急性副腎不全症(副腎クリーゼ)は,急激に糖質コルチコイド(glucocorticoid:GC)の絶対的または相対的な欠乏が生じ,致命的状況に陥る病態である.既知・未知の慢性副腎不全症患者に種々のストレス(感染,外傷など)が加わり,ステロイド需要量が増加した場合と治療目的で長期服用中のステロイド薬が不適切に減量・中止が行われた場合の発症が多い.症状は非特異的であり,消化器症状や発熱が前面に出る場合があり,急性腹症などと誤診される場合もある.副腎クリーゼが疑われる場合は,ACTH(adrenocorticotropic hormone),コルチゾールの測定用検体を採取後,躊躇なく治療を開始する.治療は生理食塩水,ブドウ糖液とヒドロコルチゾンの静脈内投与を基本治療とする.
褐色細胞腫からの急激なカテコールアミン分泌により,著明な高血圧,全身症状,標的臓器障害を呈する病態を褐色細胞腫クリーゼと称する.様々な刺激が誘因となって発症するもので,予後は不良であることから,早期の診断と適切な治療が必須である.カテコールアミン,代謝産物の過剰および画像診断による腫瘍の確認で診断する.α遮断薬フェントールアミンの静脈内投与後,点滴静注を継続し,血圧が安定したら選択的α1遮断薬の経口投与を行う.安定期には所定の準備期間を経て腫瘍の手術的摘出を行う.
甲状腺クリーゼは甲状腺診療における救急の代表例であり,多臓器における非代償性状態を特徴とする.臨床症状に基づいて診断され,日本における診断基準が作成されている.同診断基準に基づいて,我が国における全国疫学調査が実施され,致死率が10%を超えていた.致死的疾患であるので,疑診の段階でも治療を開始することが肝要である.
高カルシウム血症と低カルシウム血症は,いずれも症候性であれば適切な緊急対応が必要な病態である.意識障害と急性腎障害の場合は高カルシウム血症を,テタニーと痙攣の場合は低カルシウム血症の可能性を想起することが大切である.また,低カルシウム血症の原因として低マグネシウム血症が潜在する可能性にも配慮する.
低ナトリウム(Na)血症の病態把握のポイントは,細胞外液量(extracellular fluid:ECF)の推定,尿浸透圧と尿中Na排泄量の測定である.ECFはhypovolemic,euvolemic,hypervolemicに区分され,皮膚ツルゴールや血清尿酸値などの指標を用いて判定する.低Na血症性脳症の治療は,原疾患の治療,ECFとNaの補正および不足ホルモンの補充である.浸透圧性脱髄症候群を予防するため,血清Na値を頻回に測定し,低Na血症を緩徐に補正する.
神経性やせ症や過食症などの摂食障害は,低栄養や自己誘発性嘔吐や下剤・利尿薬乱用に伴う合併症で救急診療を必要とする場合がある.「摂食障害救急患者治療マニュアル」「神経性食欲不振症プライマリケアのためのガイドライン」について概説し,救急でみられる症状と疾患,栄養アセスメント,内科的緊急入院の適応,重篤な合併症と治療,栄養療法,再栄養に伴う重篤な合併症であるrefeeding症候群の予防について述べる.
重症低血糖による意識障害は,救急搬送患者の約1%に認められ,インスリンや経口糖尿病薬治療中の糖尿病患者に多いが,重症疾患を伴う非糖尿病患者にもみられる.低血糖を頻回に起こす患者では,自律神経の機能的障害によりインスリン拮抗ホルモン反応の低下と無自覚低血糖が引き起こされて低血糖の悪循環となる.糖尿病患者では低血糖に対する予防と対策を講じて慎重に血糖コントロールすることが重要である.
高血糖緊急症は1型糖尿病患者に限らず,全ての糖尿病患者で発症する可能性があり,初期治療を誤ると生命に関わる.糖尿病性ケトアシドーシス,高血糖高浸透圧症候群ともにインスリン欠乏(作用不足)と脱水が病態の根幹であり,治療の基本はインスリン投与と脱水補正である.発症予防には患者教育も重要な因子である.劇症1型糖尿病は2000年に本邦で確立された1型糖尿病の新たなサブタイプであり,成因には遺伝素因が関与し,ウイルス感染を契機に免疫応答が惹起され,β細胞が破壊されるという仮説が立てられている.
45歳,女性.両手指の腫脹を主訴に来院した.夜間早朝に血糖低値を伴い,著明なインスリン抵抗性を呈する糖尿病,抗インスリン受容体抗体強陽性および抗RNP抗体高値を認めたことから,MCTD(mixed connective tissue disease)を合併したB型インスリン受容体異常症と診断した.1日500単位以上のインスリン注射にも血糖降下反応は乏しく,インスリン,各種経口糖尿病薬,IGF-I,GLP-1アナログなどにより糖代謝失調を予防しつつ,DFPP(double filtration plasmapheresis,二重漉過血漿交換),ステロイド治療,シクロスポリン等各種免疫抑制療法にて抗インスリン受容体抗体の陰性化を得,寛解導入に成功した.
症例は71歳,男性.発熱,右頬部の皮膚病変を主訴に前医を受診し,全身性Castleman病の診断のもと,ステロイド治療が開始された.当院でトシリズマブを導入したが,治療経過は非典型的であった.再度精査を行い,Mycobacterium shigaenseによる播種型感染と診断した.免疫抑制薬や生物学的製剤使用時は,常に感染症併発のリスクを考えながら診療にあたるべきである.
85歳,女性.10年前から労作時呼吸困難を自覚していた.2年前に第12胸椎を圧迫骨折し,同時期から呼吸困難の増悪を自覚するようになり,入院となった.座位で増悪するI型呼吸不全を認めた.経食道心エコー検査では仰臥位から座位への変換で増大する卵円孔開存からの右左短絡を認め,platypnea-orthodeoxia syndrome (POS)と診断した.経皮的Amplatzer型閉鎖栓を行い,呼吸不全は改善した.本邦でAmplatzer型閉鎖栓は心房中隔欠損にのみ適応があるが,本疾患に対しても治療可能であった.
症例は54歳,男性.養豚業に従事し,豚の出産に立ち会うなど豚と濃厚に接触しており,ここが感染源と考えられる.入院後,Streptococcus suisによる細菌性髄膜炎に対して抗菌薬治療を早期に開始し,感染は比較的速やかに改善したが,聴覚障害は進行し,右耳は聾(ろう),左耳は高度難聴の状態になった.右耳に対して人工内耳埋込術を施行し,聴覚は会話が可能にまで改善した.
過去20年ほどの間に,諸外国では様々な医療制度改革が相次いで実施されてきており,家庭医が「プライマリ・ケア(primary care:PC)の専門医」であることが明確になってきた.家庭医としてのユニークな一揃いのコアコンピテンシーと改革の方向性は諸外国でほぼ共通しているが,医療制度とそこでの家庭医の役割は,各国の歴史・文化的背景に応じて多様な発展を続けている.改革を模索する米国の事情に続き,プライマリ・ケアの整備が進んだ主要国(英国,オランダ,オーストラリア,カナダ,デンマーク,ニュージーランド)で取り組まれているプライマリ・ケア重視の医療改革について,家庭医療の構造,ネットワーク化,IT化,質と安全,課題について概説する.家庭医とは何かについては,世界の家庭医のスタンダードになっているWONCA Europeの多軸構造の定義を紹介する.広い範囲の臨床分野の問題に断片的に対応する低いレベルの総合性ではなく,全ての臨床分野の問題解決に駆使される重層的な総合性が日本にも必要である.
免疫は,細菌やウイルスといった病原体などの異物(非自己)を排除する生体反応であり,ヒトの免疫システムは自然免疫と獲得免疫とに分けられる.免疫システムの異常は様々な疾患の病態に関与するが,自己免疫疾患(autoimmune disease)は主に獲得免疫の異常によって引き起こされる.近年,この自己免疫疾患と対比される疾患として,主に自然免疫の異常に起因する自己炎症疾患(autoinflammatory disease)が注目されている.また,単純な免疫システムと考えられてきた自然免疫が,獲得免疫の始動に必要不可欠であるとともに,自己免疫疾患の発症機序においても重要な役割を果たしていることがわかってきた.中でも,病原体由来の核酸を認識する自然免疫のパターン認識受容体(pattern recognition receptor:PRR)が,自己由来の核酸を認識することで炎症・免疫反応を惹起し,代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)の病態に関与することが明らかになってきている.