EGFR遺伝子変異の発見以来,非小細胞肺癌では様々な分子診断手法が導入されてきた.最近,liquid biopsyが保険承認され,さらに多遺伝子変異検査の導入も視野に入っている.各検査手法には固有の限界があり,それを理解することが検査手法の導入,臨床応用に必要である.本稿では,遺伝子変異の概略に関して触れ,さらに各検査手法に特徴的な注意点に関して詳述する.
肺癌薬物療法では,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場したが,いまだ殺細胞性抗癌薬の役割は大きい.進行期非小細胞肺癌や進展型小細胞肺癌ではプラチナ療法が重要であるが,前者では非扁平上皮癌と扁平上皮癌で治療選別化が進んできた.また,二次治療以降も新たな治療法が開発されている.プラチナ療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用など,今後,治療アルゴリズムがさらに変遷していく可能性がある.
非小細胞肺癌における上皮成長因子受容体遺伝子変異の発見とその特異的阻害薬の開発によって,遺伝子変異陽性例の予後は著明に延長した.これまで使用されてきた第1,2世代の阻害薬に加え,2016年にはT790M変異陽性例に対して第3世代の薬剤が承認された.本稿では,新しい知見が続々と報告されているEGFR(epidermal growth factor receptor)遺伝子変異陽性肺癌の治療戦略について概説し,今後の課題を述べる.
ALK融合遺伝子陽性肺癌は非小細胞肺癌の約5%を占め,ALK(anaplastic lymphoma kinase)阻害薬が著効する.現在,ALK融合遺伝子陽性肺癌に対して第1世代のALK阻害薬クリゾチニブと第2世代のアレクチニブ,セリチニブが承認され,実地臨床で使用可能となり,これらの薬剤をいかに使い分けるかが課題である.これまでの臨床試験結果および基礎的な研究から各薬剤の特徴を理解し,これら複数のALK阻害薬を使いこなすことにより,ALK融合遺伝子陽性肺癌の予後のさらなる改善を期待できる可能性がある.
血管新生阻害薬は,血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)カスケードの活性化により引き起こされる腫瘍の血管新生を阻害することにより,進行・再発非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)症例において殺細胞性抗癌薬との併用により全生存期間(overall survival:OS)の延長をもたらした画期的な薬剤である.また,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)や免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)との併用療法に関しても徐々にエビデンスが蓄積されており,適格症例においては適正に使用すべき薬剤である.
免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)であるnivolumabおよびpembrolizumabは,新たな一次治療および二次治療以降の選択肢として,進行期非小細胞肺癌の薬物療法を大きく変えた.非小細胞肺癌に対するICIの使用においては,腫瘍細胞におけるprogrammed cell death ligand-1(PD-L1)発現割合検査を適切に実施することが求められる.さらに投与後に認められる効果・副作用の特徴を十分に理解し,免疫関連有害事象が発症した場合には,関係する診療科と適切に連携し管理を行うことが重要である.
開発費の高騰化は,医薬品が高額となる主な理由となっている.日本では薬剤費が医療費全体に占める割合も大きくなり,社会保障の根幹を揺るがす可能性すら指摘されている.諸外国では高額な薬剤は保険承認されても償還されないために患者のもとに届かないという問題が生じている.医薬品の高額化は世界中の問題である.日本ではいかにして医薬品などのコストを削減しつつ,医療レベルを保ち,開発も促進できるかが課題である.
78歳,男性.原因不明の発熱にて入院精査中,突然の腹痛と吐血を生じ,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭部から出血を確認.腹部造影CT(computed tomography)にて多発肝動脈瘤を認め,肝動脈瘤破裂による胆道出血と診断した.血管炎による多発肝動脈瘤が疑われ,間接蛍光抗体法を行い,MPO(myeloperoxidase)およびPR3(proteinase 3)-ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody)陰性のANCA関連血管炎(ANCA-associated vasculitis:AAV)と診断した.ステロイドとシクロフォスファミド(cyclophosphamide:CY)の治療を開始し,その後は改善が得られ,腹部CT画像では多発肝動脈瘤の縮小も確認された.
大動脈十二指腸瘻の2例を経験した.2例は腹部大動脈瘤破裂に対し人工血管置換術の既往があった.症例1:70歳,男性.主訴:吐下血.上部消化管内視鏡では出血源を特定できず,その後急変し,死亡.剖検にて大動脈十二指腸瘻が出血源と診断された.症例2:68歳,男性.主訴:吐血.腹部CT(computed tomography)検査,上部消化管内視鏡検査では出血源が不明であったが,症例1を踏まえ,大動脈十二指腸瘻からの出血を疑い,緊急手術にて救命できた.
14歳,男児.剣道の練習後に肉眼的血尿と尿蛋白を認め,受診した.部活動後に限定された肉眼的血尿というエピソードや溶血所見より,剣道にて誘発された行軍ヘモグロビン尿症候群の診断に至った.腎炎合併を否定するため施行された腎生検では近位尿細管への鉄沈着を認めた.若年者の運動後に検尿異常を認めた場合,運動歴の聴取が診断には必須である.予防により血管内溶血を軽減させることが可能であるため,予防策の提示も重要である.
症例1は80歳代,男性.食思不振・便秘症の精査のため紹介され,肝障害および肝CT値の上昇を認めた.アミオダロン内服中止により肝CT値の改善を認め,7カ月後,肝機能は正常化した.症例2は80歳代,女性.アミオダロン内服開始16カ月後にアミオダロンによる肝硬変と診断し,同薬を中止したが,肝不全により死亡した.アミオダロンによる肝障害は,時に肝硬変へと進展する重大な副作用であり,注意を要すると考えられた.
オートファジーは飢餓時のエネルギーやアミノ酸などの供給だけでなく,不要な蛋白や障害を受けた細胞内小器官を消化することにより,細胞の恒常性維持にも関与する.さらに,虚血再灌流障害や薬剤性腎障害において,障害されたミトコンドリアなどの細胞内小器官や変性蛋白を消化することにより,尿細管細胞の保護にも関与している.オートファジーは飢餓などにより誘導され,非特異的に蛋白などを消化すると考えられてきたが,肥満や脂質異常,高尿酸血症など,過栄養の状態においても,消化すべき変性蛋白や異常ミトコンドリアなどが尿細管細胞で増加するために,定常状態のオートファジー活性は上昇している.しかし,このような状態が持続すると,オートファジー・リソソーム系の停滞が起こり,ストレス時におけるオートファジー活性亢進が障害され,オートファジーによる腎保護作用が働かず,腎障害が進展する.
過敏性肺炎とは,感受性のある個体において特定の抗原(動物由来蛋白(鳥など),真菌/細菌,あるいは無機物(イソシアネートなど))が肺局所で反応して免疫学的機序で発症する間質性肺炎である.発症に至る免疫機序は,特異抗体(III型アレルギー)と感作リンパ球(IV型アレルギー)が重要であるが,加えて原因抗原の種類・量,肺内での除去速度および内的外的要因によって免疫反応は変化する.臨床病型は急性および慢性の2つに分けられる.急性はTh1とTh17反応が主体であるが,慢性ではそれらの反応がTh2にシフトし,線維化の原因となる.診断においては,原因抗原を特定することが重要である.原因抗原は多数あるが,特に羽毛やとり糞などの鳥関連蛋白および真菌の頻度が高い.治療においては,抗原の回避を基本とし,ステロイドや免疫抑制薬によってアレルギー性炎症をコントロールし,線維化を抑制する.線維化の進んだ慢性過敏性肺炎の治療が今後の課題である.