ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)は日本に約100万人の感染者が存在し,近年,九州・沖縄地方から都市部へ分布が変化しつつある.妊婦検診,献血によって判明するケースがそれぞれ3分の1で,年間4,000名程度は新規に感染が判明する.感染ルートは母児感染と性交渉であるが,最近,性感染の実態が明らかになりつつある.感染者の5%程度が成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)を発症するほか,HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM),HTLV-1ブドウ膜炎等の原因になる.
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)は,ヒトで初めて同定された病原性レトロウイルスであり,生きた感染細胞を介してのみ感染するという特徴を有している.生体内では,主にCD4陽性Tリンパ球に感染しており,その感染細胞の形質を変化・増殖させ,次の個体へと感染を拡大している.HTLV-1のマイナス鎖にコードされるHTLV-1 bZIP factor(HBZ)はHTLV-1の病原性発現に極めて重要な役割を担っている.この感染細胞を持続的に増殖させるというウイルスの戦略が病原性と結び付いており,感染細胞の抑制が発症予防にも重要である.
妊婦健診においてヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)検査が必須項目となり,妊婦健診で判明したHTLV-1キャリア妊婦に対する相談支援体制の構築が必要となった.当初,HTLV-1キャリアの一次相談窓口としての保健所が想定されたが,キャリアが求める相談内容は多彩であり,保健所だけでは解決できない問題も多い.特にカウンセリングや授乳相談,相談窓口におけるHTLV-1ウイルスの認知度の差,相談体制の地域差等を考慮すると,地域の基幹施設との連携を基盤としたキャリア相談窓口の整備が必要である.
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)は,4カ月以上の長期母乳哺育することで児に感染する.母子感染を予防するため,妊婦に対するHTLV-1抗体検査が公費で施行されている.母子感染予防のためには,①人工乳哺育をまず推奨し,母乳哺育を望む際は,②90日間までの短期母乳,③凍結解凍母乳の2つの方法を呈示し,それぞれのメリット,デメリットを呈示したうえで,本人に栄養法を選択してもらうことが望ましい.短期母乳,凍結解凍母乳選択例では,乳房管理を含め,出産後のフォローが必要である.
成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)は,ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)によって発生する予後不良な末梢性T細胞腫瘍である.多様な病態・臨床経過から,急性型,リンパ腫型,慢性型,くすぶり型の4病型に分けられる.急性型・リンパ腫型ならびに予後不良因子を有する慢性型ATLはaggressive ATL,予後不良因子を有さない慢性型・くすぶり型ATLはindolent ATLと分類され,治療方針が決定される.Aggressive ATLでは,急速な経過を辿る症例が多く,適切な診断と治療が必要である.
HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は,ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)感染に起因する両下肢痙性対麻痺を主徴とする神経難病であるが,その症状・経過には個人差が大きく,疾患活動性に応じた治療が必要であり,そのバイオマーカーとして髄液中ネオプテリンやCXCL10の測定が重要である.現在,ステロイドやインターフェロン(interferon:IFN)αによる治療が主軸であるが,近年,病因であるHTLV-1感染細胞を標的とした抗体療法の治験が実施されており,新規治療法として注目されている.
HTLV-1ぶどう膜炎は無症候キャリアに合併する眼内炎症である.主訴は霧視,飛蚊症,視力低下等で,片眼あるいは両眼に生じる.このぶどう膜炎は副腎皮質ステロイド薬によく反応し,視力予後は良好であるが,約30%の患者でぶどう膜炎が反復して起こる.全身合併症としてBasedow病の既往,HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)がみられることがあるが,成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)の合併は極めて稀である.
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)は,数万年前に類人猿からヒトに伝播され,特徴的なT細胞腫瘍と炎症性疾患を人類にもたらしてきた.本ウイルスの病原性発見の契機となった成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia:ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は,未だに有効な治療法に乏しい難治性疾患であるが,近年の我が国における抗CCケモカイン受容体4(CC-motif chemokine receptor 4:CCR4)抗体,Taxワクチン(Tax抗原を標的とする樹状細胞ワクチン)等の開発は,HTLV-1関連疾患の治療パラダイムを変革しつつある.今後はHTLV-1感染T細胞の増殖を効果的に抑制するための新規免疫療法の開発に大きな期待が寄せられている.
71歳,女性.発熱,全身倦怠感,右上肢の腫脹を主訴に受診し,心膜摩擦音,心電図上ST上昇,心囊液貯留から急性心膜炎と診断した.心タンポナーデ,軟部組織壊死を認め,血液培養検査でA群β溶連菌を検出し,劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)と診断した.多臓器不全の進行により,第2病日に死亡した.剖検上A群β溶連菌の直接心筋浸潤を確認し,STSSによる急性心膜心筋炎を発症したと考えられた.
69歳,女性.55歳時より他院で骨粗鬆症治療を開始した.67歳時より多発骨折を来たし,中心性肥満様の体型からCushing症候群が疑われ紹介受診した.Cushing徴候は明らかではなかったが,内分泌学的検査と画像検査から左副腎腫瘍によるsubclinical Cushing症候群と診断した.特徴的な身体徴候を認めない閉経後女性の脆弱性骨折においても,内分泌疾患の可能性を考慮する必要がある.
31歳,女性.以前より細菌性髄膜炎を頻回に再発していた.2015年8月下旬,急性に発熱,意識障害が出現し,精査加療目的にて当院へ入院した.髄液検査などの結果から細菌性髄膜炎を疑い加療を開始したところ,速やかに症状は改善した.頭部造影CT(computed tomography)検査および経鼻ファイバースコープ観察にて上咽頭内に髄膜瘤の遺残を認めた,経鼻式髄膜瘤摘出術を施行したところ,術後から現在まで髄膜炎の再発なく経過している.
52歳,女性.水疱性類天疱瘡で加療中にSpO2 88%,SaO2 94%とSpO2―SaO2の乖離を認め,メトヘモグロビン(methemoglobin:MetHb)が9.7%と上昇.内服中のジアフェニルスルホンを中止したところ,MetHbは2.5%と低下し,SpO2 95%,SaO2 97%と改善したため,薬剤性MetHb血症と診断した.SpO2とSaO2の乖離を認めた際にはMetHb濃度を確認することが重要である.
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の病態形成には,防御機構を凌駕する活性酸素種産生,すなわち「酸化ストレス」が深く関与している.また,酸化ストレスの亢進には鏡像的変化として,一酸化窒素の生物学的利用能(bioavailability)低下が付随している.このROS/NOの不均衡は,腎臓病の進展のみならず,心血管病の発症機序にも関与している.一方,虚血と酸化ストレスは共存するのが通例であり,また,病因的にも双方向性の関係を有している.虚血の解除は酸化ストレス軽減をもたらし,病態改善につながる.
肝細胞癌は,肝硬変など背景肝疾患を併存していることがほとんどであり,また,根治的治療後においても肝内転移や多中心性発癌などの再発が多いといった特徴がある.そのために,肝細胞癌の治療には,肝切除,全身化学療法および放射線療法に加え,穿刺局所療法や肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE),肝動注化学療法,そして肝移植といった肝細胞癌に特異的な様々な治療法が確立されてきた.肝細胞癌における集学的治療に関しては,高いエビデンスレベルで有効性が確認された治療法が乏しいこともあり,実臨床では治療選択に難渋することがしばしばであるが,多角的かつ専門的な判断による集学的な治療戦略を立案することが重要である.各種治療法の同時的あるいは経時的な組み合わせにより,より高い治療効果を得る努力や再発抑制対策を含めた包括的な取り組みが大切である.