日本内科学会雑誌
Online ISSN : 1883-2083
Print ISSN : 0021-5384
ISSN-L : 0021-5384
70 巻, 6 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 阿部 薫
    1981 年 70 巻 6 号 p. 821-833
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    異所性ホルモン産生腫瘍が初めて発見されたのは20年前にすぎないが,以来多くの症例が興味ある臨床例として報告されている.しかし最近,臨床的には全くホルモン過剰の臨床症状,所見を示さないような例についても,腫瘍組織を抽出し,ホルモンの測定が積極的に行なわれた結果,ほとんどの腫瘍はまずホルモンを産生しており,現在では,ホルモン産生は腫瘍化に伴う普遍的な現象とさえ考えられている.そして臨床的には,明らかなホルモン過剰の症状,所見(異所性ホルモン症候群)を呈する例と,このようなものを全く認めない,無症状性異所性ホルモン産生腫瘍に分けて考えられている.腫瘍におけるホルモン産生がこの様に普遍的なものであるなら,次のようなことが考えられる.すなわち, (1)tumor markerになり得るかという問題に関しては,現在の測定法,感度では,血中ホルモン値が高い場合を除いてはtumor markerとして用いるのはまず無理である. (2)腫瘍性ホルモンと正常のものとの異同については,現在までの成績によれば,ポリペプチドは腫瘍性と正常のものでは変りがない.しかし, ACTH, LPHの代謝産物であるCLIP, β-MSHは正常では存在せず,腫瘍に特異的であり,測定が可能となれば勝れたtumor markerになり得ると考えられる. (3)腫瘍におけるホルモン産生は腫瘍細胞の持つ一つの性格と考えられるため,肺癌例について腫瘍のホルモン産生と患者の予後を検討したところ,ホルモン産生を示す腫瘍の予後は悪いという傾向が認められた.しかしこの問題についてはその他の種々の因子を含め,今後の詳細な検討が必要であろう.
  • 稲本 元, 猪 芳亮, 大澤 炯
    1981 年 70 巻 6 号 p. 834-840
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    腎不全患者では感染症が頻発する.そこで感染症の多発と患者の生体防御能の関係を明らかにする目的で,透析患者の結核症を対象として疫学的検討を行なつた.対象は全国161施設7,274名の透析患者で,そのうち結核患者は150名であつた.透析患者における結核罹患率,有病率,死亡率,致命率は一般住民と比べ著しく高く,男子ではそれぞれ12, 5, 26, 2倍であり,女子ではそれぞれ23, 13, 80, 4倍であつた.平均有病期間は透析患者で一般住民のおよそ半分と短かつた.これらの傾向は女子で著しく,一般住民の場合,男子で著しいのに比べ逆の結果であつた.年令毎の罹患率は一般住民と異なり,透析患者では若年者でも高かつた.結核症の発症は透析開始12ヵ月前頃から増加し,透析開始とともに驚くほど増加し,ことに開始後3ヵ月間が著しかつた.またこれら結核透析患者では結核の既往を有するものが多く,再発症の可能性が考えられた.結核症では一般感染症の場合と異なり,透析治療時の諸操作による汚染など外因による影響がないと考えられるので,以上の結果は透析患者における生体防御能の低下を表わしているものと考えられる.
  • 野村 憲和
    1981 年 70 巻 6 号 p. 841-849
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    うつ血性心不全でfurosemideを長期間投与している患者に, furosemide 40mgを静注し,その後6時間の経過を観察した.軽症群(NYHA II度)と重症群(NYHA III・IV度)において,尿中Na排泄量(123.8±35.8mEq対70.1±26.5mEq:P<0.01) (mean±SD),尿量(1125±273ml対786±262ml:P<0.05),尿中furosemide排泄量(28.26±2.50mg対23.99±0.79mg:P<0.02), furosemide腎クリアランス(75.2±16.1ml/m対42.9±12.1ml/m:P<0.001)で重症群が有意に小さかつた.又尿中furosemide排泄量, furosemide腎クリアランスと利尿効果とは正の相関があることが示唆された.重症群において, hydralazine 0.2mg/kg/BW静注併用の有無による, furosemide 40mg静注の利尿効果を検討した,併用により尿中Na排泄量は81.0±31.4mEqから126.9±44.2mEq (P<0.01),尿量は896±271mlから1326±359ml (P<0.001),尿中furosemide排泄量は23.58±2.18mgから26.90±2.48mg (P<0.01), furosemide腎クリアランスは47.9±13.5ml/mから62.1±19.5ml/m (P<0.01)と有意に増加した.重症心不全患者でのfurosemideとhydralazineの併用は有用と思われた.
  • 病理学的ならびに電気生理学的研究
    水入 苑生, 小原 武博, 森木 光司, 松下 肇顕, 平田 清文, 北沢 吉昭
    1981 年 70 巻 6 号 p. 850-859
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全における骨格筋障害の病態の解析を目的とし,非透析,末期慢性腎不全患者30例を対象として,筋生検,筋電図,末梢運動神経最大伝導速度(MCV)の諸検査を行ない,下記の結論を得た. 1)末期慢性腎不全患者30例中87%に骨格筋障害が存在し, 44%が神経原性変化を, 23%が筋原性変化を, 20%が両者が混在している変化を示した. 2)タイプII線維の選択的萎縮は,末期慢性腎不全では必ずしも特徴的所見ではなかつた. 3)筋生検と筋電図の異常所見の検出頻度はほぼ一致したが,これらの検査で異常が認められても臨床症状の認められない場合もあつた. 4) MCVの低下の有無は臨床症状の有無と一致しない場合があるばかりでなく,筋生検や筋電図における神経原性変化の有無とも一致しない場合も多かつた. 5)末期慢性腎不全では臨床的に近位筋の筋力低下あるいは筋萎縮を呈し,高CPK血を伴い,著明な電気生理学的変化と軽微な病理組織学的変化を示す骨格筋の筋原性変化の存在する場合のあることが確かめられた.慢性腎不全における骨格筋の筋原性変化は成因は不明ではあるが,機能異常を主体とし,軽微な形態学的変化を伴うものであると考えられた.
  • 星崎 東明, 福山 隆之, 友野 尚美
    1981 年 70 巻 6 号 p. 860-865
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    急性転化をおこしたと思われるB細胞型慢性リンパ性白血病(B-CLL)の1症例について報告する.症例は72才,男で,昭和52年末より脾腫を触れていたが放置,昭和53年8月より脾腫の増大を来したため同年12月1日入院した.リンパ節腫なく,巨脾をみとめ,貧血はなく,白血球数46000と増加し,このうち88%がリンパ球系細胞であつた.これらリンパ球のうち68%が幼若異型リンパ球であつた.この幼若リンパ球は,大型で,核が異型性を呈し,比較的クロマチンに富んでいるが,核小体を明瞭にみとめた.細胞の表面形質検査で,これらリンパ球細胞はIgMλの表面免疫グロブリンを保有しており, B cellのmonoclonalな増殖を示すCLLと診断した.経過は抗白血病薬の投与で一時効果をみとめるも漸次衰弱し,昭和55年1月7日死亡した.入院後1年1ヵ月余,脾腫に気づいてから約2年の経過であつた.本症例は,末梢血に出現した幼若異型リンパ球の形態から, Galtonらのいうprolymphocytic leukemiaとも考えられるが,病像からみてかなり以前からCLLに罹患していたことが予想され,初診時貧血なく,白血球,とくにリンパ球増加がそれほど著明でなく,一時的であるが治療に反応したこと,また,末梢血に小型成熟リンパ球と幼若異型リンパ球が混在し,両者の細胞表面形質が同一であることより,小型成熟リンパ球より幼若リンパ球への転化が考えられ, CLLの経過中に急性転化をおこしたものと考える.
  • 小山 恒, 嘉手川 裕司, 金山 正明, 斉藤 憲治, 古沢 新平
    1981 年 70 巻 6 号 p. 866-871
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    補体依存性の好中球オプソニン抗体陽性を示し,自己免疫性と考えられる慢性特発性好中球減少症の26才,男性例である. 16才より好中球減少を指摘されているが,易感染性は乏しい.輸血の既往および常用する薬物はない.脾腫は認められなかつた.入院時検査所見にて,末梢血好中球の著明な減少(500/cumm以下),単球の増加, r-globulinの上昇を認めた.抗核抗体,赤血球Coombs試験,抗血小板抗体はいずれも陰性であつた.骨髄所見では,好中球系は杆状核球まではむしろ増加していたが,分葉核球は著明に減少していた, prednisoloneの投与にて末梢血好中球数の増加を認めた. Pike & Robinson法によるCFU-C (colony forming cell in culture)は98±8/2×105 cellsと正常範囲内であり, Goldeらの液体培養法でも好中球の成熟障害は認められなかつた.患者のCFU-C抑制能は陰性で, colony stimulating factorは増加しており,好中球の減少は末梢における好中球の崩壊が原因と考えられた.好中球抗体は,凝集試験(Lalezari法)およびcytotoxicity試験では陰性であつたが,より感度のすぐれたBoxerらのオプソニン活性試験にて,補体添加により好中球オプソニン抗体を認めた.以上より,本症例は, 10年にわたり高度の好中球減少が持続している慢性特発性好中球減少症であり,好中球抗体および骨髄培養によるgranulopoiesisの検討より, Boxerらの自己免疫性好中球減少症の範疇に入る症例と考えられた.
  • 河崎 久美, 山本 忠生, 谷本 真穂, 河合 喜孝, 岩崎 忠昭, 依藤 進
    1981 年 70 巻 6 号 p. 872-880
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    心筋硬塞に合併した心室中隔破裂症は予後が悪く,早期診断が必要である.我々は7例の心筋硬塞に伴う中隔破裂症例に超音波を施行し,その診断および予後を知る上で有用であつたと考えられるため報告する.対象は兵庫医大第一内科に入院した年令59才から75才までの男子5例,女子2例で,内4例に断層エコーを施行し,全例に穿孔部を確認している.しかしMモードスキャンのみの3例にては穿孔部を確認しえなかつた.これらの症例において,心基部,心尖部での心室中隔および後壁の動き,又左房,左室および右室径,僧帽弁のDDR, D-E振幅,大動脈径,大動脈後壁の動きなどを計測し,検討した. 7例中心基部中隔および後壁が代償性にhyperkineticとなつているものが5例認められ,内4例が生存している.これらの症例は積極的に治療すれば十分救命しえるものと考えられる.大動脈後壁の動きも生存例で良く,死亡例にて低下していることから予後判定の一つの目安ではないかと思われる.穿孔部位は断層エコーにて,心窩部あるいは心尖部からの記録でのみ確認されており,この方面からの観察が重要と思われる.又断層エコーの有用性が考えられた.穿孔部位の大きさは手術で確認した実測値とほぼ等しく,超音波診断の確実性を裏づけている. Qp/Qsと予後との間に相関はなく,硬塞範囲の程度が予後を決定するものであると考えられた.
  • 片渕 律子, 井上 謙次郎, 白水 明代, 上田 一雄, 中島 敏郎, 尾前 照雄
    1981 年 70 巻 6 号 p. 881-887
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    多源性心室性期外収縮を頻発した甲状腺機能低下症の1例を報告する.症例は55才,女性. 20才の頃,甲状腺機能亢進症と診断され, 131I治療を受けた. 40才頃より徐々に,全身倦怠感,顔面浮腫などが出現し,精査および治療のため当科入院.理学的には皮膚の乾燥,顔面浮腫,眉毛脱落,アキレス腱反射の遅延を認め,甲状腺機能はT3, T4が低値, TSHが高値を示し,典型的な原発性甲状腺機能低下症の所見を呈していた.入院後,胸部圧迫感と共に毎分14~15におよぶ多源性心室性期外収縮を認めたため,各種抗不整脈薬でそのcontrolを試みたが効果なく,甲状腺ホルモン投与による甲状腺機能の回復と共に期外収縮頻度は激減した.我々はこの経過を3回にわたる24時間心電図に記録し,甲状腺ホルモン補充前には最高毎分約20の頻度で出現していた心室性期外収縮が,補充後には殆ど消失したことを証明した.甲状腺機能低下症に心室性頻拍を合併した例は希であり,これまでに数例の報告をみるにすぎず,また,頻発する多源性心室性期外収縮は,心室性頻拍の前段階として重要である.甲状腺機能低下症におけるこれら不整脈の発生機序については未だ不明の点が多く,これまで,洞性徐脈やQT時間延長による不応期の延長,心筋の代謝障害,冠動脈疾患などが考えられているが,心筋自体の病理学的変化もまた,その発症因子として重要ではないかと推測した.
  • 治田 精一, 笠貫 宏, 楠元 雅子, 佐藤 桂子, 大西 哲, 柴田 仁太郎, 登坂 正子, 近藤 瑞香, 広沢 弘七郎
    1981 年 70 巻 6 号 p. 888-894
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全,ヒス束内ブロックおよび右冠動脈口閉塞を合併した強直性脊椎炎の1例を報告した.症例は若年時発症の進行性脊椎運動制限と,繰り返すブドウ膜炎,特徴的な脊椎X線像,炎症反応より強直性脊椎炎と診断された54才,男性. 50才より易疲労感,下腿浮腫,狭心症が出現.入院時胸骨左縁に潅水様拡張期雑音と,心尖部に潅水様収縮期雑音を認め,肺野の湿性ラ音,肝の腫大,下腿浮腫があつた.心電図上両室肥大の所見と, I度およびII度房室ブロックを認め,ヒス束心電図でsplit His,ヒス束内Wenckebach型房室ブロックが記録された.また心血管造影で大動脈弁閉鎖不全と僧帽弁閉鎖不全を認め,選択的冠動脈撮影で右冠動脈口閉塞を認めた.従来の報告で,強直性脊椎炎の心病変は,上行大動脈壁からValsalva洞,心室中隔,僧帽弁への炎症波及が特徴的といわれている.本例ではヒス束内ブロックの所見から中隔やヒス束周辺の器質的障害が疑われ,また心血管造影で認めた大動脈弁,冠動脈口,僧帽弁の病変も,本疾患の炎症の波及の状態を推定させ,非常に興味深いと思われた.
  • 今村 健三郎, 八尾 恒良, 渕上 忠彦, 尾前 照雄, 池田 靖洋, 古賀 明俊, 岩下 明徳
    1981 年 70 巻 6 号 p. 895-902
    発行日: 1981/06/10
    公開日: 2008/06/12
    ジャーナル フリー
    クローン病における水腎症の合併は,我々が調べ得た範囲では,本邦にはその報告例を見ない.著者らは,水腎症を合併したクローン病の2例を経験したので報告する.症例1は21才,男性で,昭和45年に左下腹部痛が出現した.昭和48年,某病院にて潰瘍性大腸炎と診断され治療を受けていたが,持続する激しい腹痛のため,昭和52年6月,当科に入院した.大腸透視では, S状結腸に著明な狭窄,縦走潰瘍があり,下行結腸,横行結腸にも非連続性に病変が認められた.腎孟造影を施行した所,著しい左側本腎症が認められた.約2年半の経過中,左側水腎症の増悪に加え右側水腎症も発現した.昭和54年11月,罹患腸管の切除と直腸切断術がなされた.病理学的に全層姓炎症, fissuring ulcer,肉芽腫が認められ,クローン病と確診された.術後3ヵ月に行なわれた腎孟造影で,右側水腎症の所見は消失し,左側水腎症も改善していた.症例2は23才,男性で,昭和42年に右下腹部痛が出現した.昭和51年,某病院にてクローン病と診断されたが,昭和52年8月,精査および治療のため当科に入院した.小腸透視にて,回腸末端に全周性の管腔狭窄と,中部~下部小腸に縦走潰瘍が非連続性に認められた.腎孟造影では右側水腎症が認められた.昭和53年8月,罹患腸管の切除が行なわれ,病理学的検査にてクローン病と確診された.術後3ヵ月に行なわれた腎孟造影では水腎症の所見はなかつた.
feedback
Top