急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は冠動脈の高度狭窄や突然の閉塞により心筋が虚血,壊死に陥る疾患である.この疾患は初期対応が遅れると致命的となる可能性があるため,日常臨床においても常に念頭に置いておくべきである.急性冠症候群に対する急性期治療において冠動脈インターベンションを適切に行うことは非常に重要である.そのためには急性期の診断および治療方法,血行動態を安定化させるための機械的補助循環についての知識が不可欠である.
慢性冠症候群(chronic coronary syndrome:CCS)への血行再建は,症状が安定している場合,充分な共同意思決定を通じて方針が決定される.最新の進歩により経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の成績は顕著に向上している.それでも,血行再建後に冠動脈疾患の進行や不安定化を防ぐため,地域医療を含むシームレスな体制での至適内科治療が不可欠である.
冠動脈インターベンション治療後は,ステント血栓症予防のため,アスピリンとP2Y12阻害薬による抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が必要である.ステントの進化による血栓症の減少,長期DAPTに伴う出血イベント増加から,DAPT期間は短縮の方向にある.高出血リスク患者では1~3カ月の短期DAPT,高血栓リスク患者では3~12カ月のDAPT期間が推奨されており,患者リスクに応じた抗血栓療法が必要である.
末梢動脈疾患患者は,高齢化・糖尿病・慢性腎不全患者の増加に伴い実臨床現場でも急増している.診断は触診+ABI(足関節上腕血圧比測定)が基本となり,下肢虚血を有する場合はCTや血管エコーを用いて病変局在を同定する.治療に関しては,1)動脈硬化危険因子への介入,2)将来起こる可能性のある脳血管疾患に対する介入,3)症状の原因となる下肢動脈疾患に対する介入の3本柱である.今回これらの最新のトピックスと現状の課題に関して概説する.
大動脈瘤に対するカテーテル治療であるEVAR/TEVARは,その低い侵襲性と良好な初期成績から本邦で広く普及し,さらに大動脈瘤破裂や大動脈解離といった大動脈緊急症にも適応されるようになり,大動脈疾患診療には欠かせない地位を確立した.一方で近年になり遠隔期に発生する問題も浮き彫りになってきており,その対策が大きな課題となっている.
心房細動に対するカテーテルアブレーションは使用するデバイスの改良により,有効性や安全性が向上している.さらに,発症早期や心不全合併の心房細動におけるカテーテルアブレーションの予後改善効果が報告され,カテーテルアブレーションの適応が拡大してきている.内科医にとって心房細動は必ず遭遇する不整脈であり,カテーテルアブレーションの適応と周術期の管理を正しく理解しておく必要がある.
TAVI(経カテーテル大動脈弁植え込み術)は本邦において10年目を迎えた.当初は手術高リスクのみの適応であったが臨床試験の良好な結果を踏まえ,現在では解剖学的に適切であれば手術低リスクにも適応となった.適応拡大により現在のTAVI治療の目標は急性期から長期予後へと変わり,TAVI弁の耐久性,2回目の治療介入を念頭に置いて,初回から長期予後を考慮した治療戦略を立てることが重要である.
これまで手術でしか治療ができなかった構造的心疾患に対して,近年カテーテルによる低侵襲治療が広く応用されている.特に弁膜症疾患では手術リスクが上がる高齢で増加する傾向があり,低侵襲治療のニーズは高まっている.僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)へのカテーテル治療で最も臨床応用され,日本でも2018年から使用されているのがMitraClipⓇである.MitraClipⓇの適応は,有症候性の一次性および二次性重症MR(3+~4+)で左室駆出率≥20%であり,かつ一次性MRの場合は外科的開心術が困難な患者とされている.二次性MRに対するMitraClipⓇはガイドラインでクラスII aに位置付けられ,心不全治療デバイスとしての役割も期待されている.
59歳,男性.初発の心不全で当院を受診した.心エコー図検査で心肥大を認め,心筋生検でアミロイド沈着を認めた.遺伝子解析の結果Pro24Ser変異による遺伝性ATTRアミロイドーシスと診断された.Pro24Ser変異は稀であると報告されていたが,近年東海地方での報告が散見されており集積地の一つである可能性がある.また,Pro24Ser変異による遺伝性ATTRアミロイドーシスに対する治療のデータは未だ乏しいが,本症例のようにパチシランが有効な症例も存在すると考えられた.
57歳,男性.原因不明の肺胞出血の精査中に腹痛と食道胃粘膜の肥厚,食道胃壁外の多発液体貯留,既知の膵囊胞の増大を認めた.気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar Lavage Fluid:BALF)の検体で膵酵素を測定したところ異常高値を示した.肺胞出血の原因は縦隔内膵仮性囊胞と気管支の瘻孔形成であると考えられた.胃体部後壁の囊胞に対する超音波内視鏡下ドレナージによって状態は改善した.原因不明の肺胞出血の診断にBALFの膵酵素測定が有用であった.
70歳男性.関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の治療中にCRP高値が持続しメトトレキサートの増量,次いでフィルゴチニブへ変更されたが,発熱,頭痛,意識障害が出現した.髄液抗環状シトルリン化ペプチド(cyclic citrullinated peptides:CCP)抗体価,頭部造影MRI,脳生検病理からリウマチ性髄膜炎と診断し,ステロイド治療により症状は軽快した.リウマチ性髄膜炎はRAの既往,臨床症状や画像所見に加え,髄液抗CCP抗体価と抗CCP抗体価指数が診断,治療効果判定の一助となり得る.
“サルコペニア”とは,骨格筋量減少と筋力低下を意味し,その有病率の高さ,有害健康転帰への影響の大きさなどから,現在注目されている疾病の一つである.幾つかの国際的なワーキンググループによりサルコペニアの判定基準が報告されているが,我々はアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)において,アジア人用の診断基準を策定してきた.2014年より骨格筋量,握力,歩行速度などによりサルコペニアを判定することとしているが,2019年の改訂版において一般診療でも診断が可能なように修正した.対策方法としては,レジスタンス運動の実施とたんぱく質(アミノ酸)の摂取が推奨されており,これらにより骨格筋量増加,筋力増強,身体機能改善効果が得られることが示されている.今後,基礎研究・臨床研究の進展により,エビデンスに基づく適切なサルコペニアのマネジメントが実施されることが望まれる.
わが国では長年HbA1cに加えてインスリン療法中の患者を中心に血糖自己測定(Self-Monitoring of Blood Glucose:SMBG)による糖尿病の自己管理が行われてきた.しかし,HbA1cは過去の平均血糖値の指標であること,SMBGでは血糖の日内変動を点でしか評価できないことから,血糖変動を意識した血糖管理を行うには限界があった.そのような中,わが国では2009年に皮下間質液中のグルコース値(センサーグルコース値)を持続的に測定できる連続皮下ブドウ糖濃度測定器(continuous glucose monitoring:CGM)が実用化され,血糖変動を線で把握し,より正確に評価することが可能になった.近年はCGMのデータを活用したTime in rangeの概念が普及しつつあり,血糖変動を加味した血糖コントロール状況の評価も容易になった.また,リアルタイムCGMの開発に伴い高/低センサーグルコースアラート機能やその予測アラート機能,さらには低血糖前一時停止機能つきインスリンポンプなども登場し,より血糖変動の少ない安全かつ厳格な血糖管理を目指せるようになった.