急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は,急性腎不全(acute renal failure:ARF)に代わる新たな疾患概念として提唱された.ARFは長期的な生命予後,腎予後には影響しないと考えられていたが,近年,急性の軽微な腎機能障害が長期予後に大きく影響することが広く認識されるようになり,AKIの疾患概念が提唱され,多くの疫学研究が報告されてきた.AKIの疫学に関して,特に入院発症AKI(非ICU(intensive care unit)),ICU発症AKI,心臓手術後AKI,敗血症性AKI等について解説する.
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は,さまざまな臨床場面において有意に予後を悪化させるため,早期診断と適切な治療介入は治療成績向上に不可欠である.診断基準が確立され,新たな検査指標であるバイオマーカーも臨床応用されるに至ったが,新規治療薬の開発は未だ十分ではなく,血液浄化療法の至適な治療条件においても不明な点は多い.人工知能(artificial intelligence:AI)による発症予測等新たな技術を用いたAKI診療のさらなる改善が試みられている.
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は,主に敗血症あるいは多(他)臓器障害・病態の一部として併発することが多い.一方で,AKI自体も多(他)臓器に炎症性サイトカインや血行動態の変化等を介して機能障害を誘発することが知られている.もはやAKIは単一臓器の疾患概念ではなく,多(他)臓器を含めた双方向的な悪循環を形成する中心臓器として多数の基礎研究及び臨床上も認知されつつあり,これをAKIと多(他)臓器との間のcross-talk pathwayと呼ぶ.本稿では,腎臓と肺・心臓・肝臓のcross-talkを,臨床上重要なポイントを提示し解説していく.
薬剤性腎障害(drug-induced kidney injury:DKI)とは,「薬剤の投与により,新たに発症した腎障害,あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」と定義される.臨床現場では,治療目的で投与した薬剤がしばしば腎障害を引き起こす.薬剤により,障害のメカニズムや発症様式にある程度のパターンがあり,そのパターンを把握することは有益である.
一過性の急性虚血,血流低下による急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は,腎機能が回復した後,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)に移行しやすいことがさまざまな疫学研究で知られてきた.その分子メカニズムとして,尿細管間質に慢性的な炎症が持続すること,一過性の虚血障害によって受けた細胞内の変化が記憶され(hypoxic memory),ヒストン修飾やクロマチン立体構造等エピゲノムが変化すること,ミトコンドリアの機能不全,細胞のストレス応答不足等が考えられている.AKIによる障害のメカニズムを明らかにすることは,CKDの発症を抑制する新しい治療法につながる可能性がある.
onconephrologyとは,悪性腫瘍に関連して生じる腎障害あるいは悪性腫瘍を合併した腎障害患者に対してより良いケアを提供することを目的に生まれた新しいサブスペシャルティである.このなかでも,悪性腫瘍に関連する急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は頻度も高く,患者の予後やQOL(quality of life)に深刻な影響を及ぼす重要な領域である.今後のエビデンスの蓄積や予防法・治療法の向上のために腫瘍医・腎臓医が連携して取り組む必要がある.
critical care nephrologyとは,集中治療室(intensive care unit:ICU)でみられる重症腎疾患患者に対して集中治療医学と腎臓病学との集学的アプローチの必要性を強調したものである.ICUで問題となる敗血症性急性腎障害は,腎の構造的変化よりむしろ炎症による微小血管や尿細管の機能的変化を主体とする特徴的な腎血行動態や病態を示している.従って,腎の治療だけでなく,腎保護を意識した全身管理なくして予後改善は望めない.
感染症の重症化に伴って急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は高率に発症し,死亡リスクとなっている.新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)と敗血症に伴うAKIのクリニカルコースと病態は似ているが,一致しないところも明らかになってきている.特にCOVID-19でのAKIは,入院初期と1~2週後の2峰性に発症し,呼吸不全に伴うことがわかってきた.敗血症では,ダメージ関連分子パターンによる過剰炎症がAKIへ進展させる鍵となっている.
IgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)は,Mikulicz病,自己免疫疾患,間質性腎炎,前立腺炎,後腹膜線維症等多彩な疾患を含む病態で,今世紀に本邦から発信された興味深い疾患である.厚生労働省のIgG4関連疾患研究班は,2011年に世界で初めての診断基準であるIgG4関連疾患包括診断基準を発表した.これにより,この新疾患は広く世界に受け入れられ,世界中から多くの報告がなされた.しかし,実臨床においては,生検組織が得られない組織があること,血清IgG4(immunoglobulin G4)値や組織中IgG4陽性細胞数のカットオフ値に対する感度・特異度等の問題が生じてきた.そのため,厚生労働省IgG4関連疾患研究班は,IgG4関連疾患包括診断基準2011を改訂した,2020年 改訂 IgG4関連疾患包括診断基準を提唱する.改訂基準は,1)臨床的・放射線学的診断,2)血清学的診断,3)病理学的診断の3項目からなる.さらに,改訂された病理学的診断基準は,従来の2項目に加え,花筵様線維化と閉塞性静脈炎を含めた3項目から構成される.
62歳,男性.アルコール性肝硬変,門脈血栓症に対してダビガトランを約5年間内服していた.来院2週前より肉眼的血尿,1週前より間欠熱・労作時の息切れが出現し,採血で著明な腎機能障害と胸部CT(computed tomography)でびまん性のすりガラス影を認めた.膠原病・血管炎や感染症と鑑別を要したが,腎生検にて抗凝固薬関連腎症(anticoagulant-related nephropathy:ARN),臨床所見から肺胞出血と診断した.抗凝固薬を内服中の患者の肺腎症候群では,ARN及び肺胞出血を疑う必要がある.
77歳,女性.3週間続く発熱にて当院を受診した.著明な低補体血症を認め,血清IgG4(immunoglobulin G4)高値よりIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)を疑ったが,画像検査にて腫瘤性病変を指摘できなかった.しかしながら,18F-FDG-PET(fluorodeoxyglucose positron emission tomography)/CT(computed tomography)で肝門部に異常集積を認め,同部位の生検からIgG4関連硬化性胆管炎と診断した.グルココルチコイド治療を開始後,速やかに解熱し,低補体血症も改善した.低補体血症を呈する有熱性疾患の鑑別に,IgG4-RDは重要と思われた.加えて,有意な腫瘤性病変を認めないIgG4-RDの生検部位の決定に,18F-FDG-PET/CTが有用であった.
54歳,男性.1カ月続く発熱の精査目的に入院となった.腹部超音波検査と造影CT(computed tomography)で肝膿瘍と診断したが,同時に小腸内に異物を確認した.小腸内視鏡検査を施行し,全小腸を観察するも異物は認め得なかった.腹腔鏡下手術を行ったところ,小腸Meckel憩室に硬結を触知したため,小腸切除を行った.肝膿瘍の原因は,Meckel憩室への異物穿通と診断した.
閉塞性肺疾患の疾患概念の変遷は,時代による新規薬剤(気管支拡張薬,吸入ステロイド)の登場により変わってきたとも言えよう.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は呼吸機能検査所見が疾患の定義の主であるのに対し,気管支喘息は,気道可逆性,気道過敏性,気道炎症という点に主眼が置かれてきた.しかし,超高齢社会を迎え,また喫煙率の高い本邦では,実臨床において,両疾患のいずれかと悩む症例に遭遇し,喘息とCOPDのオーバーラップ(asthma and COPD overlap:ACO)と言う考え方も提唱された.一方,両疾患の病態が多様である故に,ACO自体も多様性であるとの理解から,最近は,両疾患の病態に立ち戻り,個々の患者それぞれにおける疾患形成までの道のりを把握することが重要であるという認識になっている.実臨床の最終目標は,それぞれの患者さんに合った最適の治療法を提供することであり,その上で,これまでの両疾患及び合併病態の歴史的背景を知ることは重要である.
冠動脈疾患に対して血行再建を行うことは,病態に即した本質的な治療方法である.この手段には,冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の2つがある.急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の患者においては,PCIによる血行再建の有効性は確立している.安定狭心症患者への血行再建としては,3枝病変や糖尿病合併患者等のハイリスク症例ではCABGの方が優れていると考えられる.薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)の導入により再狭窄が減少したことによりPCIの適応は拡大し,病変が左主幹部病変のみ,左主幹部病変+1枝病変であれば,PCIの成績はCABGに劣るものではないことも報告されている.International Study of Comparative Health Effectiveness with Medical and Invasive Approaches(ISCHEMIA)試験は,中等度から重度の虚血が証明された安定狭心症患者に対して,至適薬物治療の意義を示した.PCIまたはCABGの選択だけでなく,冠血行再建の前提として内科的治療の重要性を知る必要がある.