日本では昔から麦の赤カビ病原菌としてFusarium属のカビが注目され,下痢や嘔吐などを伴う赤カビ中毒症が数多く報告されている.諸外国においても,1940年代にソ連で発生した食中毒性無白血球症(ATA症),北米で頻発する家畜の拒食や嘔吐,子宮肥厚および各種臓器の出血などを特徴とするカビトウモロコシ中毒症などはフザリウムマイコトキシンに起因することが知られている. フザリウムマィコトキシンとして,強い細胞毒性を有するデオキシニバレノール(DON),ニバレノール(NIV)等のトリコテセン系マイコトキシンや,エストロゲン様作用を示すゼアラレノン(ZEN)などがあり,近年これらマイコトキシンによる穀類中の自然汚染が明らかにされている.これらの報告を見ると,アメリカ,カナダ,イギリス,南アフリカではもっぱらDONのみの汚染であり,わが国の四国,石川県ではDON, NIVの複合汚染がみられている.一方,ZENは世界各地で検出されている.これらの汚染調査にはそれぞれ異なった方法が用いられており,それぞれのデータを一概に比較することは難しい.したがって,今回,ヒトや家畜への影響が憂慮されているDON, NIVおよびZENについて,それらの暴露量を明らかにする目的で,まず,DON, NIV, ZENの同時微量分析法の開発,つづいて世界各地の穀類における汚染実態の把握,さらに自然汚染麦を用いて製粉,加熱調理におけるトキシンの除去の可能性について検討した.
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