心筋硬塞発作後,低Na血症,高血糖,高浸透圧血症による意識障害の発現とともに,視床下部-下垂体-甲状腺系機能異常を一過性に示した69才の糖尿病患者を報告した. Ht53%,血糖500mg/d1,血清浸透圧325mOxsm/kg・H
20,尿素窒素130mg/dl,血清Na 114mEq/
l, P 1.2mg/dlなどの異常値に加え,甲状腺系ではT
4 1.5μg/dl, T
3 37ng/dl, TSH測定感度以下であり,プロラクチンは240ng/mlと高値を示した.また理学的にも軽度の粘液水腫状態を認めた. T
3補充,ハイドロコーチゾン,補液とともにインスリン治療を施したところ,水・電解質異常は速やかに是正され,意識の回復が得られた.ショック状態で入院したが,その際の血中コーチゾールは42.5μg/dl, IRI 21μU/m1と高値を示した.本例にみられた一過性ショックの原因として,循環血漿量の減少,心拍出量の低下などによる心原性要素が考えられたが,膵炎, DIC潜在の関与も否定できなかつた. TRHに対しTSHは正常に反応し, TSH,プロラクチンの基礎値は経過とともに正常化した. 2年前,体調異常を訴えた際のTSH基礎値は低く, TRHに対しては今回同様良好なTSH反応が認められていた.以後の検索でLH, FSH, HGHはほぼ正常であることが確かめられ, X線像, CTスキャンの上で,視床下部-下垂体領域の器質的病変は否定された.本例では,心筋硬塞後の嘔吐反復による脱水や心原性ショックに基づく脳内殊に視床下部領域の循環障害が,一連の可逆性機能異常を発生させた要因と推測された.
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