ヒト本態性高血圧の病因の一つとして,遺伝的な生体膜,特に心筋血管平滑筋膜におけるイオン透過性の亢進が,筋の過収縮をもたらし,その結果末梢血管抵抗が増加し,血圧が上昇することが,高血圧自然発症ラット(SHR)の研究より推測される.今回赤血球を用いて,赤血球内Na
+, K
+イオン濃度を測定し,以下の成績を得た.本態性高血圧症者の赤血球内ナトリウム濃度(RBC-Na
+)は高血圧の家族歴を有しない正常血圧者に比し有意に高く,またRBC-Na
+は収縮期血圧と弱い正相関を示した.細胞内Na
+濃度は細胞膜イオン透過性異常を反映し,本態性高血圧症の病因病態に関与することが示唆された. RBC-Na
+は男女差がなく,体重,年令と相関を示さなかつた.変換酵素抑制薬captoprilを1年以上単独投与した本態性高血圧症患者のRBC-Na
+は,未治療群と同様に正常血圧者群のそれより高く,臨床上用いられる治療量では, SHRこ投与した際みられた膜イオン透過性の改善を示さなかつた. estrogen製剤経口避妊薬服用中に高血圧を発症した女性群のRBC-Na
+およびRBC-Na
+/K
+は正常血圧にとどまつた服用女性群および服用していない正常血圧対象群に比し有意差はなかつた.片側腎摘後にDOCA-salt負荷により,高血圧を発症したratのRBC Na
+/K
+も非昇圧群に比し有意差を認めなかつた.
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