F. asiaticumを用いて,デオキシニバレノール(DON)産生の調節に影響する因子を調べた.低濃度のラパマイシンを添加した培地では,F.asiaticumの増殖は約40%抑制されたが,生育することはできた.しかしながら,F.asiaticumのDONの産生量は検出できなかった.次世代シーケンサーを用いたRNAシークエンシングによりRNAの発現量を測定したところ,低濃度ラパマイシンでは,DON関連遺伝子の発現量は低く抑えられたが,FaTor遺伝子の発現量は抑制されなかった.しかし,FaTorと相互作用するFaTap42遺伝子の発現量は約70%に抑制されていた.FaTap42の下流には3つのプロテインリン酸化酵素があることが知られているが(FaSit4,FaPpg1,FaPp2A),そのうちFaSit4,FaPpg1遺伝子の発現は抑制されていたが,FaPp2A遺伝子の発現は低濃度のラパマイシンの影響を受けなかった.低濃度ラパマイシンによる抑制効果は,FaTor経路の下流の遺伝子において異なることが明らかになった.
Eupenicillium sheariiから分離された新規のマクロライド系抗生物質であるeusherilideの抗真菌性活性に関する分子機序を明らかにする目的で,新鮮な単離ラット肝ミトコンドリアを用いてミトコンドリアの呼吸機能について検討した.Eusherilideは,L-グルタミン酸系とコハク酸酸化系呼吸の両方を阻害した.この阻害は,ロテノンとアンチマイシンAの阻害部位の上に電子伝達シャントを生成するN,N,N',N'-テトラメチル-p-フェニレンジアミン(TMPD)およびシトクロムcオキシダーゼのための人工基質であるアスコルビン酸によって回復されなかった.シトクロムの酸化還元スペクトルにおいて,シトクロムa, b, cの全てがeushearilide存在下で還元型を保っていた.このことから,eushearilideが電子伝達系のシトクロムcオキシダーゼ(complex IV)を阻害することが示唆された.EusherilideはKCl等張溶液の中で懸濁されたミトコンドリアの膨化を誘導した.このミトコンドリア膨化の誘導は,内膜で透過性孔の生成を示すシクロスポリンAによって阻止された.
これらの結果から,eushearilideがミトコンドリアの電子伝達系のcomplex IV部位(シトクロムcオキシダーゼ)の阻害により呼吸機能を減弱させ,ミトコンドリアを膨化させることが示唆された.
アフラトキシン生産阻害物質であるblasticidin Aが,ヒトのプロテインチロシンホスファターゼPTP1Bを阻害することを見出した.また,既知のプロテインチロシンホスファターゼ阻害剤であるdephostatinが,菌の生育やアフラトキシン生合成遺伝子の発現に影響を与えずに,アフラトキシン生産を抑制することを見出した.Aspergillus flavusのPTP1BホモログであるAfPTP1B-1およびAfPTP1B-2の組換え体に対し,blasticidin Aとdephostatinは異なる阻害活性を示した.以上より,プロテインチロシンホスファターゼがアフラトキシン生産において重要な役割を持ち,アフラトキシン生産阻害のターゲットとなることが示された.
本研究では,イソチオシアネート類(ITCs)がアフラトキシン産生菌のアフラトキシンB1(AFB1)生産に及ぼす影響を評価した.実験ではアリルイソチオシアネート(AITC)とメチルイソチオシアネート(MITC)を用い,AFB1産生菌としてAspergillus flavusを使用した.ITCsはジメチルスルホキシドで希釈して液体培地に添加し,3連にてA. flavusの培養を行った.ITCsの添加によって,培地中のAFB1濃度はITCsの濃度依存的に低下し,菌の湿重量も減少した.菌のAFB1生産に及ぼす影響を検証するために,バイオマスあたりのAFB1生産量を推定したところ,培地のITCs濃度依存的に減少した.これらの阻害作用はAITCよりMITCの方が強かった.AITCとMITCは特定のアブラナ科やフウチョウソウ科の植物に揮発性物質といて含まれることが知られている.したがって,これらの植物を用いることで新しいアフラトキシンの抑制方法を開発できるかもしれない.
日本の気候は温暖で湿潤のため,麦類赤かび病が発生しやすく,穀粒が赤かび病菌が産生するデオキシニバレノール(DON)等のかび毒に汚染される.安全で高品質な食料の安定供給を担う農林水産省にとって,麦類のかび毒のリスク管理は重要な課題である.当省は,効果の高い農薬による適期防除,適期収穫,乾燥調製の徹底等を内容とする指針を作成し,生産段階における麦類のかび毒低減を進めている.国産麦類のかび毒実態調査から,赤かび病の発生により玄麦のDON濃度の著しい変動があることや,DON暴露による未就学児の健康リスクが無視できるほど小さくないことが示されている.気候変動の影響等により赤かび病の発生が増える可能性もあるため,継続的な調査と低減対策の一層の徹底が必要である.
2019年2月6日,7日にバンコクで開催された,タイ王国カビ毒学会主催のカビ毒と食糧保障に関する国際会議The 3rd International Conference of Mycotoxicology and Food Security(ICM 2019)に参加した.その概要を報告する.