便秘は,量的にも質的にも生理的排便が障害され,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義される.慢性便秘症は,その原因から器質性及び機能性に,症状から排便減少型及び排便困難型に分類される.機能性便秘の病態は多様であり,大腸通過正常型(normal transit constipation:NTC),大腸通過遅延型(slow transit constipation:STC)ならびに便排出障害の3タイプに分けられる.慢性便秘症の原因・症状・病態を理解することで,便秘症診療の質を高めることができる.
慢性便秘の診療は,医師として基本的な診療能力(技能・知識)の1つである.「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会,2017年)1)では,警告症状及び危険因子の概念の他,ブリストル便形状スケールの利用や二次性便秘を念頭に置いた検体検査,除外診断としての大腸内視鏡検査等の画像診断について記載され,専門施設で行われる検査についても触れられている.実地診療で遭遇する慢性便秘症の診断に関する医学的エビデンスは少なく,今後の検討が必要である.
慢性便秘症の診断は患者の訴えに基づくことが多いため,治療の基本は患者の愁訴の改善である.慢性便秘症治療の第一歩は,生活習慣や食生活の改善である.これらを改善することは,便秘症状の改善だけでなく,再発の予防にも有効である.食事は朝食が最も重要であり,毎日十分な排便時間を取れる環境づくりや適切な排便姿勢を指導する.プロバイオティクスは,腸管運動を亢進させ,排便回数や便性状,排便困難感等の改善に効果がある.
便秘は,日常診療でごくありふれたcommon diseaseであるが,「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会,2017年)1)発刊前までは国内で統一された診療指針がなかったことから,医師は経験的に診療を行ってきた.同ガイドラインが2017年に初めて発刊され,浸透圧性下剤と上皮機能変容薬が便秘の薬物治療の第一選択薬とされ,膨張性下剤に関する評価は高くない.しかし,膨張性下剤は,耐性がなく,比較的安全且つ長期的に使用可能な薬剤であるため,各種薬剤の特徴を正しく理解し使用することで有用な場合がある.
浸透圧性下剤は,機械的下剤の一種で,最も一般的に使用されている下剤である.浸透圧勾配を利用し,腸内で水分分泌を引き起こすことで便を軟化させ,排便回数を増加させる.塩類下剤,糖類下剤,その他のポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)に分類される.塩類下剤である酸化マグネシウム(MgO)は最も高頻度に使用されているが,腎機能障害がある場合には,高マグネシウム血症の発生に注意が必要である.
刺激性下剤は古くから使用されるものが多く,便秘改善作用が強力であることが知られている.しかし,腸管の強い収縮によって腹痛を生じたり,連用すると耐性現象によって必要な薬剤の量がさらに多くなったりするといった悪循環を来たすこともある.「慢性便秘症診療ガイドライン2017」1)(日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会,2017年)では,「慢性便秘症に対して,刺激性下剤は有効であり,頓用または短期間の投与を提案する」とのステートメントが出されており,基本的に連用する薬剤ではなく,レスキュー的な役割での使用が望ましい薬剤であると言える.
慢性便秘症においては,偏食,食事量のアンバランス,夜食,睡眠不足,運動不足ならびに心理社会的ストレスが症状の増悪因子であるため,これらの除去・調整を実施する.これらで不十分であれば,食事療法を基本とし,運動療法を加えるが,治療効果が確実なのは適切な薬物療法である.近年,使用可能となった2種類の上皮機能変容薬及び1種類の胆汁酸トランスポーター阻害薬の3種類の薬物は,それぞれ異なる分子を標的としており,エビデンスレベルも高い.それぞれの特性を知り,便秘患者の診療に役立てることが望まれる.
慢性便秘の治療目標は,排便回数や便性状のコントロールだけでは不十分であり,腹部膨満感や腹痛等の排便周辺症状のコントロールに配慮することも重要である.このような点から,薬理作用点の多い漢方治療の適応となる慢性便秘患者も決して少なくはないと考えられる.本稿では,慢性便秘治療としての漢方治療に焦点を絞り,これまでに報告されているエビデンスと慢性便秘における漢方薬の使い方及び注意点を中心に概説した.今後,慢性便秘患者数は増加することが予測され,それに伴い,漢方治療の需要もますます高まっていくと考えられる.引き続き,漢方治療の位置付けを明確にし,作用機序の解明を含めた新たなエビデンスを構築していくことが重要であると思われる.
15歳,男性.学校検診で胸部異常陰影を指摘され,当科へ紹介された.画像所見から肺動静脈瘻が考えられたが,舌の末梢血管拡張所見を認めたことや,本人を含め,父方の家系に反復する鼻出血を認める者が多いことから,遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)が背景にあると考えられた.遺伝子解析の結果,endoglin(ENG)遺伝子の変異が認められ,HHT 1型と診断した.肺動静脈瘻に対しては,コイルによる経カテーテル肺動脈塞栓術を施行し,現在も特に変化なく経過している.
肝機能に異常のない高アンモニア血症と意識障害の1例を経験した.通常,アンモニアは尿中に排泄されるが,尿閉により膀胱内圧が上昇すると,膀胱静脈叢から血中に再吸収される.本症例では,複合的な要因から尿中アンモニア濃度の上昇と膀胱静脈叢からのアンモニア再吸収の増加を同時に認め,高アンモニア血症を来たした.高アンモニア血症は重篤な昏睡を来たすことがあり,原因として,肝疾患のみならず,尿閉も鑑別に挙げることが重要である.
14歳,男性.10回/日程度の下痢を主訴に受診.血液検査にて,白血球増多及びCRP(C-reactive protein)上昇に加え,血清PR3(proteinase 3)-ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody)値の上昇を認めた.上下部消化管内視鏡検査では,全大腸に亘る潰瘍に加え,咽喉頭・食道潰瘍,胃・十二指腸炎ならびに右肺下葉に結節を認めた.また,経過中に自己免疫性膵炎を併発した.多彩な腸管外病変を有するPR3-ANCA陽性潰瘍性大腸炎と診断し,ステロイド投与にて軽快した.
透析患者数は年々増加し,本邦では30万人以上となっている.医学的のみならず,社会的・医療経済的にも慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の進行抑制は重要な課題である.ポドサイト(糸球体上皮細胞)のスリット膜構成蛋白であるネフリンが1998年に発見されて以来,ポドサイトに関する知見は飛躍的に増え,ポドサイト傷害が不可逆的糸球体硬化症,さらには,CKDを引き起こすことが明確になった.ポドサイト傷害が病態の中心である腎臓病は一括してポドサイトパチー(podocytopathy)として捉えられ,典型的には一次性ネフローゼ症候群の疾患が含まれる.これらの疾患の治療に使用されているグルココルチコイドや免疫抑制薬には,免疫学的作用以外にも直接的ポドサイト保護効果を有する可能性が報告されている.しかし,現状では,ポドサイトを強力に保護し,CKDの進行を抑制することが確立されている治療薬は存在しない.ポドサイトパチー発症・進行機序が解明され,特異的な治療や予防法が開発されることが期待される.
全身において,実際の年齢よりも早く老化の徴候がみられる疾患は早老症と称され,DNA(deoxyribonucleic acid)修復関連遺伝子や核膜蛋白の異常により惹起される多様な疾患を含んでいる.日本人に多いWerner症候群(Werner syndrome:WS)は,20~30代から低身長や白髪,白内障等が出現し,40代で内臓脂肪蓄積を背景に糖尿病や脂質異常症等を生じ,悪性腫瘍や難治性皮膚潰瘍を高率に合併する疾患である.RecQ型DNAヘリカーゼであるWRN遺伝子の変異による常染色体劣性遺伝疾患であることが判明しており,近年の研究に基づき,診断基準や治療ガイドラインが策定されている.また,原因遺伝子であるWRN蛋白のDNA修復やテロメア維持における役割等,分子レベルの病態解明も進みつつある.超高齢社会を迎えた本邦において,「ヒト老化のモデル疾患」であるWSの研究は,一般老化のメカニズム解明のためにも重要な課題であると考えられる.