マイコトキシン
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62 巻, 2 号
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Part I (Papers in English)
Award Reviews
  • 杉浦 義紹
    2012 年 62 巻 2 号 p. 49-61
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     フザリウム属菌はごくありふれた糸状菌で,世界的に広く作物畑に分布している.その中のいくつかの菌種はトリコテセン類,ゼアラレノン,フモニシン類などのカビ毒を産生することで知られ,それらはヒトや動物のカビ毒中毒症と係わりがある.1980年以来,数種のフザリウム属菌の化学的な特徴を研究して来た.その研究にはフザリウム・クロックウェレンスの植物病原性とフザリウム・ソラニのマウス病原性も含まれている.本総説ではこれまでの実験的なフザリウム研究の概略とその研究中に得た経験をいくつか紹介する.
  • 田端 節子
    2012 年 62 巻 2 号 p. 63-75
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     食品の安全性向上を目的として,アフラトキシン,パツリン,オクラトキシン,シトリニン,デオキシニバレノール,フモニシン,ゼアラレノン等主要なマイコトキシンについて種々の研究を行った.アフラトキシン,パツリン,オクラトキシン,シトリニンについては,定量と確認を含んだ回収率,感度,精度,選択性の良好な分析法を開発した.これらの方法を用いて,国内のマイコトキシン汚染調査を行った.その結果,種実類,穀類,香辛料,乳製品からアフラトキシンが検出され,そのうちの一部からは,規制を越えるアフラトキシンが検出された.国内に流通するソバ,ハトムギ,黒糖等にアフラトキシン汚染があることを初めて明らかにした.物理的,化学的,生物的な手法によるアフラトキシンの減少について検討した.純粋なアフラトキシンは,減少させることが可能であったが,食品中のアフラトキシンを減毒することは,困難であった,パツリンにおいては,市販リンゴジュース,パツリン汚染があることを初めて明らかにした.また,国産リンゴにパツリン汚染があることを見出し,日本国内で,パツリンの自然汚染がおきていることが判明した.穀類,コーヒー,カカオ,果実加工品からオクラトキシンが検出され,1μg/kg未満の低濃度の汚染が多かったが,20μg/kgを超える汚染もあった.シトリニンは,穀類から検出され,オクラトキシンとの共汚染が認められた食品があった.マイコトキシンに関する分析法の開発,汚染調査,規制が食品の安全性向上に重要であると考えられた.
Regular Papers
Proceedings of the XIII International Congress of Mycology in IUMS 2011
  • 青木 孝之, Todd J. WARD, H. Corby KISTLER, Kerry O'DONNELL
    2012 年 62 巻 2 号 p. 91-102
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     経済的に多大な被害をもたらすコムギおよびオオムギの赤かび病が過去20年間以上も世界的に発生・流行している.赤かび病の主原因菌は当初,任意交配の単一種,Fusarium graminearumによるものと考えられていたが,過去10年間以上にわたり実施されたGCPSRを適用した一連の研究で,本形態種が少なくとも16の系統学的に異なった種(以降,F. graminearum種複合体と呼ぶ)からなることが明らかになった.アライメントした16.3kbのDNAシーケンスデータからなる,12遺伝子領域の結合データについての最節約法と最尤法に基づいた多遺伝子座分子系統学はF. graminearum種複合体に含まれる異なった種群が,アジア,北米,南米,オーストラリア,アフリカに放散したことを示唆している.これらの系統群の生物地理学的構造は,アジアと北米での種の隔離の証拠と共に,F. graminearum種複合体における広範囲の異所的種分化と矛盾無く一致する.GCPSRを適用して得られた結果とは異なり,菌の分生子の特徴や菌叢の形態を用いた形態学的種識別ではF. graminearum種複合体の16種の内,6種と3種群を区別できるのみであり,種の同定を容易にする高感度の分子鑑別ツールの必要性を示す.種同定とトリコテセンカビ毒ケモタイプ予測の必要性に向けて,多遺伝子座遺伝子型判定試験を考案し,その有効性を確認した.本法は,我々が行った世界的な赤かび病の調査研究において,新規のF. graminearum種複合体菌種の発見に極めて有効であった.赤かび病病原体の多様性と,それらのトリコテセンカビ毒産生能と生物地理学的分布の全体像を明らかにするために,分子および表現形質についての解析研究を現在も進めている.F. graminearum種複合体の分布とその変異に関する農業上の重要性についての理解は,土着でない赤かび病病原体の侵入と拡大を阻止するための農業バイオセキュリティの改善を含めて,新規の病害とカビ毒制御戦略の開発のために大変重要である.
パートII(日本語論文)
原著論文
  • 田原 麻衣子, 末松 孝子, 早川 昌子, 合田 幸広, 小西 良子, 杉本 直樹
    2012 年 62 巻 2 号 p. 111-119
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     定量 NMR(qNMR)は測定対象化合物とは異なる基準物質との水素の原子数比から,あらゆる化合物の絶対量が算出可能である.計量学的に信頼性の高い純度が値付けられた 1,4-BTMSB-d4を基準物質とし,トリコテセン系マイコトキシン類の市販試薬5種7製品の純度を求めた結果,82.9-98.7%となり,製品表示値より10%前後下回るものが認められた.本研究より,マイコトキシン等の天然毒の定量用標品とされる希少な市販試薬の純度測定に qNMRが有効な手段となり得ることが示唆された.また, qNMRによる純度を試薬に標記することにより,定量値の国際整合性の確保が間接的に可能となると考えられる.
第70回学術講演会ワークショップ「総アフラトキシン試験法のケーススタディ」
  • 吉成 知也
    2012 年 62 巻 2 号 p. 121-125
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     平成23年8月に発出された通知「総アフラトキシンの試験法について」において,総アフラトキシンの分析法として2種の方法が記載されている.一つが穀類,豆類及び種実類について適用する多機能カラム法,もう一つが香辛料や加工食品,その他多機能カラムでは精製が不十分な試料に適用するイムノアフィニティーカラム法である.本プロシーディングにおいては,ワークショップにおいて講演を行った多機能カラム法による調製について,実際に試料を分析した例を述べる.
  • 谷口 賢
    2012 年 62 巻 2 号 p. 127-131
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     平成23年8月16日付け食安発 0816第1号「総アフラトキシンの試験法について」において総アフラトキシンに対する試験法が通知された.この中で穀類,豆類および種実類については多機能カラム法を,香辛料や加工食品,その他多機能カラムでは精製が不十分な試料に対してはイムノアフィニティカラム法を適用できるとされている.しかし,当研究所および国立医薬品食品衛生研究所で検討した結果,イムノアフィニティカラム法において,通知文中「II.妥当性評価の方法」に示された真度を満たさない試料が存在することが判明した.
     そこで,種々の試料に対するイムノアフィニティカラム法の適用性およびその改良法を検討し,第70回学術講演会のワークショップで紹介した.本稿では,総アフラトキシンの試験法におけるイムノアフィニティカラム法の注意点およびこの検討結果について述べる.
  • 佐藤 孝史
    2012 年 62 巻 2 号 p. 133-142
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     昭和46年,アフラトキシンB1(AFB1)の規制値が設定され1),試験法として薄層クロマトグラフ法が採用されて以来,規制値に動きはなかったが,昨年,総アフラトキシンが規制対象となり,試験法も改良2)された.検査機関として,安定した結果を迅速にお客様に提供していくために,高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)の活用,検体の均一性確保,精度管理が不可欠である.今回は,その実際について紹介する.
第70回学術講演会シンポジウム「オクラトキシンAのリスク評価最前線」
  • 梅村 隆志
    2012 年 62 巻 2 号 p. 143-148
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     カビ毒オクラトキシンA(OTA)は長期投与によりげっ歯類腎臓に腫瘍を誘発する.しかし,変異原性については明確な結果が得られていないことから,その発がん機序は不明のままである.我々は,OTAが腎臓に発現する各種トランスポーターを介した腎内動態を経て,近位直部尿細管(S3)に蓄積することに着目し,2つのレポーター遺伝子,gptならびにred/gam(Sp-)を導入したgpt deltaラットに発がん用量のOTAを投与して,腎皮質及び髄質外帯部におけるin vivo変異原性評価を実施した.その結果,皮質部では変異原性は認められず,発がん標的部位であるS3を含む髄質外帯部において,主に欠失変異と考えられるSpi-変異頻度の上昇が認められた.次に,網羅的遺伝子発現解析手法により,OTA投与により発現変動する遺伝子を腎皮質及び髄質外帯部間で比較し,OTA発がん過程早期に係る遺伝子群の同定を試みた.皮質部では変化は認められず髄質外帯部においてのみ発現変動が認められた遺伝子として,DNA二重鎖切断修復,細胞周期促進,DNA損傷応答を介したG2/M arrest誘発,癌抑制遺伝子p53に関わる遺伝子群が抽出された.OTAの発がん標的部位においてDNA二重鎖切断修復関連遺伝子の変動が認められたことから,OTAが同部位に誘発する欠失変異はDNA二重鎖切断後の修復過程に生じている可能性が示された.
  • 馬場 浩
    2012 年 62 巻 2 号 p. 149-152
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/09/29
    ジャーナル フリー
     Aspergillus sect. CircumdatiAspergillus ochraceus菌群)のオクラトキシンA産生菌は近年改訂され,A.westerdijkiaeA.steyniiなどの新種が報告された.これらの種とA.ochraceusは形態的に非常に良く類似しており判別が困難になることから,β-tubulinやその他の遺伝子の分子系統解析が同定の手法として導入されている.わが国においてOTA産生性A.ochraceusと同定された食品由来の菌株について,伝統的な手法と分子系統学的手法によって再試験を行った.その結果,21株のうち19株は A.westerdijkiae,2株がA.steyniiと再同定された.分子系統学的手法は,sect. Circumdatiに属する最も重要なOTA産生菌を正確に判別する有用な手法である.
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