ワクチンは生体の持つ感染防御能である免疫応答を利用して感染・重症化を予防する働きを持つ.従来の剤型のワクチンは弱毒生ワクチンと不活化ワクチンに限定され,弱毒生ワクチンは野生株を継代して樹立され,不活化ワクチンとしてはトキソイド,全粒子不活化,精製蛋白ワクチンが製造されてきた.SARS-CoV-2が出現して1年足らずで核酸ベースのワクチンとしてmRNA,ウイルスベクターワクチンが開発され,各ワクチンの特徴について解説する.
高齢者肺炎球菌ワクチンは,莢膜ポリサッカライドワクチンからより免疫原性の高い多価肺炎球菌結合型ワクチンの時代に移行しつつある.国内の,2023年における成人侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)サーベイランスにおける,PCV15,PCV20及びPPSV23の血清型カバー率は30%,45%,45%であった.これまでの高齢者におけるPPSV23による定期接種率は20~40%程度と低いため,接種率の向上にむけての接種啓発が必要である.
インフルエンザの予防の基本はワクチンである.現行のインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり,65歳以上の高齢者においても1回の接種で抗体価の上昇がみられる.発症予防効果は限定的であるが,入院や死亡のリスクを軽減していると考えられている.副反応は比較的少なく安全なワクチンで,定期接種には公的な補助が行われている.今後,新たなワクチンも使用されるようになると思われる.
SARS-CoV-2に対するmRNAワクチンの開発から現在までの進展を概観する.ワクチンの作用機序,有効性,安全性を検討し,変異株への対応や5類感染症化後の戦略を論じる.また,副反応や接種頻度の問題,コロナ罹患後症状へのワクチンの効果も考察する.mRNAワクチンに加え,組み換えタンパクワクチンなど他のプラットフォームについても触れ,パンデミック対策におけるワクチンの重要性を再確認する.
成人のRSウイルス(Respiratory syncytial virus:RSV)ワクチンが,2024年から国内で使用可能になった.成人のRSV感染症は,安価で感度の良い検査がなく,その存在が過小評価されてきた.急性呼吸器症状を呈した高齢者ではRSV感染が原因で入院となることがある.RSVとインフルエンザの入院患者で重症度を比較すると,生命予後や人工呼吸器の使用頻度はほぼ同等であった.高齢者人口の多い日本で,RSVワクチンの普及が個人予防の観点で期待される.
HPV(ヒトパピローマウイルス)のうち粘膜型は子宮頸がん,肛門がん,中咽頭がんなどの原因ウイルスで,毎年全世界で70万人以上がHPV関連がん(90%が子宮頸がん)を発症し,罹患者は全がんの5%以上を占めている.HPVワクチンはHPV感染予防のためのワクチンで,日本では子宮頸がん予防目的に,性的活動期前の女性を対象に2009年に国内承認,2013年から定期接種化している.しかし定期接種化した同年には多彩な症状を呈した事例などの検証のため接種勧奨中止となり,以後約8年余りの積極的勧奨差し控え期間を経て2022年から勧奨が再開され,同時に一時的に差し控えられていた間に定期接種対象であったキャッチアップ世代にも2024年度末まで無料接種が進められている.同時に全国にHPV感染症の予防接種に関する相談支援・医療体制強化のための地域ブロック拠点病院事業が整備され自治体,医療機関などと連携して支援体制が整っている.
B型肝炎はウイルス感染後の重症化・慢性化に加え,治癒後も免疫抑制療法・化学療法に伴う再活性化が問題になる.不特定の血液・体液に接触する可能性のある人はワクチン接種による予防が望ましい.接種後多くの人はHBs抗体陽性となり免疫を獲得するが,加齢とともに抗体獲得率が低くなるため,追加接種や新たなワクチンの導入が検討されている.なお,一度免疫を獲得した場合には追加投与は原則として不要である.
麻疹は非常に感染力が強く,重篤な合併症を引き起こす可能性がある感染症である.日本では麻疹の流行を防ぐために,長年にわたり様々な予防接種対策が講じられてきた.ワクチンが1978年に定期接種へ導入されて以降,患者数は着実に減少し,現在では麻疹の排除状態が維持されている.一方,近年ではワクチン接種率の低下により再流行のリスクが高まっている.関係者が協力し,今後も高い接種率を維持することが重要となる.
水痘,帯状疱疹は合併症を伴うことがあり,免疫不全者等では致命的となりうる.水痘予防の乾燥弱毒生水痘ワクチンは1歳以上で2回の接種が望まれる.帯状疱疹は50歳以上,特に70歳以上で罹患が増える.帯状疱疹予防には50歳以上で乾燥弱毒生水痘ワクチン,乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを選択しうる.2023年6月から帯状疱疹発症リスクの高い18歳以上の免疫不全者等も乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを接種可能となった.
風疹は発熱,発疹,リンパ節腫脹を3主徴とするウイルス感染症で,飛沫感染,接触感染で伝播する.発疹出現前7日~出現後7日頃まで周りへの感染力がある.妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると,児が先天性風疹症候群を発症するリスクがある.日本で流行すると成人男性が多く罹患する.2019~2024年度は昭和37年(1962年)4月2日~昭和54年(1979年)4月1日生まれの男性を対象に,風疹第5期定期接種が実施されている.
90歳台,女性.発熱のため救急搬送され,体幹部CTで肝S4/8に多発する低吸収腫瘤と右肺中葉結節を認めた.血液培養からKlebsiella pneumoniae(K. pneumoniae)が検出され,string test陽性であることから敗血症性肺塞栓症を呈する過粘稠性K. pneumoniaeによる侵襲性肝膿瘍症候群と臨床診断した.抗菌薬治療と肝膿瘍に対して経皮経肝膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:PTAD)を行い救命することができた.侵襲性肝膿瘍症候群は死亡率が高く,適切な集学的治療を行う必要がある.
34歳,男性.潰瘍性大腸炎の定期通院時に血液検査で血小板減少を指摘された.血液検査と尿検査から全身性エリテマトーデス(SLE)の分類基準を満たしたが,臨床経過,リンパ節生検所見などよりTAFRO症候群と診断した.ステロイド治療とトシリズマブの投与により改善を認めた.SLEとTAFRO症候群は類似する点もあるが,治療が異なるため早期の適切な診断と治療介入が重要である.
スポーツを行う女性における重大な健康問題として,「スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)」が挙げられる.REDsはトップアスリートだけでなく,部活動を行う中高校生にも健康障害やパフォーマンス低下を引き起こす.国際オリンピック委員会は2023年にREDsを再定義し,利用可能エネルギー不足による生理的・心理的な機能低下とそれにともなうパフォーマンス低下の関連性を指摘している.REDsの予防には教育による正しい知識の提供が有効であり,アスリートのみならず指導者や保護者にも情報を共有する必要がある.REDsの治療は,食事によるエネルギー摂取量の増加が重要であり,特に糖質を含む食品からのエネルギー摂取が推奨されているが,最適な食事介入はまだ確立されておらず,症状の改善には課題が残る.医学分野のみならず,運動生理学やスポーツ栄養学の専門家と連携し,包括的にアプローチを行うことが必要である.