特発性血小板減少性紫斑病は,自己免疫的機序による血小板破壊の亢進及び血小板産生障害により生じる血小板減少症である.現在においても,その診断は除外診断が中心となる.治療においては,副腎皮質ステロイド不応/不耐例に対してトロンボポエチン受容体(thrombopoietin receptor:TPO-R)作動薬が広く使用されるようになり,また,リツキシマブも保険適用となったことから,最近発表された「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019改訂版」では,セカンドライン治療として,従来の脾臓摘出術に加え,TPO-R作動薬及びリツキシマブが同等に推奨されている.
血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)の95%以上を占める後天性TTPでは,von Willebrand因子切断酵素であるADAMTS13に対する自己抗体産生が発症に関与する.ADAMTS13活性の著減は,血小板血栓による微小血管の閉塞から,脳,腎臓ならびに心臓等に虚血性臓器障害を来たす.後天性TTPの標準治療は,新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換療法とステロイド療法であるが,近年,リツキシマブの再発予防効果及びカプラシズマブの急性期血栓イベントの予防効果が注目されている.
非典型溶血性尿毒症症候群は,溶血性貧血,血小板減少と急性腎不全を特徴とする.感染症,手術,分娩ならびに膠原病等を契機に,補体経路が活性化して発症する.患者の約半数に,補体制御因子の遺伝子異常が報告されている.発症から数週以内に抗補体療法(抗体医薬)を開始すれば,血液透析から離脱し,末期腎不全への移行を回避できる.臨床的診断に基づき,治療を開始する必要があり,専門家との医療連携が望ましい.
後天性血友病Aは,出血傾向の既往歴や家族歴がないにもかかわらず,突然の皮下・筋肉内出血等で発症する自己免疫性後天性凝固第VIII因子欠乏症である.活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)の延長,第VIII因子凝固活性(factor VIII coagulant activity:FVIII:C)の低下ならびに第VIII因子インヒビターの存在で診断する.APTTクロスミキシング試験は鑑別に有用である.止血療法と免疫抑制療法で治療を行う.リハビリテーションも必要である.疾患の認識と速やかな専門医への紹介が予後の改善につながる.
播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は,「日本血栓止血学会DIC診断基準2017年版」を用いて診断するのがよい.DICの病型分類(線溶抑制型・線溶亢進型・線溶均衡型)は,早期診断,治療法の適切な選択の両観点から重要な概念である.PT(prothrombin time),APTT(activated partial thromboplastin time)のみではDIC診断は不可能であり,少なくともフィブリノゲン,FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)及びDダイマーも加えたスクリーニングが不可欠である.近年,血栓性微小血管障害症とDICの鑑別も話題になっている.
術前出血傾向の評価には,詳細な病歴聴取と身体所見の診察が必要である.病歴と診察で出血傾向が疑われる,または他科よりコンサルテーションを受けた際には,プロトロンビン時間(prothrombin time:PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)ならびに血小板数等の適切なスクリーニング検査を行う.出血時間は外科処置の安全性や危険性を予測できないため,原則行わない.これらの問診・診察・検査所見と術式の出血リスクを総合的に勘案し,安全な手術のために適切な周術期管理を行うことが肝要である.
血液製剤は,献血者の厚意に基づく貴重な薬剤である.副作用や血小板輸血不応症の懸念もあり,輸血は必要最小限にとどめるべきである.血小板数・プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)・活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)・血漿フィブリノゲン濃度等の検査値や臨床病態を総合的に判断し,血小板・血漿輸血の適応・使用量を決める.
石綿曝露者に生じる胸膜病変は,悪性胸膜中皮腫,良性石綿胸水とびまん性胸膜肥厚が知られている.悪性胸膜中皮腫は,病初期には画像所見で胸水のみしか認められないことがあり,良性石綿胸水や胸水貯留を来たす他疾患との鑑別診断が重要となる.今回,我々は石綿曝露者に生じたIgG4(immunoglobulin G4)関連呼吸器疾患による胸膜炎を経験した.石綿曝露者に胸水を認めた場合,IgG4関連呼吸器疾患も念頭に置く必要がある.
59歳,男性.X-3年にA病院で下垂体腺腫による下垂体前葉機能低下症と診断され,補充療法中であった.X年,B診療所でインフルエンザと診断され,2日後に意識障害,痙攣で当院に救急搬入された.血液検査で低Na血症を認め,副腎不全の診断でステロイド補充とNa補正を開始した.第2病日よりCK(creatine kinase)が上昇し,第4病日にCKが最高値となったが,大量補液で腎機能の悪化なく軽快した.低Na血症の補正による横紋筋融解症の発症と考えられた.
近年のがん診療において,腎障害の合併は生命予後を左右する重要なリスク因子であり,がん治療を困難にする要因としても認識されている.また,腎疾患患者に悪性腫瘍が生じた場合の診断,治療やケアについても,さまざまな問題が生じることが多い.悪性腫瘍と腎臓に関する問題を理解し,対処法を最適化するために,2010年代に入って分野横断的なサブスペシャルティとして“onconephrology”が登場し,発展しつつある.onconephrologyがカバーする領域は広く,急性腎障害の予防と治療,抗がん薬の副作用とその対策の他,腎障害患者に発症する悪性腫瘍の諸問題や人生の最終段階に入ったがん患者と腎代替療法の問題等さまざまな課題が存在する.近年,国内外でこの分野への興味が高まり,腫瘍医,腎臓医と医療スタッフのコラボレーションが活性化しつつあり,がん診療と腎障害に関する諸問題の解決を介した患者アウトカムの向上が期待されている.
A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus:HAV),E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)は,主に経口感染して急性肝炎を引き起こすウイルスである.日本では,4類感染症に分類されており,診断したら直ちに届け出る必要がある.HAVは汚染された食物や水の摂取で感染することが多く,衛生環境の改善と共に,近年は感染者報告数は減少傾向であったが,2018年は男性間性交渉者の間での大きな流行がみられており,性感染症としての側面もあるため,病歴聴取の際は注意を要する.HEVは人獣共通感染症であり,ブタ等の内臓や肉を加熱不十分な状態で喫食することにより感染することが多いと考えられるが,感染源が不明な症例も多い.E型肝炎患者の報告数は,検査法が2011年に保険適用となって年々増加しているが,未診断・未報告例はさらに多いと考えられ,急性肝炎患者では必ず抗体検査を行う必要がある.また,免疫抑制状態の患者では慢性化する場合があり,注意が必要である.