喘息の病像は多様であるが,気道の慢性炎症は一貫した特徴である.呼気一酸化窒素濃度は,気道の好酸球性炎症を捕捉するバイオマーカーである.喘息を疑わせる呼吸器症状に加え,気道炎症の存在は喘息の診断を支持する.本稿では,気道における一酸化窒素(nitric oxide:NO)の産生機序,呼気NO濃度測定の方法と留意点,喘息の診断や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の鑑別における呼気NO濃度測定の役割について最近の話題を提供する.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)患者の大多数は喫煙経験を有する高齢者であり,非COPD喫煙高齢者に比べて高い頻度で呼吸器合併症・全身併存症を持つことが多く,全身炎症の関与が推察されている.併存症がCOPD増悪など,COPDの自然歴に影響を及ぼすことや,β遮断薬やスタチンなど,心血管系・代謝系併存症に対する薬物加療がCOPD経過に影響を及ぼす可能性などが指摘されており,COPD診療では全身性疾患として対応する必要がある.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)における身体活動性は近年注目されている新たな指標であり,その維持・向上は極めて重要である.適切な評価にはデータの再現性確保が重要で,加速度計を用い,天候や休日,季節,測定日数などの影響を考慮することが必要である.現時点では,身体活動性向上のための有効な医療介入法は確立されてはいないが,薬物療法,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ),モチベーション向上などを含めた複合的介入が重要と考えられる.
特発性肺線維症は,治療法が確立されておらず,平均予後が診断後5~6年程度の予後不良な疾患である.これまで有効な治療が存在しなかった疾患に対し,近年,治療への新たな希望がみえてきている.進行性の肺の線維化を抑制する治療(抗線維化薬)の有効性が相次いで報告されている.国際ガイドラインの治療推奨に関する記述も変更されており,今後は抗線維化薬が特発性肺線維症の第一選択薬となると考えられる.
内科疾患に潜む睡眠関連呼吸障害の中で認識すべき病態として,閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA),中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea:CSA),睡眠関連低換気などがある.成人のOSAは頻度が高く,高血圧,糖尿病,虚血性心疾患,心房細動などの生活習慣病患者群においてその頻度はさらに高くなる.CSAの1種類であるCheyne-Stokes呼吸(Cheyne-Stokes breathing:CSB)を伴うCSAは心不全,脳疾患,腎不全患者などで合併することが多い.高二酸化炭素血症の患者にみられることが多く,REM(rapid eye movement)睡眠期に顕著になる睡眠関連低換気にも注意が必要と考えられる.
市中肺炎は呼吸器感染症の中でも代表的な疾患であるが,近年の日本の超高齢社会や医療環境の変化により位置づけが変わってきている.肺炎による死亡例の約96%を65歳以上の高齢者が占めているように,高齢者肺炎や高度医療に伴う耐性菌性肺炎および日和見感染が市中肺炎といえども増加してきており,これらのリスクを有する医療・介護関連肺炎(nursing- and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)と市中肺炎は表裏一体の関係にあり,区別が難しいことも多い.本稿では,このような肺炎の特徴を踏まえながら,市中肺炎の原因菌の動向やリスク因子などについて概説する.
過敏性肺炎のトピックスの1つは特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)と慢性過敏性肺炎の鑑別である.慢性過敏性肺炎の過半数は鳥抗原が原因であるが,多くが潜在性に発症するために診断が困難である.抗原曝露を受ける環境として,鳥飼育以外に羽毛製品に留意する必要がある.慢性過敏性肺炎では特異抗体の陽性率が低く,スクリーニングとして抗原回避試験が有用である.適切な治療により予後の改善を期待できるので,早期の診断が望まれる.
進行非小細胞肺癌に対する化学療法は個別化治療の発展に伴い,近年,著しく進歩している.EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー変異を伴う肺癌に対しては,対応する分子標的治療薬を用いることで生存期間の大幅な延長が得られており,それらの耐性例に対する新薬開発も盛んである.その他の肺癌でも,殺細胞性抗癌薬への血管新生阻害薬併用や維持療法の有用性の確立,さらには免疫療法の登場によって,予後は着実に改善している.
約3年前に成人発症Still病(adult onset Still’s disease:AOSD)と診断された65歳の女性.23価肺炎球菌ワクチンを接種後に血球貪食症候群を併発した.ステロイド増量とガンマグロブリンの投与にて病勢の改善を得た.しかし,二次感染予防目的のST合剤の開始翌日から関節痛が増悪し,AOSDの再増悪を疑いシクロスポリンを投与した.その後,良好な経過を辿った.AOSDのコントロール不良例では,免疫抑制薬の併用が有用であると考えた.
B型慢性肝炎に対し,ラミブジン(lamivudine:LAM)投与が開始されたが,耐性株出現のためアデホビル(adefovir dipivoxil:ADV)を追加された.その後,脆弱性骨折を繰り返し,腎性尿糖,低カリウム血症,低尿酸血症,低リン血症,汎アミノ酸尿,高ALP血症などの所見から,アデホビルによる薬剤性Fanconi症候群と診断した.アデホビルを中止しエンテカビル(entecavir:ETV)へ変更したところ,各検査所見は改善傾向を示した.Fanconi症候群はあらゆる薬剤で起こる可能性があり,最も注意すべき副作用の1つである.
症例は59歳,男性.急性に発症した右下肢痛を主訴に入院.胸腹骨盤部造影CTで右後脛骨動脈瘤破裂を認め,血管内治療(コイル塞栓術)を施行し,安全に止血が得られた.精査の結果,神経線維腫症1型(neurofibromatosis type I:NF-1)と診断した.NF-1は有病率が比較的高い遺伝疾患で,血管脆弱性を背景とした病態を認め,血管の破綻を来たした本症の治療法として血管内治療が有効である可能性がある.
65歳,女性.高血圧,肥満症で加療中であったが,全身倦怠感,尿閉のため当院受診した.両側水腎症を認め,腎後性腎不全に対し経皮的腎瘻造設術を施行したが,腎障害改善なく,原因不明の遷延性乳酸アシドーシス,無症候性低血糖も認められた.持続的血液濾過透析を施行下に腹部造影CT検査を施行し,腹壁皮下結節および腹直筋の不整肥厚などを確認した.皮下結節およびリンパ節の生検にて形質芽球性リンパ腫と診断した.化学療法を開始し,乳酸アシドーシスや低血糖は速やかに改善した.悪性腫瘍,特に血液系腫瘍ではWarburg効果がみられることがあり,原因不明の乳酸アシドーシスでは,原因として悪性腫瘍の可能性を念頭に精査する必要がある.
悪性腫瘍は本邦の死亡原因の第1位となっており,早期発見とともに治療開発による治療成績の改善は極めて重要である.特に消化器がんに対する治療開発はめざましく,新たな治療薬の登場が相次いでいる.細胞傷害性薬剤の併用による治療成績の向上の後,分子標的治療薬の上乗せ効果を期待した臨床試験が実施され,小分子化合物や抗体薬の有効性が示されてきた.さらに,近年ではマルチプレックス診断法によるプレスクリーニングに対する治療アプローチや免疫チェックポイント分子阻害薬による治療アプローチが重要である.一方で,複雑化・高額化するがん治療における専門医教育も本邦においては重要である.
最近,抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体による免疫チェックポイント制御やT細胞レセプター(T cell receptor:TCR)やchimeric antigen receptor(CAR)などの遺伝子改変T細胞を用いたがん免疫療法の驚くべき治療効果が蓄積されつつある.造血器腫瘍領域に関しては,化学療法抵抗性Hodgkinリンパ腫に対する抗PD-1抗体,難治性B細胞腫瘍,小児急性リンパ性白血病,骨髄腫などに対するCD19-CAR-T細胞療法,急性骨髄性白血病や骨髄腫などに対するWT1-TCRやNY-ESO-1-TCR遺伝子治療などの治療効果が注目されている.他方,これまで期待されてきたがんペプチドワクチンや樹状細胞療法単独での治療効果の限界も明らかにされつつあり,免疫チェックポイント制御などの併用療法が期待される.これからのがん治療は,従来の化学療法や放射線療法に加えて,これらの免疫療法を複合的に併用する集学的治療を実践することによって,大きな治療成績の向上が期待される.