合併症を持たない慢性気管支炎患者では,スパイログラムの1秒率が正常範囲にあることが多いため,今まで肺機能障害はないか,あつても軽いものとして取り扱われてきた.しかし,今回のわたくしの成績によると, 40才以上のfield surveyにおける慢性気管支炎有症者では,健常例に比し, 1秒率(T)でこそ有意差を認めなかつたが, %MMFでは, 50才台で52.9±28.6%(健常65.9±19.2), 60才台で43.5±21.4%(健常57.7±19.7)と著しく低下し,それぞれ5%および1%の危険率で有意差があつた.しかし,病変の部位,重症度に対する弁別性は認められなかつた.次に,換気不良肺胞群(slow space)では,太い気管支に病変があれば,それがたとえ軽度で1秒率(T)は正常か正常に近くても,同年令の健常者(40%以下)に比して54±9%と増加し,さらに病変が高度になれば74±9%となり,慢性肺気腫と同程度にまで悪化していることが確認された.一方,末梢気管支に病変をもつ患者ではたとえ病変が高度でも,その増加は比較的軽度に止まつていた.また,近時注目を集めつつあるclosing volameの増加は,少なくとも慢性閉塞性肺疾患の範囲では,年令, 1秒率(T)に相関なく認められ,しかも,細気管支炎のみならず,気管支喘息,慢性肺気腫にも40%前後の症例に認められた.従つて,細気管支炎の診断には,ここ当分, 1秒率が正常な症例に対してのみ有意義と考えるか,あるいは拡大気管支造影など,他の検査法を併用して診断した方がよいと推定された.
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