新型コロナウイルス(SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2))感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)に対する効果的な治療法や予防法を開発するには,ヒトの症状を再現できるモデル動物が必要である.SARS-CoV-2をハムスターに感染させたところ,同動物は重い肺炎症状を呈する等,ヒトに類似した病態を示すことがわかった.扱いやすく飼育コストの低い小型げっ歯類をCOVID-19の動物モデルとして利用することにより,本感染症の病態解明と,それに対する薬剤とワクチンの開発が進展することが期待される.
2019年末,中国武漢市から報告された原因不明肺炎は,新たなコロナウイルスが原因であることが判明したが,世界各地に拡大,2020年1月30日,WHO(World Health Organization)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を,3月11日には「パンデミック」の宣言をした.国内では,3月下旬から4月上旬にかけて感染者数が急増したが,5~6月には一旦減少,7~8月には5~6月を上回る感染者数となったが,9月中旬現在,減少傾向にある.本稿では,新たに発生した新型コロナウイルス感染症に関して,主に国内でどのような出来事が生じてきたか,時系列的に記した.
2020年1月上旬,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)が国内で確認された.本稿では,2020年9月21日現在,国内のCOVID-19の流行状況及びその疫学の概要,世界の流行状況の概要を紹介する.国内では,これまで4月上旬と8月上旬をピークとする流行が認められ,9月21日現在,減少/横ばい傾向である.一方,世界全体では,週別報告数は増加しており,最多を記録する等,感染拡大傾向である.
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)のような新興感染症の流行下においては,感染症数理モデルを用いた流行データ分析やシナリオ分析が政策判断の核をなす重要なエビデンスとなる.日本ではこれまで広く取り上げられることが少ない領域であったが,COVID-19の世界的な流行により注目の集まる研究分野である.本稿では,COVID-19の疫学的な知見に加えて,感染症数理モデルの基礎的な考え方について述べる.
新型コロナウイルスに対する日本の対策,特に積極的疫学調査に基づくクラスター対策は,このウイルスに対して一定の効果をあげてきたと考えられる.しかし,これまでの対応からさまざまな課題も明らかになってきている.このウイルスの流行は今後も続く可能性があり,より効率的な対応の確立が求められる.
新型コロナウイルス感染症は,未知の感染症として世界に拡大してパンデミックとなり,国内においても,医療体制,経済活動ならびに社会生活等に大きな影響を与えてきた.その経験のなかで,高齢者における重症率の高さや無症状でも感染を拡大させる若年者の存在,クラスターを発生させやすい3密環境等,多くの知見も得られてきている.現在は,感染対策と経済活動との両立を目指し始めているが,そこには未だ多くの課題も残っている.
新型コロナウイルス感染症を意識し,特発性間質性肺炎の臨床像との類似性について記載した.SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)による感染症であるコロナウイルス肺炎の画像所見が,原因不明の疾患群である特発性間質性肺炎と類似していることが示された.これらの疾患の接点が上皮細胞傷害であり,上皮細胞傷害の程度が画像所見を反映する.特発性間質性肺炎の病態がウイルス感染症であると解明されることで,新たな治療戦略の可能性が開かれた.
新型コロナウイルス感染症パンデミックにおいて,高血圧症あるいは降圧薬であるレニン・アンジオテンシン系阻害薬が感染及び重症化のリスクかどうかが懸念されたが,結果的には問題ないことが明らかとなった.血栓症のリスクは否定できず,抗凝固療法の推奨が注目されている.さらには年齢との関連があり,高齢者医療における問題点は重要な医学的問題として注目されている.
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の危険因子として,加齢や高血圧,性別等が知られている.現在得られる情報からは,リウマチ性疾患(rheumatic disease:RD)のCOVID-19発症リスクや症状,経過は,非RD患者と大差がないと考えられているが,判断材料となる症例の蓄積は未だ十分とは言えない.COVID-19重症化にはサイトカインストームが関与していると考えられるが,RD治療に使用される複数の免疫抑制薬がサイトカインストームを抑えて重症化を防ぐ可能性があり,多くの臨床試験が進められている.
SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症の流行は,世界中の集中治療の現場に大きな衝撃を与えた.本稿では,少しずつ解明されつつあるその病態と治療を中心に,自施設での経験を踏まえつつ,実践的な集中治療管理について述べる.
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の診断において,遺伝子検査が最も重要であることに疑いはないが,最近では簡易・高感度抗原検査も開発され,利用可能となっている.さらに,鼻咽頭拭い液だけでなく,唾液や鼻腔(鼻の入り口)検体を用いた検査法も承認されている.感染症の制圧において迅速且つ正確な診断は必須であり,COVID-19においても適切な検査が速やかに実施できるような体制づくりが求められている.
日本医師会は会員への新型コロナウイルス感染症情報伝達に注力し,地域の医療現場の窮状を把握し,国に対してさまざまな要望を行った.既に船内で感染が拡大したクルーズ船が横浜港に入港し,乗客・乗員への緊急対応のため,災害時と捉えて特例的にJMAT(Japan Medical Association Team)チーム派遣を実施した.医師が必要と判断した場合の検査体制の整備や病床確保が困難で医療崩壊の危機に直面し医療危機的状況宣言を出す等,全力で対策に取り組んだ.引き続き,withコロナが続くなかで今後の方針を示した.
新型コロナウイルスは中国から全世界に拡散し,その後も大規模なパンデミックが続いている.新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の治療法の開発にあたっては,主に既存薬で抗ウイルス活性を有する薬剤の転用(drug repositioning)が試みられているほか,重症例に対しては,過剰免疫の抑制も大きなテーマとなっている.COVID-19に対する治療法は未だ黎明期にあるが,臨床研究等に基づく知見がかつてない速度で蓄積されつつある.
新興ウイルス感染症が発生した場合,医療機関には,院内感染を防止しながら,その時点で最善と考えられる医療を患者に提供する役割がある.「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」は,2020年3月に公表されて以降,改訂されてきた.行政機関と医療機関をつなぐコミュニケーションのツールとしても一定の役割を果たしたと考えられる.
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の感染性は発症2.3日前~0.7日前に始まるため,全ての人がSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)を持っていると想定し,標準予防策を徹底し,正しい手指衛生,適切な個人防護具の選択と着脱を行うことが必要である.COVID-19患者を早期に発見し,隔離し,接触者対応を行い,高頻度接触部位の消毒を行う.医療従事者は,職場,職場以外での密閉・密集・密接の場への参加自粛をすることも重要である.特に,人と人との身体的距離を保つこと,距離が保てない場合には,マスクを使用することが重要である.
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の倫理的法的社会的課題には,①生命・公衆衛生倫理,②研究倫理,③法制度の運用,④COVID-19当事者参画,⑤社会的に脆弱な立場の人々への影響,⑥デジタル技術の利活用等が挙げられる.本稿では,これらに通底する偏見・差別とリスクコミュニケーションの課題について,その背景や定義,最近の動向を取り上げる.
2020年2月5日より,クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗船し,船内検疫を実施した.個室管理による感染拡大防止,PCR(polymerase chain reaction)検査陽性者の医療機関への搬送,医療・医薬品ニーズへの対応,ハイリスク者の宿泊施設への搬送,海外への出国支援ならびに不安解消等を行い,船内での感染制御や水際での感染拡大防止に一定の成果をおさめることができた.
2020年1月に国内初発例が確認された新型コロナウイルス感染症の流行は,9月現在も継続している.新型コロナウイルス感染症対策専門家会議におけるこれまでの活動を総括することは,今後の流行対策及び新たな新興感染症流行への備えに重要である.これまでの活動と共に,「科学的専門家助言組織」のあり方についてまとめた.
88歳,男性.外傷性脾損傷に対して経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)を施行した.良好な止血が得られたが,TAEを契機に,徐々に造血能が低下し,不可逆的な汎血球減少症に至った.基礎疾患に骨髄線維症等,脾臓での髄外造血への依存が予測される場合は,TAE施行にあたり,造血能の温存も考慮する必要がある.
49歳,女性.49歳時に夫をドナーとする生体腎移植を施行された.移植時のサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)抗体価はドナー,レシピエント共にIgG(immunoglobulin G)陽性であった.周術期は問題なく経過した.移植3カ月後にCMVのアンチゲネミアが陽性であったため,早期治療(preemptive therapy)を行った.それにもかかわらず,移植8カ月後にCMV網膜炎を発症し,抗ウイルス薬の加療により改善を認めた.ドナー・レシピエント共にCMV抗体価が陽性且つ早期治療を行った場合でも,患者背景によってはCMV網膜炎を来たし得ることに留意しなければならない.
特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病[idiopathic(or immune)thrombocytopenic purpura:ITP]は血小板に対する自己免疫疾患であり,その治療はこの10年で大きく進歩している.「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019改訂版」(厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班「ITP治療の参照ガイド」作成委員会,2019年)が公開された.慢性ITPに対する治療の目標は,血小板数を正常に戻すことではなく,重篤な出血を予防し得る血小板数を維持することである.血小板数を正常化するための過剰な薬剤(特に副腎皮質ステロイド)の長期投与は,その副作用のため,患者QOL(quality of life)を低下させるため,避けるべきである.ファーストライン治療は,Helicobacter pylori除菌及び副腎皮質ステロイドである.セカンドライン治療として,トロンボポエチン受容体作動薬,リツキシマブならびに脾臓摘出術(脾摘)を位置付け,これらの薬剤は,それまで脾摘が唯一の治療法であった難治例に対しても有効である.それぞれの治療法の長所・短所を勘案すると共に,個々の患者の状況・状態を把握し,患者自身の希望を勘案したうえで選択する必要がある.
心房細動は最も頻度の高い不整脈であり,社会の高齢化に伴い,患者数は年々増加している.1998年にフランスのHaïssaguerreらが心房細動の発生起源となる期外収縮の大半が肺静脈起源であることを報告してから,肺静脈隔離術が心房細動アブレーション治療の基本になっている.そして,心房細動アブレーションの治療成績は,心房細動発生メカニズムの解明及びアブレーション治療機器に関するテクノロジー向上に伴い,年々高くなっている.手術の治療成績及び安全性の向上に伴い,心房細動アブレーション治療の適応も拡大している.現在,有症候性の発作性心房細動患者に対するカテーテルアブレーション治療は,第一選択の治療として挙げられている.また,心不全を合併した心房細動に対するカテーテルアブレーション治療が予後を改善することが報告されたことから,心不全を合併した心房細動患者に対しても,カテーテルアブレーション治療が今後広く行われるようになると思われる.