症例は, 47才,男性,教員.主訴は,労作時息切れ,咳嗽,喀痰. 28才頃より慢性気管支炎と言われていたが,最近息切れが増強し受診した.理学的所見では,胸部で両下肺野後面に少数の捻髪音が聴かれ,軽度のばち状指趾が認められた.胸部写真では,左右両下肺野に淡い微細粒状影を,呼吸機能検査では,拘束性障害と拡散能力の低下を,動脈血ガス分析では,低酸素血症と過換気の状態を認めた.開胸肺生検により組織学的に肺胞蛋白症と診断された. L-シスチン内服で若干の改善が認められたが, Ramirez-Rらの方法に準じて病変の高度な左肺の肺洗浄を施行し,自覚的および他覚的症状は著明に改善された.肺洗浄液の分析では,蛋白と燐脂質は正常であり,燐脂質ではレシチンとスフィンゴミエリンが主であつた.レシチン画分では,パルミチン酸が高値を示し,洗浄液脂質の主成分はlung surfactantと近似していた.肺胞蛋白症は,血清とII型肺胞上皮細胞に由来する物質が,何らかの原因により肺胞クリアランス機構が障害されるため肺胞内に異常に蓄積し,さらに悪循環を形成するために生ずると考えられる.従来は死亡率がかなり高いとされたが,肺洗浄などの積極的な治療で著明な改善を期待できる疾患であるので,早期発見および治療が重要である.疑わしい症例に対しては,積極的に喀痰の分析,肺生検などの確診の得られる検査を行なう必要がある.
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