増加する脂質異常症の診断には,血清脂質を正確に測定する臨床検査の存在が不可欠である.特に,LDL(low density lipoprotein)コレステロール測定における正確性と標準化に関する国内独自の検討もなされてきた.正確な病態評価のためには,リポ蛋白分画や脂質亜分画などの関連検査も重要になる.動脈硬化性疾患の抑制のためには,脂質に関連する臨床検査の意義と注意点を十分に理解して診療することが重要である.
日々の日常診療で遭遇する脂質異常症患者の中には,なんらかの原因により脂質異常症を来たす二次性脂質異常症や冠動脈疾患の発症リスクが高い原発性高脂血症患者,さらには非常に稀な原発性高脂血症があり,治療法が通常の脂質異常症とは異なる疾患が紛れている. 脂質値の異常を来たす背景因子を鑑みることが,そのような疾患を見落とさないために重要と思われる.
脂質異常症治療の基本は食事・運動療法を基盤とした生活習慣の改善にある.内臓脂肪減少に向けて食事の総エネルギー摂取を適正化し,さらに炭水化物50~60%,脂質20~25%のエネルギー比とする.また,飽和脂肪酸摂取を制限し,n-3系不飽和脂肪酸に置き換えて摂取するとともに,コレステロール摂取も200 mg/日以下に制限する.日常生活の中で身体活動を増やし,個々に適した運動を生活に取り入れるように心がけることも重要である.
トリグリセライドの空腹時高値のみならず,食後高値も心血管イベントとよい相関を有する.食後高脂血症の病態では小腸由来カイロミクロンの代謝異常により,食後にカイロミクロンレムナントが増加し,動脈硬化惹起性が上昇する.その定量的評価系であるアポリポ蛋白B-48濃度は頸動脈中膜肥厚や冠動脈狭窄罹患率と相関する.食後高脂血症の治療としては,食事療法,スタチン,フィブラート,エゼチミブ,インクレチン関連薬が有効である.
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)に代表される遺伝性疾患の研究や,近年の次世代シークエンサーの発展などに伴うゲノムワイド解析による高頻度遺伝子変異と脂質・冠動脈疾患との関連解析により,LDL(low density lipoprotein)コレステロールと冠動脈疾患との因果関係はさらにゆるぎないものとして示されてきた.一方で,HDL(high density lipoprotein)コレステロールと冠動脈疾患との因果関係には疑問符がつけられるに至った.このようなゲノム情報は脂質管理のみならず,新たな創薬にも貢献しつつある.
冠動脈疾患など心血管病の予防にスタチンを中心とした脂質低下療法が重要であることはいうまでもない.積極的脂質低下療法による,より大きなイベント抑制効果やプラーク退縮効果が報告され,特に高リスク群でベネフィットが大きいと考えられる.スタチン治療後の残存リスクやスタチン不耐性の高リスク症例は,既存治療におけるアンメット・メディカル・ニーズであり,PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬などによる今後のエビデンスが期待される.
高トリグリセライド(triglyceride:TG)血症,低HDLコレステロール(high density lipoprotein-cholesterol:HDL-C)血症はそれぞれ動脈硬化促進因子である.高TG血症ではレムナントやsmall dense LDL(low density lipoprotein)などの動脈硬化を促進するリポ蛋白が増加する.スタチンによる脂質低下療法を行っても残存する高TG血症や低HDL-C血症に対する治療は特に重要である.エネルギー摂取量の適正化を基本とした食事療法や運動療法とともに,ストロングスタチンやフィブラート,ω-3系脂肪酸製剤の有効性が示され,アポリポ蛋白C-IIIに作用する新規薬剤の開発も進んでいる.
残余リスクの正体は何か―標準治療であるスタチンによるLDL-C(low density lipoprotein-cholesterol)低下の限界を超える新たな治療薬の登場により,LDL-C低下療法は新時代に入り,また,ゲノム研究から,高TG(triglyceride)血症も重要な動脈硬化リスクであることがわかってきた.より若年からの介入の重要性,新治療薬開発など,脂質の治療は新たなパラダイムに入ろうとしている.Commonな脂質異常から遺伝子異常の明らかな難病まで,脂質異常症の治療の今後の可能性を探る.
ペラグラは3D(dementia,diarrhea,dermatitis)と表現され,主としてビタミンの一種であるナイアシン(niacin)の欠乏により発症する疾患で,食糧事情の改善された現在では極めて稀な病態だが,本症例は単純糖質を主とした特殊な偏食による状態で発症した.診断,治療には精神神経症状や消化器症状など全身的な代謝障害の1つに,本症名称の皮膚科疾患が位置づけられていることの認識が重要である.
症例は68歳,女性.腎機能低下,Fanconi症候群,M蛋白血症の精査のため腎生検を行われた.その結果,電子顕微鏡にて近位尿細管の細胞質内に結晶構造や不規則なライソゾームを認め,light chain proximal tubulopathyと診断した.本疾患の診断には電顕が必要になることもあり,Fanconi症候群,M蛋白血症を認めた際には,電顕の組織所見を確認し,本疾患も考慮する必要がある.
Alzheimer型認知症で加療されていた67歳,女性.痙攣,意識障害で入院し,頭部単純MRI上,大脳白質に広汎なT2WI高信号域および大脳皮質に多数の微小出血を認めた.脳生検にて,大脳皮質内の血管壁にアミロイドβ蛋白(Aβ)の沈着があり,脳アミロイドアンギオパチー関連炎症(cerebral amyloid angiopathy-related inflammation:CAA-I)と診断した.ステロイド加療により検査所見や臨床症状は改善した.本症はステロイドなどによる免疫療法が有効であり,治療可能な認知症の鑑別疾患として重要である.
62歳,男性.短腸症候群の既往があり,慢性腎不全に対し人工透析が導入された.しかし,急性心不全を発症し,透析導入前と比較し左室機能低下を認めた.血液検査の結果,血中のセレンとアミノ酸の一種であるアルギニンの低下を認めたが,補充療法にて左室機能改善を認めた.人工透析患者で左室機能障害を認めたときは,微量元素およびアミノ酸の欠乏を鑑別におくことが重要である.
BT(bronchial thermoplasty)とは,気管支鏡を使ってカテーテルを気管支にまで到達させ,気管支に直接,高周波電流を流すことによって,気管支平滑筋量を減少させるという非薬物的治療法である.高用量の吸入ステロイド薬と長時間作用性気管支拡張薬の合剤によってもコントロール不十分な難治性喘息に対する新規治療法として,2015年4月より保険収載された.大規模試験として行われたAIR2試験では呼吸機能の改善は認めないものの,QOL(quality of life)の改善や重篤な喘息増悪回数,救急受診回数の減少が認められた(最長5年間の経過観察にて).副反応としては,喘息増悪,喘鳴,呼吸困難,胸痛,下気道感染,無気肺,血痰などが認められたが,重篤な事象はみられなかった.我々の施設でも,今までに計17症例のBTを安全に施行してきており,一部の症例では著明な呼吸機能の改善も認められた.今後,症例のさらなる集積が望まれる.
血小板と赤血球は,ともに生体維持に重要な役割を果たしている循環血球成分であり,血小板は止血作用を,赤血球は全身への酸素運搬を担う.献血血液製剤は,重度の血小板減少および貧血を来たした患者に投与されて多くの命を救ってきた一方,供給不安,同種免疫反応,感染症などのリスクが存在し,高齢社会に伴う絶対的な献血ドナー不足も予測されている.これに対し,iPS細胞から製造される血液製剤はドナーに依存しない供給が可能であり,これらの問題の解決が見込まれている.現在,血小板の大量製造技術はおおよそ確立して臨床応用が視野に入っており,赤血球についてはさらなる大量製造や成人型赤血球産生などの技術的課題が存在するが,克服に向けて研究が進められている.再生医療の観点からは,血液製剤は造腫瘍性の懸念が低いため,早期の普及が見込まれ,他のiPS細胞応用医療を牽引することも期待される.
血管内皮細胞は,血流と直に接し,血球成分や種々の生理活性物質と連携して生体にとり最適な反応を引き起こすという大事な役割を担っている.一方で,高血圧や高血糖などにより内皮細胞が障害を受けると正常血管機能が破綻し,動脈硬化の進展,不安定プラークの形成,大血管障害の発生に関与する.このため,より早期に内皮機能障害を知ることはイベント発生の予防と予後予測が可能であると考えられ,多くの基礎研究や臨床試験により,内皮細胞で起こる現象や病態の解明が進むことでエビデンスの蓄積が実現した.それに伴い,内皮機能検査の方法や手技が進化し,検査機器も発展し,進化した.こうして,血管内皮機能検査は2012年より,保険適用を獲得した.ここでは,汎用されるプレチスモグラフィー,FMD(flow mediated dilation,血流依存性血管拡張反応),RH-PAT(reactive hyperemia peripheral arterial tonometry),各種バイオマーカーも含めて説明し,各種病態でのエビデンスレベルについて言及していく.