炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は,病因・病態不明の難治性疾患で,寛解と再燃を繰り返しながら慢性に経過する.本邦においては,以前は欧米に比べ,患者数の少ない疾患とされてきたが,近年,高脂血症・糖尿病といった代謝性疾患患者数が増大しているのと足並みをそろえるように,患者数が著明に増加している.患者数増大の背景には,代謝性疾患同様,食生活を中心とした生活習慣の欧米化によって,腸内細菌叢と腸管免疫機序に乱れが生じ,発症・増悪に向かいやすい腸内環境になっていることが推測されている.
心血管イベント抑制効果を有する最近話題の代謝内分泌疾患治療薬として,糖尿病治療薬のインクレチン関連薬やSGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬,高コレステロール血症治療薬のPCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬がある.さらに,今後のエビデンスの蓄積や臨床応用を期待されているものとして,高中性脂肪治療薬である選択的PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)阻害薬のペマフィブラートや抗炎症効果を期待できる選択的IL-1β(interleukin-1β)阻害薬のカナキヌマブ等がある.
糖尿病性腎症は,糖尿病の合併症の1つとして重要である.しかし近年,糖尿病管理の進歩や患者の高齢化,脂質異常,高血圧ならびに動脈硬化等の併存治療が長期化する症例が増加している背景もあり,古典的(典型的)な経過を示さない症例も増えてきている.そのような背景をもとに“糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)”の疾患概念が提唱・使用されるようになっている.しかし,旧来の糖尿病性腎症(diabetic nephropathy)との異同や用語の使い分けについては,未だに明確でない.本稿では,糖尿病性腎症の病態・診断及びDKDの概念について概説する.
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)の有病率は肥満人口の増加に伴い増加しており,OSASはcommon diseaseとして広く認知されるようになった.その背景として,OSASが心臓血管疾患を惹起して生命予後を悪化させることが明らかにされてきたことが挙げられる.しかしながら,そのメカニズムは,生活習慣病とOSASに共通するリスク因子である肥満が存在するため,複雑にならざるを得ない.そこで,本稿では,OSASと生活習慣病を双方の視点から,両者の関連性を概説したい.
小児がんの治療成績向上に伴い,成人期へ移行する小児がん経験者が増加する一方,小児期の治療の影響によって,成人期になり晩期合併症をもたらすことが明らかとなった.特に,晩期合併症としての代謝内分泌疾患は,患者が体調不良の原因に気付かず,適切な診療科への受診機会を逸したまま過ごしてしまうことも少なくない.本稿では,小児白血病を中心として,晩期合併症としての代謝内分泌疾患の診療の実状,注意点ならびにポイントについて示す.
糖尿病,高血圧ならびに肥満等の生活習慣病は,特に中年期において認知症の危険因子となることが知られる.生活習慣病は,脳血管障害を介して認知症の病態を促進するほか,Alzheimer病では,インスリン抵抗性等の要因も複合的に病態に関連すると考えられる.生活習慣病に関連する個々の危険因子への介入研究では,認知症に対する予防的効果のエビデンスは不十分であるが,多角的な介入が有効である可能性が示唆されている.
乾癬患者に肥満が多いことは以前から指摘されていたが1),乾癬の病態及び肥満,さらには代謝性疾患,特にメタボリックシンドロームとの関連性が明らかになってきた.“More than skin deep”と言われるように,乾癬の皮疹のような目に見える炎症と共に,脂肪細胞を主体とする目に見えない炎症が進行することで,血管内皮細胞障害や動脈硬化を促進し,虚血性心疾患のリスク増大をもたらす,皮膚疾患から全身性疾患へとつながる病態がある.これは「乾癬マーチ」として知られる概念であり,本稿において概説したい.
HIV(human immunodeficiency virus)感染症は,抗レトロウイルス薬による治療(antiretroviral therapy:ART)の飛躍的な進化により,制御可能な慢性疾患の1つと位置付けられるようになった.しかしながら,慢性炎症に起因すると考えられるaccelerated agingによる代謝異常,心血管疾患,悪性新生物ならびに認知症等が問題となってきている.HIV感染者では炎症性マーカーが上昇しており,インスリン抵抗性を示しやすく,心血管疾患や骨粗鬆症も多いことが判明している.HIV感染症そのものをリスク因子として捉え,生活習慣病の介入を行うべきである.
代謝内分泌疾患では,ホルモンの作用により,特定の臓器だけではなく,全身のさまざまなシステムに多彩な症状が出現する.そのため,患者は何科を受診すればよいかわからず,一般内科や総合診療科を受診するケースも多い.そのような非専門外来の場で出会う頻度の高い疾患や症候について,代謝内分泌疾患を疑うポイント,診察のコツならびにスクリーニング検査の概要について述べる.
32歳,女性.Subclinical Cushing症候群を合併した原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)の診断で超選択的副腎静脈サンプリングを施行し,左副腎コルチゾール産生腺腫を合併した特発性アルドステロン症の診断で腹腔鏡下左副腎摘除術施行.病理検査では,腺腫はコルチゾール産生腺腫であり,付随副腎皮質は多数のアルドステロン産生細胞塊を認めた.近年,特発性アルドステロン症の新たな病理像が明らかとなりつつあり,症例の蓄積が望まれる.
症例は48歳の女性.一過性の咳嗽がみられ,健康診断で胸部異常陰影を指摘され,来院した.胸部CT(computed tomography)で肺野末梢にびまん性に約1~2 mm大の小結節陰影がみられ,骨条件で小結節内に石灰化の混在を疑わせる所見を認め,胸腔鏡下肺生検でびまん性肺骨形成(diffuse pulmonary ossification:DPO)と診断した.肺骨形成の原因疾患は特定できず,特発性と考えられたが,組織所見から樹枝状型DPOと考えられた.
72歳,男性.肛門腺癌の術後リンパ節転移に対して化学療法を開始.化学療法27コース目施行後,突然の眩暈,ふらつきならびに意識障害が出現し,A病院に救急搬送され,低血糖と診断された.当院の内分泌学的検査より,インスリン自己免疫症候群(insulin autoimmune syndrome:IAS)と診断.チオール基を有するベバシズマブを中止したところ,低血糖発作の頻度は低下した.ベバシズマブ使用時の低血糖発作では,IASの発症を考慮する必要がある.
高安動脈炎は,20世紀初めに本邦より報告された比較的稀な全身性血管炎である.我々は,高安動脈炎の解析に遺伝学的アプローチが重要であると考え,共同研究施設や患者会と協力し,本邦の患者の10%以上にあたる患者DNA(deoxyribonucleic acid)を集積して解析を行い,関連HLA(human leukocyte antigen)アレル,非HLA関連領域を同定し,中心となる遺伝子としてIL12Bを同定した.また,疫学的に潰瘍性大腸炎と合併しやすいこと,合併例の臨床的特徴ならびに両疾患の遺伝学的共通部分を示した.そして,IL12Bがコードする分子であるIL12/23p40に対する分子生物製剤が炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)で用いられていることから,高安動脈炎に対して臨床試験を実施し,ウステキヌマブが安全且つ有効な治療となり得ることを示した.さらなる解析によって,高安動脈炎の遺伝学的背景から推定される細胞のサブセットを同定した.本疾患のアプローチは高安動脈炎のみならず,稀な疾患に広く適用できるものであると考えられる.
抗ウイルス剤や分子標的薬の進歩により,肝疾患患者の予後は改善されてきた.しかし,急性肝不全や非代償性肝硬変症の予後は依然として不良であり,肝移植に代わり得るような治療効果の高い内科的治療の開発が必要である.そのため,肝臓再生療法は肝細胞移植(hepatocyte transplantation)に始まり,体性幹細胞を用いた細胞療法へと進歩してきた.それは「肝細胞の補充による残存肝機能の補助」から「肝前駆細胞の活性化と免疫調節による肝再生」への転換を意味し,この転換により,肝不全治療において細胞療法は一定の治療効果をあげている.さらに,バイオ人工肝臓(bioartificial liver system)や脱細胞化臓器骨格を用いた肝臓再生(bioengineered liver)等の人工臓器の開発も進められており,その実用化にはiPS(induced pluripotent stem)細胞やES(embryonic stem)細胞,線維芽細胞等に由来する肝臓構成細胞の作製技術が重要な役割を担う.今後は,体性幹細胞を用いた細胞療法の標準化と人工臓器の実用化に向けた研究の推進が望まれる.
近年,訪日・在留外国人は増え続けており,その増加の勢いは,東京オリンピック・パラリンピック(2020年),大阪・関西万博(2025年)ならびに出入国管理法改正の施行(2019年)を控え,とどまることを知りません.一昔前に比べて,全国津々浦々,外国人を見かける機会が増えたと感じている先生も多いと思います.そこで今回,外国人患者増加への対応を進めた医療機関を取り上げ,会員の内科診療に資することとしたいと存じます.