マイコトキシン
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55 巻, 2 号
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総論
原著
  • シャルマ・ クリシャン・ダット, 長嶋 等
    2005 年 55 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    フラボノイドの多くの有益な作用が知られているにも関わらず, 肝毒性物質に対する作用についてはあまり知られていない. そこでヒト肝癌細胞HuH-7におけるルブラトキシンBの毒性に対してケルセチンとアピゲニンが保護するかどうかを調べた. 両フラボノイドは, 単独では細胞増殖を用量依存的に阻害した. ケルセチンは, ルブラトキシンBの細胞増殖阻害作用を調べたどの濃度 (30~100μM) でも減少させた. これに対しアピゲニンは, 低濃度 (9μM) でのみルブラトキシンBの細胞増殖阻害作用からの保護作用が観察された. ルブラトキシンBは腫瘍壊死因子-αとマクロファージコロニー刺激因子の分泌を誘導し, ケルセチンとアピゲニンは用量依存的にこれらのルブラトキシンB誘導性のサイトカイン分泌を阻害した. サイトカイン分泌の阻害に関しては, アピゲニンのほうがケルセチンより効果が高かった. これらの結果から, ケルセチンとアピゲニンにはルブラトキシンBによる細胞毒性から保護する作用があると考えられた.
  • 古宮 裕子, 佐久本 龍治, 倉部 誠也, 押木 朋和, 杉山 晶規, 川崎 靖, 田代 文夫
    2005 年 55 巻 2 号 p. 107-110
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    我々は, アフラトキシンB1誘導ラット肝癌K2細胞で14-3-3 βが高発現しており, 細胞増殖や癌化に関与していることを明らかにしてきた. 14-3-3 は標的因子の細胞内局在や酵素活性を制御することで, 細胞周期やアポトーシスなどのシグナル伝達に関与するタンパク質である. 本研究では, 14-3-3 βの癌化への作用機構を解明するため, Yeast two-hybrid法で14-3-3 β結合因子のスクリーニングを行った. その結果, 新規14-3-3 β結合因子FBI1 (fourteen three three beta interactant 1) を単離した. FBI1遺伝子はラット肝臓組織に比べ, K2細胞で高発現していた. FBI1の機能を解析するために, アンチセンスFBI1 (AS-FBI1) RNAを安定に発現するK2細胞を樹立し, 癌細胞の特性である足場非依存的増殖能をソフトアガーアッセイにより検討した. その結果, AS-FBI1 RNA発現細胞は親細胞に比べソフトアガー上でのコロニー形成能が著しく低下した. 以上の結果より, FBI1遺伝子産物は14-3-3 βと共同して癌細胞の足場非依存的な増殖を促進し癌細胞の悪性化に重要な役割を果たしていると考えられる.
  • 倉部 誠也, 古宮 裕子, 望月 清一, 片桐 久美子, 杉山 晶規, 川崎 靖, 田代 文夫
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2005 年 55 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    アフラトキシンB1は最も強力な発癌物質の一つであり, 様々な実験動物に肝癌を誘発することが知られている. 以前, アフラトキシンB1誘導ラット肝癌K2細胞では14-3-3 βとc-myc mRNAが過剰発現し, それらがK2細胞のin vivoin vitroの増殖に重要であることを報告した. しかし, アフラトキシンB1はゲノムに多くの異常を引き起こすので, 他の遺伝子もアフラトキシンB1による肝発癌に関与している可能性が考えられた. 今回, アフラトキシンB1誘導の肝発癌に関与している可能性が高い遺伝子としてラットNC33 (nuclear coiled-coil protein 33 kDa) を報告する. NC33の発現は正常なラット肝臓に比べ, K2細胞で非常に高かった. さらに, in vitroでの癌細胞の特性として知られる軟寒天中でのコロニー形成能はNC33の発現をアンチセンスRNAの強制発現によって低下させると減少した. これらの結果より, NC33の過剰発現はアフラトキシンB1による肝発癌に強く関わっていることが示唆された.
第57回学術講演会要約
特別講演
  • 郡司 渉, 甲斐 敬人, 宇津木 孝彦, 小野田 文俊, 村上 康文
    2005 年 55 巻 2 号 p. 117-128
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    現在, 網羅的な遺伝子発現解析が可能なDNAマイクロアレイは多くのシステムが登場しているが, その精度や感度, 再現性は乏しいのが現状である. DNAマイクロアレイの高感度化および高精度化には, プローブDNAおよびターゲットDNAの調製, そしてターゲットDNAとプローブDNAのハイブリダイゼーション過程までの数多くのステップを最適化する必要がある. 本研究では, 高感度・高精度に遺伝子の発現変動を検出できるDNAマイクロアレイシステムの開発を行った. 配列特異性が高いという利点を持つオリゴヌクレオチドプローブは, 従来の固定型のハイブリダイゼーション方式ではハイブリダイゼーション効率が不均一であり, 標識された色素依存的なハイブリダイゼーションが生じることが明らかになった. そこで, ハイブリダイゼーション効率を向上させるために循環型のハイブリダイゼーション方式を試みた結果, ハイブリダイゼーション効率が顕著に増加し, 色素依存的なハイブリダイゼーションが解消されて, 固定型のハイブリダイゼーションと比較して飛躍的な再現性, かつ精度の向上が示された.
シンポジウム
  • 小西 良子
    2005 年 55 巻 2 号 p. 129-132
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    アフラトキシンは, 天然物中で最も発ガン性の強い化合物であるが, そのメカニズムについてはアフラトキシンB1を用いて分子細胞学レベルまで研究されている. 本報告では2002年に発刊したIARCのモノグラフに基づいてアフラトキシンB1の発ガンメカニズムを中心に紹介した. また, わが国では現在アフラトキシンB1に関しては規制を設けているが, この規制を超える違反例の状況を検疫所のモニタリングシステムの結果から紹介するとともに, 最も違反例の多いナッツ類に焦点をあて, その輸入時検査での検出率からわが国のアフラトキシン汚染の現状について考察を行った. その結果, 現在の状況ではナッツ類におけるアフラトキシンの検出頻度および濃度も低いことから, アフラトキシン汚染による肝臓がん発症リスクは極めて低水準であることが明らかとなったが, この水準を保つにはより一層のモニタリングの強化と適切な基準値設定が必要であると思われた.
  • 高橋 治男
    2005 年 55 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    1960年代に飼料用落花生粕に発見されたアフラトキシン (AF) はその発がん性や毒性の強さ, また, 汚染食品の広範さなどからマイコトキシン研究の中心となり, 食品などにおける汚染実態, 産生カビの分類・同定などについて, 夥しい報告が蓄積されてきた. この報告では, AF汚染, 中でも落花生とコーンを中心に, 汚染とその産生カビについて近年の研究成果を交え紹介する. また, 近縁化合物で同様に発がん性が知られるステリグマトシスチンについても概説する.
  • 中島 正博
    2005 年 55 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    Ochratoxin A (OTA) was discovered by South African scientists during screening for toxigenic fungi that were belonging to strains of Aspergillus ochraceus. In contrast to the discovery of the aflatoxins, which was promoted by Turkey X disease, OTA has been treated as unimportant at that time. However, OTA became increasingly more interested in after discovery of natural occurrence of OTA in corn in 1969.
    OTA is a nephrotoxic and carcinogenic mycotoxin produced by Penicillium verrucosum in temperate or cold climate and a number of species of Aspergillus in tropical and subtropical area of the world, and is known to occur throughout the many kind of foods such as cereal, beans, coffee, cocoa, dried fruits, wine, beer, and spices. OTA has a half-life of about 35 days in humans, and was detected from human blood and breast milk, indicating a permanent dietary exposure.
    Under these circumstances, recently, the importance of OTA was more and more reflected by the works on risk assessment by the international organization such as the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives and European Union.
    In this paper, several surveillances of natural occurrence of OTA in foods by the international organizations and several countries are described. The carcinogenicity and genotoxicity of OTA are also summarized.
  • 川崎 靖, 杉山 晶規, 田代 文夫
    2005 年 55 巻 2 号 p. 149-153
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/05/19
    ジャーナル フリー
    アフラトキシンB1 (AFB1) は, 土壌菌であるAspergillus flavus等によって産生されるカビ毒で, 強い肝毒性と共に発癌性を有しており, 実験動物に肝癌を誘発することが知られている. しかし, その詳細な発癌メカニズムに関しては不明な点が多い. そこで当研究室では, AFB1誘発ラット肝癌より樹立したKagura-2 (K2) 細胞を用いて肝発癌の分子メカニズムについて解析を行っている. K2細胞における癌関連遺伝子について解析したところ, 癌遺伝子であるc-myc遺伝子およびリン酸化セリン結合タンパク質である14-3-3 β遺伝子の発現が亢進していることが明らかとなった. 今回, K2細胞の増殖および造腫瘍性における14-3-3 βの機能を解析した. 14-3-3 β mRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドでK2細胞を処理したところ, その増殖能は低下した. 14-3-3 βはBadに結合してアポトーシスを制御すると共に, c-mycと同様に細胞増殖を制御するRaf-1キナーゼの活性を調節していることが報告されている. そこで, K2細胞に14-3-3 β, c-myc, raf-1のアンチセンスオリゴヌクレオチドを様々な組み合わせで添加し, 増殖能に対する作用を調べたところ, c-myc, 14-3-3 βおよびraf-1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの同時処理により, K2細胞の増殖は顕著に抑制された. さらに, アンチセンス14-3-3 β cDNA発現ベクターを導入することにより14-3-3 βの発現量を低下させたK2細胞株を樹立し, ヌードマウス皮下へ移植したところ, 腫瘍形成能の著しい低下が見られた. 形成された腫瘍の性質を調べたところ, アポトーシスの増加と血管新生能の低下が認められた. 以上のことから, AFB1により誘導される肝発癌において14-3-3 βはc-mycと協同してRaf-1キナーゼの活性を正に制御して肝癌細胞の増殖を促進するとともに, アポトーシスの抑制とVEGF遺伝子の発現亢進による血管新生の促進を介して, 造腫瘍性に関与していることが強く示唆された.
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