Chaetomium属菌類は強いセルロース溶解性を有することからその有用性が注目される.そのため,生物に対する安全性を考えると,マイコトキシンの検索は不可欠である.ここでは,1982年以後当研究室で行なったChaetomium属菌類の産生するマイコトキシンおよびその他の代謝産物の研究について述べる.なお,参考のため1982年以前にSekitaらにより報告されているものをTable 1に,その後当研究室で行なったものをTable 2に,それぞれ要約した. Chaetomium属においてsterigmatocystin生合成関連化合物は,sterigmatocystin(1)および0-methylsterigmatocystinが報告されているのみであった(Table 1).C.longicolleumから多種類の関連化合物(2~11)が得られたことは,今後Chaetomium属におけるsterigmatocystinの生合成を研究する上で,本菌は重要と考えられる. Chaetoviridins A~D(12~15)はazaphilone類に属する化合物で, Chaetomium属からの単離は初めての化合物群である.最近,12に関して抗発癌プロモーター作用があることが報告された.構造に関しては,四級炭素の長いつながりがあるたあNMR においてC-H long range COSYが有効であった.しかしそれでも不明な点は,[1,2-
13C
2]acetate の取り込み実験で解明した. Chaetochromins A~D(16~19)はKB cellに対し細胞毒性を示す.各種誘導体を作成し,細胞毒性を検討した結果,2位に結合する-CH
3が-CH
2OHになると毒性は1/100以下に低下する.また,水酸基をアセチル化しても毒性の低下はみられないが,メチル化すると著しい低下が認あられる.16に関しては,さらにミトコンドリア呼吸阻害作用,マウスに対する肝・リンパ球・骨髄の造血細胞などへの障害,さらに催奇形性についても報告されている.構造に関しては,16の重原子を導入した誘導体を作成しX線結晶解析で絶対構造もあわせて決定した.さらにこの結果をもとに,CDスペクトルの励起子カィラリティー法が,bis(naphto-γ-pyrone)系化合物の二量体形成軸の部分の立体の決定に適用できることを明らかにした. 20~25の化合物はepipolythiodioxopiperazine類に属する化合物群である.20~25は他のepipolythiodioxopiperazine類と同様にHeLa細胞に対し強い細胞毒性を示した.構造に関して,21はX線結晶解析で決定し,24と25は各種NMRスペクトル,分解反応,さらにFABMS/MSを用いて決定した.なお,trisulfide構造を有する24と25は常温では2つのコンフォメーションをとっていることが,温度可変の
1H-NMRを測定することにより明らかとなった.
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