内科医師の多くは,何らかの形で疾病急性期の診療に関わり,また,関わってきた.それは,内科学のなかで各種疾病の急性期として認識されてきたからである.しかし,現代の医療と医学では,救急医学がそこに専門性を持つようになった.救急医学が全ての救急患者を網羅的に診療できるわけではなく,内科医師は疾病救急に今後も関わっていく必要がある.日本内科学会は,疾病救急についての関わりを従来から行っているものの,これがいわゆる臓器別サブスぺシャルティとは別の構造であるがために,広く認知されているとは言い難い.そこで,本稿では,日本内科学会や内科学における救急医療に関する位置付けと取り組みとを記述する.
救急医療の現場において,受診患者の高齢化に伴い,内科系基礎疾患の存在が重要である.現在,polypharmacy(ポリファーマシー)の問題もあり,病歴において,その薬剤歴を確認することは必須である.外傷であっても,その受傷機転に内因性内科系疾患や薬剤が関与していることも多い.なかでも,抗凝固薬,睡眠薬ならびに降圧薬は,長期予後やQOL(quality of life)を改善させる目的で処方されていることが多いため,その使用方法や注意点について述べる.
生体は環境温度の影響を受ける.熱産生と熱放出機序とのバランスで恒常性を保つが,これらのバランスを失した状態が熱中症や低体温症を含む環境障害である.対応の基本は,体温の恒常性を維持する目的で行う介入である.一般市民は屋内で過ごす時間が長く,温度環境は住居の室内環境に依存する.環境障害を来たさずとも,心血管疾患等は住居の温度環境によって増悪する.住居環境について保健医療分野からの介入が必要である.
救急患者の診察では,症状やバイタルサインから致死的疾患を想起し,red flag signがないか確認することが大切である.患者本人からの症状聴取が困難なときは,同伴者から情報を得るとよい.鑑別診断のヒントとなる重要なキーワードを病歴や所見から見つけることも,鑑別診断の効果的な絞り込みに役立つ.よくある疾患に対しては,典型的な症状があるかどうかを確認する.
バイタルサインは,古代から臨床において最も重要な情報と捉えられてきた.現代では,電子モニターの普及により,バイタルサインはありふれた各数値の情報として医師の目の前に提示されてはただ過ぎ去っていってしまいやすい.しかし,患者の病態の変化を最も鋭敏に察知することができるバイタルサインは,現在においても,予後を予測するうえで最も重要な情報である.本稿では,今一度,内科医が明日からの臨床の現場で役立つバイタルサインの総論を提示する.
POCT(point of care testing)は,臨床現場で検査が即時に行われ,結果が即時に臨床に利用されるシステムである.救急医療では,臨床検査には,①迅速性,②簡便性,③随時性ならびに④反復性を求められるが,POCTはこれらの全ての要件を満たしている.一方,急性冠症候群の診療における第一選択の心筋マーカーは心筋トロポニン,特に高感度トロポニンである.高感度トロポニン上昇例では,心筋梗塞とそれ以外の病態に起因する心筋傷害との鑑別が不可欠である.
ベッドサイドで観察項目を絞って行う超音波検査は,point-of-care ultrasound(POCUS)と呼ばれる.POCUSは,ショックと呼吸困難を呈する緊急疾患の迅速な評価と介入に有用であり,ABC(airway,breathing,circulation)アプローチに基づいた領域横断的活用が妥当である.ベッドサイドでの迅速な評価及び医療資源の乏しい状況での正確な評価に有用で,救急診療の質向上に寄与することができる.
我が国では,さらなる高齢化により,心不全パンデミック等高齢者救急の増加が懸念されている.フレイル・サルコペニア・認知機能障害といった高齢者特有の身体的・精神的変化と共に,独居・老々介護といった社会的な問題を包括した治療戦略を考える必要がある.また,今後の高齢化を考えると,救急医療体制の確立も重要であるが,徹底した高血圧治療や健診受診・受療勧奨を含めた予防の徹底が重要である.
26歳,女性.発熱と下腿浮腫で受診し,その後の経過で著明な好酸球数上昇を来たした.追加の病歴聴取により,半年間で2回,ウシの生肝喫食があることが判明した.患者血清は,イムノクロマト法でトキソカラ抗原に陽性反応を示し,トキソカラ症と診断された.albendazole投与によって好酸球数は速やかに減少した.好酸球増多の原因として,トキソカラ症を含む寄生虫疾患を鑑別に挙げる必要がある.
29歳,男性.心窩部痛を主訴に当院を受診した.画像検査では,腹腔内に径2.8 cm程の境界明瞭な腫瘤を認めた.全身状態やその他各種検査所見からは悪性所見に乏しく,第一に限局型Castleman病(unicentric Castleman's disease:UCD)を疑った.腹腔鏡下で腫瘤切除を行い,病理学的にhyaline vascular typeのUCDと診断された.大網原発のCastleman病は極めて稀ではあるが,腹腔内腫瘤の鑑別疾患として念頭に置く必要がある.
約1年前に経カテーテル的大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)の施行歴がある83歳,男性.発熱を主訴に来院し,心エコー検査にて,大動脈人工弁に付着する疣贅が認められ,血液培養検査結果より,Listeria monocytogenesを起因菌とする人工弁感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)と診断された.感染経路として消化管の可能性も疑い,臨床病期II期の進行大腸癌の診断も得た.Listeria monocytogenesを起因菌とするIEの場合には,消化管悪性腫瘍の存在を念頭に置く必要がある.
iPS(induced pluripotent stem)細胞技術が開発されて10年以上になるが,この技術を用いた医療応用は,再生医療及び病態解析・創薬研究に大別できる.実際にiPS細胞技術を用いて開発された再生医療(加齢黄斑変性症,心不全,血小板輸血不応症を合併した再生不良性貧血,Parkinson病ならびに脊髄損傷)や薬剤(進行性骨化性線維異形成症,Pendred症候群ならびに筋萎縮性側索硬化症)を用いた臨床試験が始まりつつあり,ますます注目されている.本稿では,中枢神経系の疾患を中心としたiPS細胞技術を用いた病態解析・創薬研究の進捗について概説する.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の身体活動性に対する重要性認識の向上に伴い,身体活動性に関する臨床研究が近年急速に増加してきている.身体活動性をより客観的に評価する目的で加速度計の使用が広まってきたが,同時に,非装着や環境因子等のさまざまな問題点も明らかとなり,データの再現性を高める対策が必要となってきた.さらに,身体活動性の指標は複数存在するが,それぞれの意味合いの差異に対する理解も重要となる.身体活動性維持・向上を目指した医療介入としては,気管支拡張薬,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)ならびにモチベーションの向上等を組み合わせた複合的介入が有効と考えられるが,再現性を高めたデータ処理を行ったうえでの効果の評価が重要である.新たな指標であるsedentary(座位相当)時間は,身体活動性とは独立したCOPD患者の予後規定因子であり,座位中断と緩徐歩行数の増加も重要な介入方法であると考えられる.
食事療法は,2型糖尿病における治療の基本となるものである.しかし,糖尿病の病態及びその背景をなす食習慣が多様化した現在,一定の管理目標を掲げた画一的な栄養指導には実効性を期待できない.特に高齢者糖尿病では,フレイル予防を念頭に置いた異なる視点が必要であり,病態,臓器障害の有無ならびに年齢等患者の属性に応じた食事療法の個別化が求められている.これまで総エネルギー摂取量の設定は,標準体重BMI 22に基づいてなされてきた.しかし,最近の二重標識水法による研究から,日本人のエネルギー消費量は想定以上に大きな値であることが判明した.肥満者では,この格差が一層広がるものと考えられ,目標体重と総エネルギー摂取量の設定においては,実効性を加味した柔軟な対処に配慮しなければならない.今後,かかる食事療法の個別化に向け,患者を中心としたチーム医療の展開が望まれる.