消化器癌の多くは,胃炎,肝炎,胆管炎,逆流性食道炎,炎症性腸疾患など,炎症組織を母地として発症する.発癌の最大の特徴は遺伝子変異,欠失,増幅,転座などの遺伝子異常が蓄積することであるが,最近私たちは,炎症がこうした遺伝子不安定性を誘発する機序を見出した.炎症の場では,
H. pyloriやHCVなどの病原体,さらにそれによって誘導される様々なサイトカインが,本来B細胞のみに発現していて,免疫グロブリンの遺伝子変異(somatic hypermutation)やクラススイッチ(class switch recombination)に必須の遺伝子編集酵素であるAIDを上皮細胞で誘導する.AIDはその脱アミノ化作用によってDNAのシトシンを最終的にチミンへと変換する.その結果様々な遺伝子に,遺伝子変異やDNA二重鎖切断を誘発して,発癌を促進すると考えられる.
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