日本内科学会雑誌
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66 巻, 6 号
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  • 杉野 信博
    1977 年 66 巻 6 号 p. 611-620
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    腎不全におけるK代謝異常は,腎のK排泄能の低下がもととなり,種々な全身性因子が関与する.しかしK排泄能は腎機能(糸球体〓過能を基準として)が低下しても可成り維持されていて,残存腎によるK処理の変化が起こるものと思われる.結果としてはK再吸収率を低下させ,極力Kバランスを残存腎により維持することになるが,尿細管のどの部位で,どの程度のK輸送の変化が起きているかは未だ明らかではない.この点を検討するために,ラットを用いて正常および実験的腎不全に際しての尿細管K濃度の変化を測定した.現在のところ腎機能30~40%のレベルでは遠位系,ことに集合管におけるK濃度比率(血漿と比べて)の上昇が現らかで,あたかも正常動物にK負荷を行なつた場合に似ている.次に末期慢性腎不全患者ではK排泄量の50%近くが腸管により行なわれることが少なくないが,腸管の代償性K排泄促進がどの部位で,どの程度のK輸送の変化をもつて起こるのかは余り知られていない.この点を検討するために腎の場合と同様に同種の,同程度の実験的腎不全ラットを用いて空腸,回腸,結腸のK輸送の変動を測定した.腎不全例でも小腸におけるK輸送能に著明な変化はみられないが,結腸においてはK平衡濃度,平衡電位の明らかな上昇が見られ, K分泌を促進しているものと思われる.かように腎不全に際しては末期に至るまで残存腎,腸管の代償作用によりKバランスを維持しているものと考えられる.
  • 単離法,性状, radioimmunoassay法による測定と臨床的意義
    高木 皇輝
    1977 年 66 巻 6 号 p. 621-632
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    ヒトフィブリノゲンをプラスミンを用いて分解した時に,最も初期段階に生じる断片の一つであるペプタイド“fragment A”を単離した. fragmeat Aの分子量は約22,500で,免疫電気泳動法でβ-領域に泳動された.アミノ酸組成はグリシン,セリン,スレオニン,プロリンの含有量が高く,疎水性アミノ酸の含有量がきわめて低い特徴がみられた. fragment Aは抗フィブリノゲン血清と反応せず, fragment Aの抗血清はフィブリノゲンと反応した. radioimmunoassay法による正常成人血清中のfragment A濃度は3.57±1.62μg/mlで,各種疾患についての測定ではとくに急性白血病,悪性腫瘍,脳血管障害,腎不全,全身性エリテマトーデス,敗血症例で高値が認められた.循環血中のfragment Aをとらえることによりin vivoにおけるfibrinogenolysis,またはfibrinolysisの病態生理を解明するのに役立つものと思われる.さらに線溶能の増減をきたす各種疾患においてその臨床的意義が高いものと思われる.
  • 長尾 忠美, 渡辺 克仁, 小松田 光真, 有森 茂
    1977 年 66 巻 6 号 p. 633-638
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    無菌システムが臨床医学に応用されるようになつてすでに十数年が経過し,内科治療においてもその有用性が認められているが,その運営上未解決の問題が多く残されている.これらの問題を解決する目的で,われわれは東海大学病院において無菌病棟を設置し,無菌室治療にかんする基礎的問題について検討し,興味ある結果を得た. volunteerは2人の健康な成人男子であり,症例1は31才,症例2は48才である.症例1は25時間,症例2は1週間,無菌室に入室した.医師,看護婦は無菌室内に入ることなく,前室よりビニールカーテン越しにゴム手袋を介して医療操作を行なつた.抗生物質の経口投与,吸入, chlorhexidineによる薬浴,無菌食の投与,無菌室への入室により腸内細菌は減少し,無菌室入室7日後には糞便,咽頭,身体表面から細菌は全く検出されなくなり,身体の常在細菌を極度に減少させることに成功した. vo1unteerが無菌環境下におかれることにより生ずる身体的変化について検討するため,理学的,尿,糞便検査,血液学的検査,血液化学検査を行なつたがとくに異常は認められなかつた.無菌室入室5日目より軽度の拘禁症状がみられたが,無菌室を退室しなければならないほど強いものではなく,精神的看護によりこれを克服することが出来た.
  • 第1編 血中カルシトニン
    安達 勇
    1977 年 66 巻 6 号 p. 639-647
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    ヒト・カルシトニン(hCT)のradioimmunoassayを確立し,検討を加えた.正常人における血中hCT値は50pg/ml以下で,甲状腺髄様癌(MCT)患者では高値を示し,その診断および術後の腫瘍の残存,転移,再発などの判定に有効であつた. MCT以外の各種腫瘍患者176例では13例が高値を示した.原発性副甲状腺機能亢進症12例はすべて20pg/ml以下で,悪性腫瘍に由来する高Ca血症で34%に,腎不全で37%に血中hCT値の上昇が認められた. Ca (Ca4・5mg/kg/10分),ガストリン(テトラガストリン4μg/kg/5分, 1μg/kg/one shot)による負荷試験では正常人は反応を示さなかつたのに対し, MCT例はすベて血中hCT値の上昇を認め, MCTの診断,術後再発,転移の有無の判定に有効であり,ことに前値が正常のMCT家族例の早期診断には欠くべからざる検査であつた.
  • 第2編腫瘍組織中カルシトニン
    安達 勇
    1977 年 66 巻 6 号 p. 648-654
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    多数の腫瘍組織からヒト・カルシトニン(hCT)を抽出してradioimmunoassayで測定し,検討を加えた.甲状腺髄様癌(MCT) 10例を含む89例の腫瘍組織中58例(65%)に, hCT産生が認められた.うちAPUD (amine precursor uptake and decarboxylation)系腫瘍に属するものが42例あり,うち41例(98%)にhCTの産生が証明されたが, non-APUD系腫瘍の47例では17例(36%)に証明されたにすぎなかつた.加えて61例の腫瘍について同一抽出物を用いhCT, ACTH, β-MSHを測定した結果, 32例にACTH, β-MSHの産生が証明された.このうち25例(78%)はhCT産生腫瘍であつた.このような成績はhCTの腫瘍産生が決して希でないこと,そしてhCTを産生する腫瘍はPearseらのいうAPUD系との間に深い関連のあることを示しており, hCTがAPUD系腫瘍のtumor markerになる可能性が示唆された.また, hCTが腫瘍で産生される場合には,問じくAPUD系のホルモンであるACTH, β-MSHをともに産生されていることが明らかにされた.
  • 宗像 純司, 金沢 正邦, 小川 剛, 水野 杏一, 後藤 泰亮, 早川 弘一
    1977 年 66 巻 6 号 p. 655-659
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    15才,男子,動悸,息切れにて受診.血圧120/0mmHg,両下肢浮腫,腱反射減弱・知覚鈍麻あり,脚気を疑い即日入院.静脈圧260mmH2O,心胸比46%,心室性期外収縮, Wenckebach周期と思われる不整脈,第2肺動脈音亢進,心尖部収縮期雑音,第3・4音存在.全血中vitamin B1量1.9μg/dl,尿中vitamin B1排泄量14.3γ/日,赤血球transketolase活性値26.1γ/ml, thiamine diphosphate効果48.3%により脚気と診断.心臓カテーテル法検査にて左室拡張終期圧23.5mmHg,右室拡張終期圧15,肺動脈平均圧20.5,平均肺動脈楔入圧13.5,心拍出量18l/分, 1回拍出量198ml,全末梢血管抵抗784dynes・sec・cm-5.心筋生検では心筋・間質に浮腫を認めた.入院後普通食の切り代えにて,上記症状消失.血圧,静脈圧も正常化.心胸比36%とさらに縮小.心音所見改善.全血中vitamin B1値その他改善.循環諸値も正常化あるいは正常に近い値に回復.この所見は従来云われている如く,まず全末梢血管抵抗が低下して心拍出量を増大させ,その結果心室拡張期圧上昇,すなわち心不全を招来したと解釈される.慢性アルコール中毒に併う脚気心の右心カテーテル法検査による循環動態の報告は欧米よりなされているが,純粋に食餌性の脚気心についての報告は少ない.わが国における脚気心は進歩した循環動態検索法によりほとんど調ベられていない.その意味で報告を行なつた.
  • 岩崎 忠昭, 谷口 幸子, 安富 栄生, 谷本 眞穂, 山本 忠生, 依藤 進, 宮本 巍, 清水 幸宏, 末広 茂文
    1977 年 66 巻 6 号 p. 660-665
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    術前診断は僧帽弁狭窄症で手術時に重複僧帽弁口症であつた症例である.重複僧帽弁口症は先天性のもので,今迄に世界で43例しか報告されていない希なものである.胎生期に腹側または背側心内膜床と外側心内膜症が癒合し,僧帽弁口が二分されたものである.症例は51才,女子.心尖部で輪転様拡張期雑音と僧帽弁開放音を聴取,左心カテーテルにて左房左室拡張期平均圧較差は5.4mmHg,心拍出量2.97l/min,弁口面積は1.54cm2を示し,僧帽弁狭窄症と診断し手術を施行,僧帽弁は前尖と後尖が前側方寄りで線維性に癒合して僧帽弁口が二分され,直径は10mmと15mmであつた.また後および前交連部で前尖と後尖の癒着があり,これを開大しbridge部は切断せずに手術を終えた.術後の心カテーテル検査では左房左室拡張期圧較差は1mmHgに減少し,心拍出量は3.28l/minと増加していた.左房造影では第1斜位で二つの弁口が造影された.心エコー図では術前は振幅15mm, DDRは21mm/sec,術後は振幅22mm, DDR 50mm/sec,拡張期に前尖部が二重エコーを示し,これはbridge部と前尖可動部のものであると推定した.長軸断層図および短軸断層図でも検討を加え,特有の所見を得た.
  • 渋谷 恒文, 湯地 重壬, 福島 勇, 岩切 清文, 宮本 成章
    1977 年 66 巻 6 号 p. 673-679
    発行日: 1977/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    先天性無痛覚症(congenital insensitivity to pain)は常染色体劣性遺伝と考えられ,諸外国ではすでに数十例の報告があるが,本邦ではまだ報告が少ない.最近われわれは本症と考えられる女性で,常染色体劣性遺伝である汎白皮症(oculocutaneous albinism)を合併した1例を経験した.症例は19才の盲学校生徒で,右殿部の腫脹と微熱を訴えて来院.家族歴では両親がいとこ結婚,同胞4人のうち3人がalbinismである,患者はこれ迄に四肢の骨折を繰り返したが,その際痛みを訴えず,骨接合術なども無麻酔で行なわれた.現症では四肢の関節の変形,両側指趾の変形と母指末節骨の破壊,舌の瘢痕と下顎の歯肉欠損を認めた.全身の痛覚,嗅覚の消失が見られ,自律神経機能検査で異常が認められたが,温度覚,触覚,および深部知覚は正常で,発汗,軸索反射,知能,脳波,染色体に異常は見出されず,神経伝導速度は正常であつた.殿部の筋生検所見はmyositisの診断で, CPK 85.1, LDH 682単位と高値を示したが, 2週間で治癒した.先天性無痛覚症は極めて希な遺伝性疾患であり,これに汎白皮症を合併した例は調べ得た範囲では世界の文献にまだ報告がみられないが,二つの疾患の偶然の合併であろうと考えられた,さらに筋炎を合併した先天性無痛覚症の例もまだ報告されていない.
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