Aspergillus section
Flaviの種は互いに類似した形態学的特徴を有するため、その鑑別は容易ではない。本研究の目的は、従来の形態学的な同定法に代わる
Aspergillus section
Flaviの迅速簡便な遺伝学的同定法を確立することであった。標的遺伝子としてコピー数が多く比較的保存性が低いとされているrDNAのITS(internal transcribed spacer)領域を使用した。発癌遺伝子の点変異検出用に開発されたSSCP(single-stranded conformation polymorphism)法やHPA(heteroduplex panel analysis)法を、
Aspergillus section
Flaviの種の同定に応用することを検討し、開発した遺伝学的同定法を実際の野外調査に応用した。その結果、調査した全6島のサトウキビ畑の土壌には、アフラトキシンBとGを産生する新しい遺伝子タイプであるFP-1株が高頻度に分布することを発見した。FP-1株には、形態学的に
A. flavusと
A. parasiticusに類似する株と、その中間の形態を有する株が混在したが、いずれもHPA法では同一の泳動パターンを示した。ITS領域の塩基配列に基づいて作成した系統樹で、FP-1株は両菌種の間に独立して分枝した。FP-1株はベトナムのサトウキビ畑からも分離された。1930年にエジプトのサトウキビに寄生した虫から分離された株(
A. flavus var.
flavusとしてCBSに登録されている)もHPA 法によりFP-1と同定された。保存菌株で、世界各国の種々の試料から分離された
A. parasiticusおよび
A. flavusにはサトウキビ関連以外のFP-1株は存在しなかった。これらの事実は、FP-1株がサトウキビ畑の環境に高い適応性を持っていることを示唆している。また、沖縄県南西諸島のサトウキビ畑の土壌には、世界的にも分離例が少ない
A. nomiusが高頻度に分布していることを発見した。これら両種の菌が、沖縄県産黒糖におけるアフラトキシン汚染の原因になっていると考えられた。
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