1962年来,わが教室ではチタン酸バリウムを埋蔵した食道内心音用ピックアップを試作し,心房音の研究に利用して来たが,著者は心房音のみならず心雑音にも注目し,食道内心音図法を施行して同時に記録した胸壁心音図と比較し検討を加えた.対象は健常者40例を含む213例であり,試作した直径5mm,長径8mmのピックアップを嚥下せしめ,食道内各位置にて心音図を記録した.この様にして得られた心音図について, Q-I, Q-II, P-IV時間を計測し, P-IV時間は食道内にて短縮され, I, II, IV音の振幅も食道内心音図の方が大なる傾向にあつた.その他,雑音の型,雑音最強時間の相異について実例を示した.食道内心音図法は非観血的かつ簡便な方法であり,音響エネルギーが弱いためや,周囲臓器の関係で減衰が著明で胸壁にまで伝達し難い心音・心雑音を有する症例に有効であり,本法を応用して,心房中隔欠損の拡張期雑音などの血行動態の解明や僧帽弁膜症の手術適応,さらに,血管異常,大動脈炎症候群などの診断にきわめて有力な手がかりとなる事を認めた.またピックアップの改良に際し,その特性や心音伝播様式などの基礎的実験を行ない,胸壁では高周波数域の減衰が著しい傾向にあつた.
抄録全体を表示