アルミノパラアミノサリチル酸カルシウム(PAS-Al)長期服用により生じた低リン(P)血症による骨軟化症の1例を報告する.症例は, 49才主婦,生来,牛乳不耐症である以外は,健康であつた. 1975年10月,肺結核症の診断をうけ, PAS-Al 10g/日, INH 0.4g/日, SM 1.0g 2回/週,の3者併用療法を開始した. 1977年2月より脱力,膝関節痛出現,しだいに全身の骨痛を訴えるようになり, PAS-Alによる骨軟化症を疑い1978年9月, PAS-Al服用を中止した.血液生化学検査にて, Pは1.7mg/dl, Ca 9.4mg/dl, alk-P-ase 128IU/
lであり,脛骨に偽骨折を認めた.服薬中丘後上記症状は改善し, 3カ月後,偽骨折は消失した.骨軟化症発症の原因について精査を行なつた. 1) Pの腸管よりの吸収および腎尿細管の再吸収(%TRP 90.7)は正常, 2) PAS-A1 (6.7g)とP (1.5g)の二重負荷試験により, Pの腸管よりの吸収は抑制される傾向にあつた. 3) PAS-Al (10g/日) 7日間連日投与により,血清Pは4.2mg/dl→2.8mg/dlと低下, alk-P-aseは, 90IU/
l→119IU/
lと上昇した. 4) PTH 0.3ng/ml以下, calcitonin 12.5pg/ml, 25 (OH) cholecalciferol llng/mlであつた.以上より,本症例は, PAS-A1が含む,水酸化アルミニウム分子により, Pの腸管からの吸収が抑制された結果生じた持続的な低P血症により,骨軟化症を発症したと考える.また従来の制酸剤による骨軟化症の報告例とも比較検討した.
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