本邦におけるB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)感染者(キャリア)は,40代以上の中高年に多く,人口の1~2%,110~140万人とされる.近年は慢性化につながる遺伝子型(ゲノタイプ)Aeの急性感染が増加している.C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)抗体の陽性率は1~2%,C型肝炎ウイルス感染者は190~230万人とされる.いずれも抗ウイルス治療の進歩はめざましく,多くの症例でコントロールが可能となった(図1).最近,非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)が増加し,新たな肝癌の成因として注目されている.
B型慢性肝疾患に対する核酸アナログ製剤治療の導入により,B型慢性肝疾患からの肝発癌症例は減少したが,完全になくなったわけではない.HBV(hepatitis B virus)増殖を抑制しても肝発癌を来たす症例が散見される.そこで,今回は,抗ウイルス治療の現状とHBVコントロール下での肝発癌症例の特徴をまとめる.
免疫抑制・化学療法によりB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)が再増殖することをHBV再活性化と称する.HBV再活性化による肝炎は重症化しやすく,原疾患の治療を困難にさせる.発症そのものを阻止することが最も重要であり,日本肝臓学会からガイドラインが発行されている.近年,C型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)の治療中にもHBV再活性化の症例が認められており,注意が必要である.
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)は,ヒト遺伝子に組み込まれるだけでなく,核内で完全閉環二本鎖DNA(covalently closed circular deoxyribonucleic acid:cccDNA)として長期間に亘り肝臓内に残存するため,HBV再活性化を引き起こす可能性がある.現状の治療では完全排除することは困難であるが,HBV複製サイクルを再現する持続感染培養系の確立により,近年,B型肝炎創薬研究が飛躍的に加速した.作用機序の異なる新規治療オプションを組み合わせることにより,近い将来,必ずこの疾患を克服できると期待している.
C型肝炎に対する抗ウイルス治療は,直接,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)を標的とする,直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)による治療が主流となっている.現在,HCVのプロテアーゼ,NS5A蛋白,NS5Bポリメラーゼを標的にした3種類の薬剤が開発され,短期間での安全なウイルス排除が可能となった.しかし,薬剤耐性変異ウイルスの存在や,現在,非代償性肝硬変例や肝癌症例には不適応である等の問題点も残っており,今後の展開が期待される.
直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)治療の時代になり,かつては治療適応でなかったC型慢性肝疾患の進展した患者や高齢者からウイルス排除が得られる時代になった.ウイルス排除後の肝癌の問題は,今後C型肝炎患者のなかで最も大きな患者群に関係する重要な課題になっている.本稿では,DAA治療の時代の持続的ウイルス学的著効(sustained virologic response:SVR)後の発癌及び癌の再発について概説し,いくつかの関連論文を紹介する.いずれの報告も観察期間が未だ十分でなく,今後のさらなる評価が必要である.また,SVR後の肝癌に関しては,リスクを層別化するバイオマーカーの開発が期待される.
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)のライフサイクルと糖質・脂質代謝は密接な関係にあり,C型肝炎に感染した肝では,代謝関連遺伝子の発現も大きく変化している.近年のC型慢性肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)の進歩により,多くの症例でウイルス排除が達成されるようになると,ウイルス排除後には糖質・脂質代謝に大きな変化が見られた.今後,その機序の解明と治療介入の必要性について,多数例での検討が望まれる.
直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)の出現によって,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)キャリアの数は減少することが期待される一方で,ウイルス消失後の発癌や,生活習慣病に伴い日本でも著明に増加している非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)を背景とした肝硬変・肝癌に対する抑制治療の開発が今後の重要な課題となる.肝臓は糖,アミノ酸,脂質やアルコール等の代謝における中心的な臓器であり,これらに起因する慢性肝疾患の進展抑制には,早期の段階から生活習慣の是正を含めた治療が必要とされる.
53歳,男性.近医にて潰瘍性大腸炎と診断され,メサラジン(mesalazine)の使用が開始された.開始後11日目より発熱,咳嗽が出現し,抗生物質を処方されるも改善せず,当院紹介となった.胸部CT(computed tomography)では両肺に末梢優位の浸潤影を認めた.気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)中の好酸球比率は95%と上昇しており,経気管支肺生検においても肺組織への好酸球の浸潤を認めた.経過及び検査所見から,メサラジンによる薬剤性好酸球性肺炎と考え,同薬剤の中止及びステロイドの投与を開始し改善を認めた.
43歳,女性の不明熱患者.持続する発熱に加え,慢性蕁麻疹と無菌性・非腫瘍性の多発する骨髄炎を認めた.さらにIgM-κ型のM蛋白が検出され,自己炎症症候群であるSchnitzler症候群と診断した.トシリズマブによる治療にて上記の症状は消失し,以後,寛解を維持している.しかし,長期的にはリンパ増殖性疾患を発症することがあるため,注意深い観察が必要である.
42歳,男性.全身の発汗低下を主訴に受診した.起立性低血圧や頻尿を伴い,広汎な自律神経障害が示唆された.皮膚生検で汗腺及び血管周囲にリンパ球浸潤を認め,抗ganglionicアセチルコリン受容体抗体陽性が判明した.通常,同抗体は自己免疫性自律神経節障害(autoimmune autonomic ganglionopathy:AAG)の原因となるが,汗腺への直接作用は明らかでない.本症例には汗腺と自律神経節障害の両者の特徴が混在し,ステロイド治療が有効であった.
これまで,薬剤性腎障害(drug-induced kidney injury:DKI)の定義とその予防や治療に関して明確なものはなく,発症頻度の詳細や病態の体系的理解に結び付く報告も少なかった.2016年,我が国で初めて「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」(日本医療研究開発機構 腎疾患実用化研究事業,2016年)が刊行され,具体的な概念の提唱と障害機序をもとに分類・診断する試みがなされた.薬剤性腎障害は,急激に腎機能が悪化する急性腎障害(acute kidney injury:AKI)だけでなく,慢性的に緩徐に腎機能が悪化する慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)やネフローゼを呈する場合もあり,症状・経過は多彩である.発症機序は,予測可能なものと予測不可能な特異体質によるものに大別され,特に前者では投与前にリスクファクターの評価と対策を講じることで発症を抑制できる可能性がある.また,DKIを疑った場合には,原因薬剤を可能な限り早期に同定・中止することが基本となる.今後は,データ集積,得られたエビデンスの検証,国際比較により薬剤性腎障害診療の確立が進むと考えられる.
高齢者で薬物療法を安全かつ有効に実施することは非常に困難である.実際に,薬物動態の加齢変化やポリファーマシー(polypharmacy)を背景として,薬物有害事象(adverse drug events:広義の副作用.薬物アレルギー等確率的有害事象のほかに,薬効が強く出過ぎることによって起きる有害事象等薬物使用に関連した全ての有害事象)のリスクは高齢者ほど高く,残薬や処方の適正化という問題もある.特にポリファーマシー対策は喫緊の課題であり,「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(日本老年医学会)をその対策に用いることができる.しかし,その内容には,まだ信頼性の高いエビデンスがない場合も多く,適用範囲と薬物の種類は定期的にupdateしていく必要がある.もう1つの課題は,高齢者の適切な薬物療法という考え方と上記ツールを普及・啓発することである.医療提供側はもとより,医療を受ける高齢者とその家族の理解がなければ適切な医療を提供し得ない.自治体を含めて地域包括ケアシステムに関わる全ての関係者が協力して啓発に努めていくべきである.
抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎など,血管炎に関する研究・診療は,最近の数年間に飛躍的に進展した.ANCA関連血管炎の疫学研究ではHLA DRB1*09:01,DRB1*13:02が関連していることが明らかとなった.ANCA産生機序・病態研究では,好中球細胞外トラップを含むANCAサイトカイン連鎖説,ミスホールド蛋白/HLA-DR複合体説が提唱され注目されている.臨床面では,血管炎に関する新規分類(CHCC2012)が提唱され,分類・疾患名の改訂,日本語病名の統一などが行われた.また,ANCA関連血管炎の診療ガイドラインの改定版が発刊され(2017年),血管炎の疾患概念の普及や標準的な治療法が提示された.さらに「厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班」のホームページが設置され,診療ガイドラインのポイント,典型的な病理組織像が掲載され,血管病理診断コンサルテーションシステムが開始された.