人口の高齢化や食生活の欧米化などの理由によって,糖尿病も心不全もいずれも爆発的に増加している.糖尿病と心不全は直接的・間接的に深い関連性があり,お互いがお互いを増悪させている.原則として糖尿病を合併していても心不全患者に対してはガイドラインに準拠した心不全標準治療を行うべきである.近年,糖尿病治療薬の1つであるSGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬が心不全に対する1次予防・2次予防いずれに対しても有効である可能性が示唆されつつあり,今後益々糖尿病と心不全の関連性が着目されていくだろう.
糖尿病は心房細動への発症に深く関与しうる.心房細動の合併症への影響としては,日本人心房細動患者を対象としたプール解析で,脳梗塞の独立危険因子は年齢,高血圧,脳卒中既往であり,糖尿病は同定されなかった.一方で,心房細動患者の心不全入院に対する独立危険因子の1つとして糖尿病が同定されている.糖尿病も心房細動もAlzheimer型認知症を発症しやすく,特に高齢患者における生活指導に留意する必要がある.
非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は,肥満人口や2型糖尿病罹患率の増加に伴い世界中で患者数が増加している最多の肝疾患である.その病態は肝疾患のみならず,全身疾患として認知され,特に心血管イベントや悪性疾患の発症にも関与する.2型糖尿病はNAFLDにおいて肝硬変への進展,肝細胞癌の発症に最も関与する因子である.疾患の重要性を理解し,診断,治療,フォローアップ等適切な医療介入を行っていくことが重要である.
糖尿病患者の治療目標は,合併症の発症を抑制し,健常人と変わらない生活を送り,寿命を全うすることである.骨粗鬆症による脆弱性骨折は高齢者の健康寿命を損なう主要な原因の1つであり,糖尿病においても例外ではない.糖尿病は1型・2型共に骨折リスクを増加させることから,適切なタイミングでの骨折リスク評価とそれに基づく治療介入が重要となる.糖尿病合併骨粗鬆症の治療は,原則的に原発性骨粗鬆症に準じる.
内臓病変の皮膚表現をデルマドロームといい,糖尿病の合併症として,①糖尿病特有の代謝障害と関連を有する直接デルマドローム,②糖尿病によって増悪ないし好発する間接デルマドロームが知られているが,一方,皮膚疾患の併存症として,皮膚疾患に特有の他疾患が合併しやすいことも知られ,乾癬と糖尿病が関連することが明らかとなってきた.乾癬の皮疹が広範囲であることとHbA1c(hemoglobin A1c)の相関が得られ,また,乾癬モデルマウスにおいて,空腹時血糖が有意に高くなることやインスリンの追加分泌が有意に少ないことが明らかとなった.また,適切な乾癬治療により,良好な血糖コントロールが得られる可能性が示唆された.
睡眠障害は,糖尿病において高頻度でみられる併発症である.睡眠が障害されると,自律神経系の機能を介し血糖コントロールに悪影響を及ぼす.睡眠障害によるQOL(quality of life)低下は積極的な治療アドヒアランスを低下させ得る.本稿では,糖尿病と睡眠の関連について述べ,糖尿病で多く併発する睡眠障害として,不眠症,閉塞性睡眠時無呼吸,レストレスレッグス症候群を取り上げ,併発機序について考え,診療のポイントをまとめた.
糖尿病患者は認知症や認知機能障害を来たしやすく,認知症は糖尿病の併存症の1つである.認知機能障害を伴った糖尿病患者では,食事,運動,社会参加等のフレイル予防対策を行う.薬物治療は低血糖を避け,社会サービスを確保し,患者や介護者の治療負担を軽減する.DASC-8(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-8 items)等を用いてカテゴリー分類を行って,血糖コントロール目標を設定し,カテゴリーIIの段階から服薬やインスリン治療の単純化を行うことが大切である.
糖尿病は,大腸癌,肝臓癌,膵臓癌,乳癌,子宮内膜癌,膀胱癌のリスク上昇,前立腺癌のリスク低下と関連する.高インスリン血症による腫瘍の増殖促進,肥満に伴う活性型エストロゲンの増加,慢性炎症の影響等が想定されている.市町村によるがん検診に加え,肝炎ウイルス陽性の場合,肝細胞癌のスクリーニングが推奨される.手術や化学療法等治療による血糖値への影響が大きく,ADL(activities of daily living)の変化に応じて糖尿病の治療目標を設定する.
71歳,男性.左肺扁平上皮癌に対し,抗PD-1(programmed cell death-1)抗体であるペムブロリズマブを4回投与され,初回投与4カ月後に免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)としてのACTH(adrenocorticotropic hormone)単独欠損症を発症した.ACTH単独欠損症は,重篤化すると副腎不全となり,生命を脅かすため,早期発見が求められる.しかし,免疫チェックポイント阻害薬投薬時における本疾患の効果的なスクリーニング法は確立されておらず,定期的な臨床検査及び臨床症状からの総合的判断力が求められる.
56歳,男性.イカとサバを摂取した後に全身の膨疹及び胸部絞扼感が出現し,救急要請となった.心電図で前胸部誘導のST上昇を認め,急性冠症候群を疑い,冠動脈造影を行ったところ,左前下行枝に90%狭窄を認めた.硝酸イソソルビドの冠動脈投与により,狭窄は改善を認めた.アニサキス特異的IgE(immunoglobulin E)抗体価が高値であり,アニサキスアレルギーに伴うKounis症候群と診断された.アレルギー治療により胸部症状は改善し,退院となった.
76歳,女性.嗄声及び呼吸困難にて当院を受診,両側声帯麻痺を認めた.また,随時血糖467 mg/dl,HbA1c(hemoglobin A1c)16.2%と高値であり,未治療の2型糖尿病患者であった.インスリングラルギン及びDPP(dipeptidyl peptidase)-4阻害薬による高血糖の是正により,約2週後には嗄声の改善を認めた.糖尿病性単神経障害では,動眼神経をはじめとした脳神経の麻痺が多く,反回神経の障害は稀である.糖尿病患者では,声帯麻痺が合併し得ることも念頭に置き,診療する必要がある.
現在,医療用漢方製剤は,内科医に限らず,多くの臨床医から処方されている.近年では,漢方薬の臨床試験もなされるようになり,機能性ディスペプシアに対する六君子湯,認知症の行動・心理症状に対する抑肝散の有用性等のエビデンスが蓄積されつつある.一方,漢方薬の副作用として,従来から知られていた偽アルドステロン症等に加えて,間質性肺炎,肝機能障害,腸間膜静脈硬化症等があることも認識されてきている.本稿では,エビデンスや副作用等に関する最新情報を交えて,内科診療における漢方の役割について概説する.
本来,precision medicineとは,生理学・生化学・画像検査に加えて,患者の生活習慣,ゲノム情報をはじめとした各種のオミックスデータを総合的に評価し,患者に最も適した医療を提供することである.本稿では,特にがんゲノム情報の有用性とその活用法に焦点をあて,造血器腫瘍臨床におけるプレシジョン医療について考察する.