PBL(problem-based learning,問題基盤型学習)の教育特性は,臨床問題解決のための推論の基本を形式として学ばせると共に,症例に関連付けて知識を習得させることにある.PBLは,現実の症例の多様性・不確実性のなかで,現実の症例の多様性・不確実性をひとまず脇において,必要な事実が過不足なく埋め込まれたシナリオに基づいた,問題発見・解決訓練である.そのため,その後の臨床や研修で,現実の対象において,この訓練過程を繰り返すことによって,実践的な能力として結実させる必要がある.また,現場での問題解決体験が前提となれば,臨床実習前教育の質向上が期待できる.
問題志向型システムPOS(problem-oriented system),それによって記載される診療録POMR(problem-oriented medical record)は,1969年に問題志向型診療録としてWeedによって提唱されたカルテの記載法の規範であり1,2),医学教育の重鎮であるHurstによって米国に広められ3),本邦では日野原が普及に努めたこと4)で知られている.問題(プロブレム)毎に情報を整理し,プロブレム毎にSOAP(subjective, objective, assessment, plan)に分けて記載する方法で,PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回すことによって医療を進めつつ,科学的な診療録の記載を行うよう図られている.この手法は内科系を中心に浸透した.学会組織も立ち上がり(日本POS医療学会),その記載法も医学から看護へと広がった.また,日本内科学会の退院時サマリーにもプロブレムリストが使われている.そして,今,電子カルテ,さらに地域包括ケアの時代を迎え,新たな理想のカルテ像が模索されるなかで,POMRも再考の時期を迎えている.
超高齢社会を迎えた今,multimorbidity(多併存疾患状態)が当たり前となり,旧来の科別・疾患志向ではなく,患者の抱える問題志向の包括的プロブレムリストを用いて診療を行う重要性が増してきている.本稿では,患者の訴える症状や身体所見等の基本情報からプロブレムリストを作り上げていく基本的な方法から,膨大で複雑な問題点を抱える患者での応用的なプロブレムリストの運用方法,膨らみすぎたプロブレムリストの縮め方等について解説する.
エビデンスに基づく医療(evidence-based medicine:EBM)が提唱され四半世紀.その言葉は浸透したが,誤解も多い.EBMはエビデンスを盲信するものではない.エビデンスを踏まえたうえで,患者の病状や周囲を取り巻く環境,患者の価値観,医療者の臨床経験を考慮し,一人ひとりの患者でベストな診療を行う,個別化医療のツールである.患者や家族がエビデンスを理解し,自ら診療上の決断が下せるような支援が必要である.
Clinical problem solvingカンファレンスとは,従来の学会発表のように,診断名を先に出してしまうことはせず,実際の臨床現場を再現するように,症例提示者が患者背景,主訴,病歴,身体所見を順に提示し,討議者あるいは参加者が各段階で鑑別診断を考えつつ,質問し,意見を出し合って,皆で診断を進めていく形の症例検討会である.他者の経験した症例を自らも考えながら疑似体験することになるため,数を重ねるほど診断推論の力を伸ばすことが期待できる.
医学ジャーナルにおけるclinical problem-solvingのスタイルで主な特徴は,診断名が伏せられていること,エキスパート診断医(ディスカッサント)の暗黙知(タシット・ナレッジ)が時系列的にそれぞれの臨床場面において記述されることである.エキスパート診断医が迅速な推論を行う場合にはヒューリスティックを用いており,その主要なルールにはオッカムの剃刀等がある.診断遅延または診断エラーの原因には認知バイアスもあり,行うべきワークアップを途中で止めてしまうことをプリマチュア・クロージャー(早期閉鎖)という.
診断とは,患者に起こっている現象を医学知識に照らし正確に解釈する作業である.我々は,問診,診察からの情報をもとに鑑別診断を挙げ,診断を確定する.このプロセスでは,主に2つのプロセス,パターン認識と分析的推論を使い分けている.正しい診断を行うためには,実践を積み,それをフィードバックし,理論的知識・実践知を系統立てて整理していくことが必要である.
外来診療における診断を目的とした医療面接は,問診票をみた段階で疾患を想起することから始まる.患者の話を頭のなかで映像化しながら,まずはopen questionで概要と問題点,患者ニーズを把握し,続いてclosed questionで想起した疾患仮説の妥当性を検証する.器質的疾患の見逃しを防ぐには精神疾患の除外が重要であり,代表的な精神疾患の特徴を理解し,積極的に診断する訓練が欠かせない.
71歳,男性.2012年に血管内大細胞型B細胞性リンパ腫に対して自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を実施した.2014年に特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)を発症し,リツキシマブとプレドニゾロンの投与にて加療していた.2015年に亜急性に進行する小脳失調が出現し,誤嚥性肺炎で死亡した.病理解剖で小脳,橋,延髄にJCウイルス(JC virus:JCV)感染細胞を認め,テント下に限局した進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)と診断した.
21歳男性.発熱,頭痛,意識障害で受診し,経過や髄液所見から細菌性髄膜炎と診断された.2年前から寮生活を始め,入寮直後に髄膜炎菌性髄膜炎の既往があった.抗菌薬及びステロイドで直ちに治療を開始し,良好な経過をたどった.1年半で2度,髄膜炎に罹患していることから,免疫異常の精査をした結果,第7補体欠損症と判明した.集団生活者は髄膜炎菌感染症のハイリスク者と言われており,また,髄膜炎菌感染症を繰り返す症例には第5~9補体欠損症の可能性を考慮する必要がある.
症例1:45歳,男性.生来健康であったが,発熱・左眼視力低下があり,近医眼科を受診し,左眼視神経浮腫・網膜剝離を認め,当院眼科・内科へ紹介となった.眼科所見・身体所見・血液検査から猫ひっかき病と診断し,抗菌薬及びステロイド薬の内服・点眼で加療し,速やかに改善した.症例2:21歳,女性.生来健康であったが,発熱・項部硬直・右眼視力低下・腋窩・耳下部の疼痛を自覚し,近医内科・眼科を受診し,右視神経浮腫を指摘され,当院眼科・内科へ紹介受診となった.眼科所見・身体所見・血液検査から猫ひっかき病と診断,抗菌薬及びステロイド薬の内服・点眼加療で速やかに改善した.猫ひっかき病は,自然治癒傾向の軽症例から本症例のように視神経網膜炎や髄膜炎を起こす重症例まであり,視神経網膜炎や髄膜炎を診た際には,猫ひっかき病を鑑別疾患の1つとして念頭に置くことが必要である.
79歳,男性.呼吸困難を主訴に来院し,肺炎の診断で入院.尿中抗原も含め,入院時の検査では,起因菌は不明であった.抗菌薬加療を行うも,症状が遷延した.尿中抗原陰性のレジオネラ症を考慮し,加療を変更.その後,症状の改善が得られた.後日,喀痰レジオネラPCR(polymerase chain reaction)陽性が判明し,レジオネラ症と診断した.尿中抗原は,serogroup 1以外のLegionella属に対する検出感度が十分ではないことに留意すべきである.
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)ヘテロ接合体は一般人200~300人に1人と,以前の想定よりも頻度の高い常染色体優性遺伝疾患であることがわかってきた.FHは早発性冠動脈硬化症による若年死リスクが高い疾患だが,早期診断・早期治療が極めて有効であり,積極的な診断を家族の治療にもつなぎ,診断率を向上することが非常に大切である.これまでの既存薬ではFHの治療は不十分であった.2003年に3番目のFH遺伝子としてPCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)が発見され,2016年に承認されたPCSK9阻害薬(前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型阻害薬)はFHヘテロ接合体でもLDLコレステロール(low density lipoprotein-cholesterol:LDL-C)を十分に低下させることができる.また,有効な薬物が少ない重症型のFHホモ接合体にはMTP(microsomal triglyceride transfer protein)阻害薬が2016年に承認された.これらの薬剤の登場がFHの心血管疾患治療を大きく前進させている.
日常診療に基づくreal world data(RWD)に基づくreal world evidence(RWE)は,良質な日常診療のために近年,その必要性がますます高まっている.Real world dataの1つである関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者の大規模コホートIORRA(Institute of Rheumatology,Rheumatoid Arthritis)は,2000年以来17年間に亘る患者調査を行い,診療実態の変遷,治療薬の変化,合併症の状況,薬剤経済学的検討,ゲノム情報の影響等多岐にわたる研究を行い,既に123編の英文論文を発表してきた.その結果,臨床医が日常診療で感じていることを経時的に定量的に示すことができ,多くが臨床医の実感を裏付けるものであった.多くの内科医が日常遭遇する慢性疾患の長期的アウトカムを示すことのできる観察研究データベースは,ますます重要性が増すものと考えられ,多くの疾患分野において同様の研究が行われることを期待する.
がん免疫療法のなかで,免疫チェックポイント阻害薬が複数のがん種で臨床開発が成功をおさめてきている.本剤はT細胞に抑制のシグナルを入れる受容体である免疫チェックポイント分子を抗体でブロックすることにより,抗原提示細胞や腫瘍細胞に発現するリガンドから抑制のシグナルが入ることを遮断して,T細胞の活性化を持続させて癌を攻撃させる.2011年3月に切除不能悪性黒色腫に対して抗CTLA-4抗体が同剤として米国FDAから世界初の承認を受けた.その後,抗PD-1抗体が悪性黒色腫を始め複数のがん腫で国内外の承認を得ており,現在,単剤での臨床開発をリードしている.また,抗PD-L1抗体をはじめとする他の免疫チェックポイント阻害薬についても臨床開発が進められている.さらに,複合免疫療法(併用療法)としては,抗PD-1/PD-L1抗体を軸として他の薬剤との併用を検証する臨床試験が多数行われている.本稿では,免疫チェックポイント阻害薬について包括的に解説する.