49歳,男性.小腸部分切除術と人工肛門造設術後に排便過多が続き,意識消失発作と強直性痙攣発作(テタニー症状)を発症した.低Mg血症と低Ca血症,血清PTHの相対的低値を認めたが,Mgの補給により血清Ca濃度とPTH濃度は正常化した.人工肛門閉鎖術後は排便量が減少し,低Mg血症の改善を認め,血清Ca濃度とPTH濃度は正常範囲を維持できた.術後の吸収障害から低Mg血症を来たし,副甲状腺機能低下症を合併したと診断した.
75歳,男性.1年前から喉のつかえ感,口腔内逆流を自覚し,当院受診.上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD),食道X線造影検査(esophagography)では明らかな異常所見を認めなかった.内服加療を行うも自覚症状が改善しないため,high resolution manometry(HRM)を施行,食道アカラシアと診断された.患者と相談のうえ,内視鏡的バルーン拡張術を施行,著明に自覚症状の改善を認めた.通常の検査で診断が困難な食道アカラシアも存在することを念頭に置く必要がある.
66歳父親,61歳母親,33歳息子の3症例.6年前より夏季になると両親ともに夏型過敏性肺炎(summer-type hypersensitivity pneumonitis:SHP)をくり返し発症していた.今回転居を決断し作業を行ったところ,両親および今回初めて息子を加えた3人が同時にSHPを発症した.発症した要因としては転居作業に伴う一定閾値以上の抗原暴露が第一に考えられた.また,HLA抗原において,父親,母親,息子はそれぞれHLA-DQ9,HLA-DQ8,HLA-DQ8を保有しており,遺伝的にも発症しやすい環境にあったと考えられた.
38歳,女性.多関節痛を自覚後,急速にぶどう膜炎,発熱,咳嗽,体重減少,肺門リンパ節腫脹などを認め,気管支鏡検査,ガリウムシンチなどでサルコイドーシスと診断した.急性サルコイドーシスのLöfgren症候群のうち結節性紅斑を伴わないvariant formが考えられた.全身ステロイド治療を開始し症状は速やかに改善した.本症候群は本邦で稀であり,全身症状の強いサルコイドーシスでは鑑別に挙げる必要がある.
中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)は,2012年から3年以上,サウジアラビアを中心に患者発生が継続し,2015年8月27日までに,世界26カ国から1,511人の患者が報告されている.アラビア半島以外での患者発生は小規模にとどまっていたが,2015年5~7月に韓国で発生したアウトブレイクでは186人が感染した.MERSは,重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)と比較し,ヒトコブラクダでウイルスが維持されている動物由来感染症であり,同時多発的な国際伝播,航空機内での感染,市中感染などが起こっていないことなどの特徴があり,SARSで2~3とされている基本再生産数は1未満と推定されている.現在,SARSのように大規模で国際的な拡大の予兆は認められていないが,未知なことも多く,今後,ウイルスの変異に伴い,感染性が高まる可能性も否定できない.動物からの感染予防,院内感染対策などを強化するとともに,発生動向の国際的な監視が必要である.