我々は,アフラトキシンB
1(AFB
11)誘導ラット肝癌細胞株であるK1およびK2細胞においてc-mycと同様に14-3-3β 遺伝子が正常の肝臓組織に比べて著しく発現亢進していることを報告してきた.14-3-3β タンパク質はシグナル伝達因子に結合し,細胞増殖や分化を調節していることが報告されている.今回,ウェスタンブロッティングにより本遺伝子のタンパク質レベルで発現を調べたところ,mRNAレベルと同じく発現が著しく促進されていることが明らかとなった.発現亢進の原因を明らかにするために14-3-3β 遺伝子のサザンハイブリダイゼーションを行ったところ,Eco RI,Bam HI,Pst I,で処理した場合,K1およびK1細胞では正常肝臓組織に比べて切断パターンに明らかな相違が認められたことから,14-3-3β 遺伝子領域には点突然変異を含む変異が起きていることが考えられた.さらに,K2細胞を14-3-3β 遺伝子のアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)で処理したところ,プラスチックプレート上での増殖が約30%阻害された.また,点突然変異による活性化が報告されているrasファミリー遺伝子について,PCR,SSCP法を用いて解析したところ,K-ras,H-ras,N-ras遺伝子のexon1,2領域における変異は認められなかった.これらの結果は,AFB
1による肝発癌過程においてはrasファミリー遺伝子の点突然変異による活性化ではなく,14-3-3β 遺伝子領域の変異による発現亢進が脱制御されたc-myc遺伝子発現と共に重要な役割を果たしていることを示唆している.
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