実験的心筋硬塞ショック犬にnorepinephrine (NE), isoproterenol (ISO), dopamine (DA)の三種カテコールアミンを投与し,心原性ショック治療における効果を心機能,冠循環および心筋代謝面より比較検討した. NE, DAは平均大動脈圧を20mmHg上昇せしめる量, ISOは心拍数を20beats/min増加せしめる量を投与した. DAおよびISOの投与では,末梢血管抵抗は不変または軽減し,大動脈流量は増加したが, NEでは大動脈流量の増加はなく末梢血管抵抗のみ増加した.左室拡張終期圧はDA, ISOでは低下を, NEでは上昇した.冠血流増加作用はDA, ISOで認められたが, NEでは増加せず,冠血管抵抗が増加した. ISO投与時にのみ冠静脈洞血酸素分圧の増加と心筋redoxpotential (
ΔEh)の増加がみられ,心筋の好気性代謝を思わせた. DA, NEでは
ΔEhの低下傾向を示した.冠逆行血圧,冠逆行血圧/大動脈圧比は, ISOでは冠血流量の増加にもかかわらず低下した. NE, DAではともに上昇を示したが, DA投与時には冠血流量増加を伴う点に差異がある.これらのことより, ISOは正常冠血管,健常部心筋にのみ有効で,虚血心筋においては効果の発現はみられないと推測される. NEは臓器潅流圧の維持には有効であるが,同時に出現する虚血心に対する圧負荷の増大と心筋酸素供給の間のバランスを保ち難い. DAの有効性は,圧および容量負荷の増加に対応する心筋酸素供給を保ち,なおかつ病的冠血管,虚血心筋への作用もあわせ持つ点にある.
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