脳血管障害後遺症の病態を代謝面から観察する目的で患者の血清乳酸脱水素酵素(LDH)のアイソザイム分析を行ない,各分画を活性絶対量(国際単位)により表わし,測定成績の検討を行なつた.心電図上,心筋傷害を示す患者では心電図正常な患者に比べ,陽極側のLDH
1気および総活性に有意の増加がみられた.これは酵素学的立場から,心筋傷害の虚血性心疾患としての意義を明らかにしたものであつて,リハビリテーションのジスク管理において心筋傷害を示す患者には特に注意を払わねばならないことを示したものである.また,心電図正常な患者を発作からの経過期間によつて分類し比較すると,発作後の経過の長い患者では発作後間もない患者に比べてLDH1に活性低下の傾向がみられた.心電図正常な患者と対照とを比較すると,患者にLDH
1 LDH
2, LDH
4および総活性の有意の低下がみられた.われわれは,心電図正常な患者におけるこれらの成績を,患者の病像や,従来からの骨格筋LDHにかんする知見と比較・検討して,患者の血清LDH活性の低下は,片麻痺に伴う骨格筋の萎縮によるものと考えた.血清LDH活性の測定は日常臨床に広く行なわれているがその基準となるべき健康時の血清LDHの由来はいまだ不明の点が多い.われわれの成績は複雑多彩な脳血管障害後遺症の病態の一面を酵素学的に明らかにしたと同時に,健康時の血清LDHのかなりの部分が骨格筋に由来することを示したものといえるであろう.
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