日常診療における腎機能の評価は,血清クレアチニン値と年齢,性別による推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)を用いる.血清シスタチンC値によるeGFRが利用できる場合には,併用することで正確度は向上する.腎排泄性薬剤投与時には体表面積補正を外したeGFRを用いる.それぞれの検査の特徴と限界をよく理解し,検査対象の背景・検査の目的等を考慮に入れて腎機能を評価することが重要である.
保険適用されたがんのバイオマーカーは少ないが,新しい技術の進歩により,次世代のがんのバイオマーカーは育ってきている.特に血中バイオマーカーが開発されてきており,いわゆるリキッドバイオプシーによるがん細胞由来のctDNA(circulating tumor deoxyribonucleic acid)やmicroRNA(micro ribonucleic acid:miRNA)が代表的なものである.ただし,適切に分析的妥当性を担保したうえで導入し,分析前プロセス(検体採取や前処理等)の条件設定にも配慮し,検査の質を確保したうえで行うことが肝要である.
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の8割は軽傷または無症状に終わる.一方,2割が酸素投与と入院治療を要する.COVID-19の特徴として,サイトカインストームによる血液凝固異常と静脈血栓塞栓症がある.本稿では,COVID-19関連凝固異常症の病態,診断と予防法について解説する.最近,新しい検査法により確実に診断できるようになった血栓性血小板減少性紫斑病と,Xa阻害薬の特異的中和薬andexanet(本邦未承認)についても紹介する.
膠原病は原因不明の全身性自己免疫疾患であり,さまざまな自己抗体が出現する.近年,多くの自己抗体及びその対応抗原が同定されている.これらの自己抗体は,単に診断マーカーとしてのみならず,病型や疾患活動性,さらに予後に密接に関係していることが明らかにされ,各疾患の病態解析のみならず治療法の選択にも寄与している.本稿では保険収載されている自己抗体を中心にその意義を概説すると共に最近の話題を述べる.
近年の非侵襲的心臓イメージングの進歩はめざましい.心臓イメージングの役割は心構造物の形態的評価と心機能評価であり,特に心機能評価においては,心エコー図検査の役割が大きい.本稿では,「心機能検査の新知見」として,最近の10年間で進歩した3次元心エコー図法とスペックルトラッキング法によるストレイン指標について述べる.そして,心機能の変化に影響を受ける血液マーカーである脳性ナトリウム利尿ペプチドに関連する話題を提供する.
呼吸機能検査は,呼吸器症状の原因を検討し,呼吸器疾患の管理をするために必須の検査である.スパイロメトリーによって,肺活量(vital capacity:VC)と1秒量(forced expiratory volume in one second:FEV1)/努力肺活量(forced vital capacity:FVC)を測定し,閉塞性,拘束性ならびに混合性換気障害を判定する.フローボリューム曲線も病態の把握に有効である.呼吸器疾患の重症度判定や進行のモニターには,VCやFEV1の絶対値及び予測値に対する%を参照する.より詳細な検査としては,肺気量分画や肺拡散能の測定がある.
神経疾患では,原因である病理変化と神経症状の対応が患者毎の個人差が大きく,また,病理変化は出現しているが,臨床症状がないpreclinical期が存在する.従って,神経疾患の診断・重症度の層別化には客観的なバイオマーカー(biomarker:BM)が不可欠である.画像BMと血液BMは,その有用性が相互に補完的であり,単独で使用するのではなく,背景病理を正確且つ定量的に反映する多項目の画像・血液(体液)BMが一体となった診断システムの開発と実用化が重要である.
技術の発展と共に感染症の検査も進化を続けている.全自動遺伝子増幅検査により,簡便且つ正確に病原微生物や薬剤耐性遺伝子が検出することができ,質量分析装置は,迅速且つ正確な細菌同定法として普及している.新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は,世界的なパンデミックとして,甚大な被害をもたらしている.遺伝子検査を軸にして抗原検査や抗体検査も活用しながら,この新興感染症に対応していくことが求められている.これからの感染症診療・感染対策では,新たな検査法/機器の測定対象と特徴を理解し,役立てることが期待される.
症例は74歳,女性.肺MAC(Mycobacterium avium complex)症のため,3剤治療中であったが,症状や画像所見は徐々に悪化していた.喀痰よりノカルジア菌が検出され,肺ノカルジア症と診断し,ST合剤(sulfamethoxazole/trimethoprim,スルファメトキサゾール/トリメトプリム配合剤)を開始し,治癒した.肺ノカルジア症は,免疫能が正常でも発症し得る.特に気管支拡張症との関連が示唆され,肺MAC症も注意すべき疾患の1つである.肺ノカルジア症に特異的な症状はないため,診断は患者背景から疑うことが重要である.
47歳,女性.1週前に38℃以上の発熱,それ以降,持続する腹痛,関節痛ならびに黒色便を主訴に受診.来院時は解熱し,血液検査で高度の肝腎障害及び血小板減少(血小板0.5万/μl)を,上部消化管内視鏡検査で胃内広範の湧出性出血を,末梢血スメアで異型リンパ球を2割程認めた.ウイルス感染後の特発性血小板減少性紫斑病様病態を疑い,病歴再聴取し,フィリピンへの渡航歴を確認,保健所を通じ,デング3型感染症と診断した.
医学的及び医療経済的問題を引き起こしている腎疾患に対する再生医療の開発が期待されている.近年,発生生物学の知見に基づき,ヒトiPS(induced pluripotent stem)細胞(人工多能性幹細胞)から糸球体と尿細管を派生させるネフロン前駆細胞と集合管から膀胱の一部までに分化する尿管芽の2つの腎前駆細胞の分化誘導法が開発され,それらから糸球体,尿細管,集合管が連結した腎組織の作製も可能となっている.また,ヒトiPS細胞由来腎前駆細胞の細胞療法が急性腎障害(acute kidney injury:AKI)モデルマウスにおいて腎障害を軽減する治療効果が見出され,ヒトiPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞の細胞療法が腎性貧血モデルマウスの貧血を生理的にコントロールすることが示された.遺伝性腎疾患特異的iPS細胞を用いた新規腎疾患モデル開発と創薬研究も著しく進展している.今後,ますますの研究の進展によって,移植用腎組織の作製と慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)や腎性貧血に対する細胞療法,遺伝性腎疾患に対する新規治療薬の開発が期待される.
高齢者は,加齢による各臓器の機能低下のため,また,複数の基礎疾患を有することが多いため,感染症の罹患リスクが高い.一方で,心身認知機能や生理的な免疫能の低下のため,臨床病像が健康成人と異なり非典型的であり,周囲も気付きにくいため,診断や治療開始が遅れる傾向にある.肺炎や尿路感染症に対して抗菌薬を投与しても,全身状態の改善が遅れるため,必然的に抗菌薬治療期間が長びく傾向があり,抗菌薬耐性菌を保有しやすい.医師側の要因としては,発熱や炎症所見上昇を来たす非感染性疾患の想起がされにくく,これらを認めた場合,直ちに抗菌薬投与が開始されることが多く,耐性菌を生む主因の1つとなる.このため,高齢者は,抗菌薬耐性菌を保有するコア集団となることを認識し,基本的な感染対策の周知に努めることが患者高齢化が進む我が国の医療において喫緊の課題である.