関数,すなわち,ボルツマン分布が得られる.
概要 半導体デバイスやMEMS に用いられる材料の微細加工技術として,プラズマエッチングが多用されている.しかし,使用材料の多様化や,デバイス及び加工スケールの微小化に伴い,形状異常などの問題が発生している.プラズマエッチングは,反応種の被加工材料(基板)表面への衝突と化学反応が絡み合ったマルチフィジックスプロセスであることから,問題解決には原子・電子レベルでの化学反応ダイナミクスの解明が求められる.本研究では,エッチングメカニズムの解明並びに最適プロセス設計を目的に,Tight-Binding 量子分子動力学法に基づくエッチングシミュレータを開発し,反応種等に応じたエッチング過程の解明を試みた.
クラスレート水和物は,水分子が水素結合ネットワークによって作るカゴ状構造の中に,メタンや二酸化炭素等の分子が閉じ込められることで形成される結晶である.本研究では,メタンハイドレートに注目し,生成過程及び平衡状態について分子動力学シミュレーションを用いて解析を行った.生成過程の解析では,核生成速度及び臨界核サイズを求めることに成功し,水/メタン界面付近での結晶成長メカニズムを明らかに した.平衡状態の解析では,水/メタン/メタンハイドレート系の三相平衡条件を求める手法について議論し,圧力の計算方法やLennard-Jones 相互作用の計算方法によって,結果が異なることを明らかにした.
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