ヒトの中毒性神経疾患は,原因,症状,傷害部位とも多種多様である.その原因物質は,古くから知られているクラーレやテタヌストキシンのような自然毒だけでなく,社会の産業化にともなって出現してきた重金属,産業物質による中毒があり,さらに最近では向精神神経薬,麻薬,抗悪性腫瘍薬,抗生物質などの医薬品による医原性神経疾患が急速に増加している. さて,これらの疾患の中には,有機水銀中毒である水俣病(水俣;1950年代,新潟;1960年代),キノフォルム中毒であるスモン(1960年代)のように大きな社会問題になったものもある.一方,蛇毒の一種であるブンガロトキシン(αとβ)や,後で述べるMPTPのように,特定のレセプターや神経細胞を特異的に傷害するので,ヒトの神経疾患モデルとして病因究明や発生機序の解明に大きな役割を果している毒物もある. 本ワークショップでは,ヒトの主要な中毒性神経疾患を,比較的最近知られるようになったものを含めて概観した後に,ヒトの神経変性疾患のモデルとして近年注目されている,MPTPによるパーキンソニスムとL-BMAAによる運動ニューロン疾患モデルについて紹介して責を果たしたい.
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