多源性心室性期外収縮を頻発した甲状腺機能低下症の1例を報告する.症例は55才,女性. 20才の頃,甲状腺機能亢進症と診断され,
131I治療を受けた. 40才頃より徐々に,全身倦怠感,顔面浮腫などが出現し,精査および治療のため当科入院.理学的には皮膚の乾燥,顔面浮腫,眉毛脱落,アキレス腱反射の遅延を認め,甲状腺機能はT
3, T
4が低値, TSHが高値を示し,典型的な原発性甲状腺機能低下症の所見を呈していた.入院後,胸部圧迫感と共に毎分14~15におよぶ多源性心室性期外収縮を認めたため,各種抗不整脈薬でそのcontrolを試みたが効果なく,甲状腺ホルモン投与による甲状腺機能の回復と共に期外収縮頻度は激減した.我々はこの経過を3回にわたる24時間心電図に記録し,甲状腺ホルモン補充前には最高毎分約20の頻度で出現していた心室性期外収縮が,補充後には殆ど消失したことを証明した.甲状腺機能低下症に心室性頻拍を合併した例は希であり,これまでに数例の報告をみるにすぎず,また,頻発する多源性心室性期外収縮は,心室性頻拍の前段階として重要である.甲状腺機能低下症におけるこれら不整脈の発生機序については未だ不明の点が多く,これまで,洞性徐脈やQT時間延長による不応期の延長,心筋の代謝障害,冠動脈疾患などが考えられているが,心筋自体の病理学的変化もまた,その発症因子として重要ではないかと推測した.
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