脳血管障害による二次性頭痛には,くも膜下出血,脳出血,動脈解離など緊急性の高い疾患が含まれており,対処が遅れると容易に生命に関わるため,最初に除外しなければならない疾患群である.まず病歴聴取にて頭痛の発症様式と頭痛の性状,随伴症状を聞き取ることが重要である.次に神経所見から病巣診断ならびに病態診断を行う.そしてこれらをもとに画像検査などから鑑別診断を行い,適切な治療を開始する必要がある.
感染症による二次性頭痛には頭蓋内感染症と全身性感染症によるものがある.髄膜炎や脳炎のような頭蓋内感染症では頭痛は重度で初発症状のことが多く,頭痛に加えて発熱,神経学的徴候,精神状態の変化が認められる場合はこれら頭蓋内感染症を念頭に置く.頭蓋内感染症は迅速な診断と早期の的確な治療開始が必要な神経救急疾患であるため,髄膜炎や脳炎が疑われる場合は診断と治療のプロセスを同時進行させることが重要である.
脳腫瘍による頭痛には,頭蓋内圧亢進と,腫瘍そのものあるいは脳の捩れによる痛覚感受性組織の牽引が関係している.その性状は非特異的で,ほとんどの例で他の頭痛と識別できる特徴はない.典型的なmorning headacheは稀である.初めての頭痛,進行する頭痛,嘔気,しびれなど他の症候の付随,悪性腫瘍の既往,頭痛持ち患者における頭痛の増悪時やパターン変化の際には画像検査が推奨される.
片頭痛は,Quality of life(QOL)を著しく低下させ得る「脳の病気」であり,我が国では約1,000万人もの患者がいる.急性期治療薬としてはトリプタン製剤が従来使用されており,2022年からはラスミジタンも加わった.予防療法については,2021年に登場したカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)関連抗体薬が著効し「人生が変わる」ような症例も経験する.片頭痛は緊張型頭痛と誤診されているケースも多いが,片頭痛と適切に診断し,片頭痛に特化した治療を提供していくことが重要である.
緊張型頭痛は,一次性頭痛の中で最も頻度が高い.一般集団における年間有病率は約20~30%,生涯有病率は30~78%である.頭痛は30分~7日間持続し,両側性のことが多く,圧迫感や締めつけ感が主体である.痛みは軽度~中等度で,日常的な動作により増悪しない.重度の悪心や嘔吐は伴わない.頭痛日数により,稀発反復性,頻発反復性,慢性に分類され,それぞれサブタイプとして,頭蓋周囲の圧痛の有無により細分類される.
群発頭痛は,一側性激痛頭痛発作に同側の流涙・結膜充血・鼻漏・鼻閉などの頭部副交感神経系の自律神経症状を伴うことを特徴とする一次性頭痛である.典型例では1~2時間持続する激痛発作が,連日同じ時間帯に1~2回/日,1~2カ月間出現する.頭痛発作が出現する期間を群発期と呼び,群発期では患者の生活は大きく障害される.治療は,ベラパミルとステロイド経口投与による予防療法と,スマトリプタン皮下注か高濃度酸素吸入による急性期療法を併用する.
薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛,medication-overuse headache:MOH)は,片頭痛や緊張型頭痛患者がトリプタンや鎮痛薬(NSAIDsなど)の急性期治療薬を過剰に使用することで,頭痛の頻度,重症度,持続時間が増加して慢性的に頭痛を起こしている状態である.MOHは,基礎にある頭痛の診断が困難になるとともに治療抵抗性となる.治療は原因薬剤の減量・中止であるが,予防薬などを効果的に使用して治療していくが,難渋する場合が多い.
国際頭痛分類第3版(International Classification of Headache Disorders 3rd edition:ICHD-3)1)には4.「その他の一次性頭痛疾患(other primary headache disorders)」と呼ばれるカテゴリーがある.一般に知名度の低い疾患群であるが,片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛などの三叉神経自律神経性頭痛(Trigeminal Autonomic Cephalalgias:TACs)以外の一次性頭痛が分類されている.これらは,頭痛の発生機序を考える上で興味深い疾患であるだけでなく,未解決の問題も包含する疾患として位置付けられている.
特発性拡張型心筋症の72歳,男性.左室駆出率20%,完全左脚ブロックであり,心房細動も合併していた.呼吸困難,倦怠感,食欲不振などの症状から低心拍出症候群が疑われ入院した.低Na血症が増悪し,尿所見は抗利尿ホルモン不適合分泌症候群パターンを示した.コルチゾール低値であり副腎不全と診断された.ヒドロコルチゾン内服で症状や低Na血症は改善し,薬物治療強化,肺静脈隔離術,心室再同期療法を施行され軽快退院した.
74歳男性,50歳頃から起立性低血圧や便秘などの自律神経症状が先行し,63歳頃から静止時振戦・筋強剛が出現しパーキンソン病の診断となり,その後認知機能障害と幻視が出現した.経過中にS状結腸捻転を繰り返し腹腔鏡下S状結腸切除術が施行され,神経叢にα-synuclein陽性レヴィー小体とα-synucleinの沈着を認めた.消化管におけるα-synuclein病理は自律神経障害,認知機能障害の進行と関連があるとされ重要な所見と考えられた.
33歳の女性.在宅勤務が増加していたところ,発熱,倦怠感,呼吸困難が出現し,胸部CTでは両肺びまん性に小葉中心性粒状影と肺底部にコンソリデーションを認めた.超音波式加湿器の使用歴から,加湿器肺が疑われた.患者血清と加湿器の残留水を用いて,沈降抗体検査とリンパ球刺激試験を行ったところ陽性であり,加湿器肺と診断した.気管支鏡検査は未施行であったが,非侵襲的に診断が可能であったため,報告する.
急性腎障害疑いとして婦人科より当科へ紹介を受けた2症例の報告である.両症例とも卵巣癌減量術後の維持療法としてオラパリブを投与中であった.投薬/休薬に関連する血清Cr値の可逆的な上昇であり,eGFRCysと乖離するeGFRCrの低下を認めたため,糸球体濾過量の低下ではないと推察された.血清Cr値による薬剤量調節は投与量不足を招くことから,不要な薬剤減量や中止をしないよう啓発が必要である.
ブルガダ症候群は,青壮年期の突然死の要因となる重要な致死性不整脈の一つであり,あらかじめ診断することは非常に重要である.現在,タイプ1ブルガダ型心電図で心電図診断が可能であるが,ブルガダ症候群類似の心電図との鑑別や,タイプ1ブルガダ型心電図が正常肋間で必ずしもとらえられないこと,心電図波形の日差変動があること,Naチャネル遮断薬を投与して初めて顕在化する症例もあることなど様々な診断を困難にしている要因がある.今回,ブルガダ型心電図とブルガダ症候群について,診断のポイントを実例を用いて述べていきたい.
成人スチル病は発熱,一過性皮疹,関節炎を主症状とする炎症性疾患である.成人発症スチル病は小児期発症の全身型若年性特発性関節炎に相当する16歳以上での成人発症例を指し,成人スチル病という場合には全身型若年性特発性関節炎の成人移行例も含む.主要3症状のほか咽頭痛や筋痛,リンパ節腫脹や肝脾腫なども認めることがある.検査では炎症所見のほか,血清フェリチン値やIL-18の著増を示すことが多い.注意すべき合併症はマクロファージ活性化症候群である.治療は糖質コルチコイドが中心となるが,メトトレキサートやカルシニューリン阻害薬の併用も治療抵抗性例では行われる.また近年抗IL-6受容体抗体トシリズマブも適応承認を得たことにより治療抵抗性例における有力な治療選択肢となった.