心臓鏡の方法と炭酸ガス注入による心肺動態は,内外において数少なくない研究である.最近細い柔軟性fiberscopeの開発により,装置の分野に一縷の光芒をもたらしたが,視野を得るための血液排除の方法は,まだ満足すべきものはない.著者は炭酸ガス注入による新しい非開胸下心臓鏡を試みた.本法による心内腔の観察は明確な像が得られ,心内操作も自由に行なえるが,炭酸ガス注入直後に出現する心室性期外収縮により房室弁は開放したままである.炭酸ガス注入による呼吸,循環動態は一過性の肺塞栓による急激な変化で,肺動脈圧上昇,血圧下降,過換気, hypercapnia, hypoxiaが出現するが,ほゞ1分以内に回復する.血圧の急激な下降は最初の2, 3秒は血流杜絶,その後に続く血圧下降は心拍出量低下のためである.心内に注入された炭酸ガスの運命は一部はHenryの法則により血中に溶解し, Pco
2上昇の要因となるが,大半は気体のままで肺胞に達し逆拡散により排出される.炭酸ガスの肺胞膜通過速度は著しく速いので,炭酸ガス排出は指数凾数的減衰曲線のパターンを呈し, 1分以内に排出される.本論文の結論は,炭酸ガス注入による新しい心臓鏡は心内腔の観察と操作が可能で,炭酸ガス心内注入の呼吸,循環系に対する影響が速かに消失し,危険性がないことを指摘した.
抄録全体を表示