肺高血圧症は稀な疾患であるため,長期間診断されずに,右心不全を起こすまで治療介入が行われない例も多い.一般内科では,長く持続する労作時の息切れを主訴とする場合,心電図及び胸部X線写真で肺高血圧症に特徴的な所見の有無を検索することがスクリーニングとして重要である.また,肺換気・血流シンチグラフィーやDLCO(carbon monoxide diffusing capacity)の評価各種血清学的評価,また最近では,遺伝子検査が肺高血圧症の診断・鑑別に役立つため,解説する.
米国心エコー図学会(American Society of Echocardiography:ASE)から,心エコー図法による右心機能の評価方法が多数提言されて以来,肺高血圧症における心エコー図による右心機能評価は一般化しつつある.それらの指標を用いたスクリーニング方法と重症度判定について,欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)の肺高血圧症の診断と治療のガイドラインに則り,解説する.
特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial hypertension:IPAH)/遺伝性肺動脈性肺高血圧症(heritable pulmonary arterial hypertension:HPAH)は基礎疾患を持たないにもかかわらず,高度の肺高血圧を呈する疾患である.女性に多く,かつては若年者の疾患であったが,近年,高齢の患者が増加している.本症の治療成績は飛躍的に改善し,大部分の患者は10年以上の長期生存が可能となった.本症の症状・所見は非特異的なものばかりであるが,早期治療介入を可能とするためにも,より早期の診断が重要である.
結合組織病合併肺高血圧症(connective tissue disease-pulmonary hypertension:CTD-PH)の頻度は少なくない.診療では,対象疾患が全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)か全身性強皮症の特徴がないnon SScかによって大きく異なる.早期診断のため,定期的スクリーニングはSScには有用であるが,non SScでは必要性に乏しい.治療では,免疫抑制療法の有効性において治療戦略が異なる.また,いずれの疾患も複数の肺動脈圧上昇構築因子が存在するため,病態を慎重に判断する必要がある.
成人先天性心疾患シャント性肺動脈性肺高血圧症(ACHD-PAH)は,病理組織学的所見やPAH治療薬の反応性が,特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial hypertension:IPAH)に類似する.従って,シャント閉鎖後ACHD-PAHの治療指針はIPAHと同様である.Eisenmenger症候群を含め,シャント未修復ACHD-PAHのなかには,PAH治療薬を用いることでシャント閉鎖が可能になる症例が報告されてきた.これらの治療は専門性が極めて高く,全症例を経験豊富な施設に紹介して治療されることが望まれる.
呼吸器疾患による肺高血圧症,臨床分類で3群の肺高血圧症は,肺の実質,間質性病変のみでなく,肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)(1群の肺高血圧症の要素),併存症としての左心不全(2群の肺高血圧症の要素),さらには局所的肺血栓・塞栓症の要素等,多くの病態が混在して成立している可能性がある.3群の肺高血圧症は治療適応なしではなく,治療可能な要素に対しては個別治療アプローチが必要である.
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は,血栓/塞栓が肺動脈の亜区域枝付近より中枢に形成され,器質化して狭窄,閉塞を起こし,肺高血圧を来たす疾患である.第4群の肺高血圧症に分類され,最も予後良好で症状等の著明な改善が得られる.急性肺塞栓症の既往があって本疾患へ発展する場合と,慢性のPHとして見つかり,鑑別診断でCTEPHと診断される症例がある.現在では,画像診断の進歩によって,ほとんどの症例が適切に確定診断される.治療法としては,1990年代後半から2010年頃までは手術療法が主体であった.2010年頃以降,バルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が日本で発展し,ほぼ同様の効果が得られるようになった.数年前には内服薬のリオシグアトが開発され,前2者には劣るが一定の効果が得られるようになった.
肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の成因には,器質的肺動脈病変及び肺動脈攣縮が大きく関与しているが,そのメカニズムの解明は未だ不十分である.近年,さまざまな肺血管拡張薬が開発されてきており,予後が劇的に改善されているものの,進行したPAHの予後は未だに不良である.これは,本疾患の器質的肺動脈病変の進行に対する根本的治療薬が開発されていないことに起因する.本稿では,今後期待される薬剤について概説する.
33歳,男性.1週間持続する発熱と咽頭痛を主訴に地域の病院を受診した.細菌性咽頭炎の診断で抗生物質を投与されたが改善せず,単純CT検査で肝脾腫,脾臓の出血性梗塞を認め,当院に転院した.Epstein-Barr virus (EBV)関連抗体であるvirus capsid antigen(VCA)-IgMが陽性,EBV DNA定量が4.7×103 copies/106 cellsと上昇していることから,伝染性単核球症に合併した脾梗塞と診断した.伝染性単核球症の発症中に,ループスアンチコアグラントが一過性に陽性となり,脾梗塞発症への関与が疑われた.
症例は87歳,男性.1カ月前からの乾性咳嗽,呼吸困難を主訴に受診した.膵体部腫瘍,腹腔内リンパ節・肝・肺・右胸膜・左腎転移を疑う所見を認め,経皮的右胸膜生検により,膵腺房細胞癌の診断に至った.また,4,000/μl台の好酸球増多を認め,血清GM-CSF(granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)の高値とGM-CSFの免疫組織化学染色陽性からGM-CSF産生腫瘍と診断した.本症例において,病勢の進行が早く好酸球増多を伴う点は,GM-CSF産生腫瘍の典型像に合致すると考えられた.
32歳,男性.発熱・下肢痛を主訴に救急外来を受診.肺炎・横紋筋融解症の診断にて入院し,腎機能障害と無尿を認め,血液濾過透析が施行された.肺炎の原因菌はマイコプラズマと判明し,横紋筋融解症はIL(interleukin)- 6やIL-18が高値であったことから,高サイトカイン血症による肺外症状と考えられた.血液濾過透析は腎代替療法としてだけでなく,ミオグロビンやサイトカインを除去することにより,腎機能を速やかに改善させた可能性が示唆された.
本邦における肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)症のほとんどは,Mycobacterium avium complex(MAC)による肺MAC症である.肺MAC症は,大きく線維空洞型と結節・気管支拡張型の2つの病型に分けられる.この他,全身性播種型や過敏性肺炎型といった特殊病型も知られている.近年,本邦で患者数増加を指摘されているのは,結節・気管支拡張型の肺MAC症で,中高年の非喫煙女性に好発する.肺MAC症の診断には,胸部画像所見の臨床的基準と,「2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性」を基本とする細菌学的基準があり,この2つの基準を満たすことで肺MAC症と診断する1).治療の基本は,クラリスロマイシンを主薬とする多剤併用の化学療法である.しかし,化学療法後の再発も決して稀ではないことから,化学療法に加え,菌の散布源となる肺主病巣を切除する外科治療も集学的に行うことが提案されている.
麻疹は麻疹ウイルスにより空気感染する感染症で,基本再生産数(basic reproduction number:R0)は12~18と高い.潜伏期間は10~12日間(最大21日間)で発熱,咽頭痛,鼻汁,咳などで発症し,この時期をカタル期と呼び,2~4日間持続する.カタル期後期に出現する口腔内頬部粘膜の白斑であるKoplik斑は皮疹出現前の早期診断のための重要な所見である.麻疹の合併症としては巨細胞性肺炎,二次性細菌感染症,脳炎や亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)等があり,致死的な経過をたどることもある.日本では,以前から検出されていた遺伝子型D5型の麻疹ウイルスは2010年5月以降検出されておらず,2015年3月,WHO(World Health Organization)は日本における麻疹排除を認定した.しかし,その後も麻疹に感染した外国人や海外旅行者の国内への持ち込みと小規模のアウトブレイクが散発している.対策としては,発熱や皮疹を有する患者への海外渡航歴の聴取及び感受性者に対する麻疹ワクチンの2回接種が重要である.