本例は, IgG (Κ type) multiple myelomaにhyperviscosity syndromeを合併し,その神経症状として,意識障害とasterixisが出現した症例である. IgG multiple myelomaに,この様な意識障害の合併は極めて希であり,又, asterixisを呈した例は報告されていない.症例は64才の男性で,主訴が霧視と羞明である.現病歴は昭和50年に鼻出血があり,高血圧として治療を受けていた.昭和51年4月頃から,霧視,羞明に気付き,同年8月には眼科で角膜症の診断を受けた.同じ頃,高γ-globulin血症および尿蛋白を指摘され,同年9月当科に入院した.入院時現症は,軽度の眼瞼結膜貧血,角膜混濁,期外収縮を認め,神経学的には,手指振戦と,右Babinski反射陽性を認める以外特別な所見はなかつた。検査所見で,血沈の著明な亢進,中等度の正色素性貧血,血清蛋白の上昇およびγ-globulin分画の異常高値, IgG(Κ type) monoclonal gammopathy,骨髄像では約50%に骨髄腫細胞を認め,骨X線像でもpunched out lesionを認めた. IgG (Κ type) multiple myelomaと診断し, melphalan治療施行したが,出血傾向が出現したために様子観察していた所,次第に意識障害およびasterixisが出現し始めた.種々の検査でも意識障害の原因がつかめず, plasmaviscosityの上昇を認めたため, hyperviscosity syndromeによる神経症状と診断し, plasmapheresisを施行した所,上記神経症状の劇的な改善をみた.その後,肺炎等の合併で同患者は他界されたが,剖検はなされていない.
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